【心地好い暮らし】第2話 土鍋でご飯を炊く

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「ご飯、土鍋で炊かへん?」夫に突然そう提案されてから、もうすぐ1年になる。
うちは夫が元料理人ということもあり、家庭内での役割分担として「食」は彼の領域で、食にまつわる日々の諸々は、概ね彼の意思によって決定されている。もちろん共働きなので、0:10ということはなく「どちらかというと」ではあるが、得意な方がやった方がなにかと良いよねということで自然とそうなった。なので、うちのシェフが今後我が家のご飯は土鍋で炊きます。というなら「まぁいいかな」というのが最初の感想だった。

とはいえ、米は食事のベース、炊飯器廃止というのは少しやり過ぎじゃないの?私上手に炊けないかもだよ?と共存の提案はしてみたものの、大丈夫、基本俺が炊くし。ということで、あっさり土鍋一本となった。

そうして、うちに3合炊きの小さな土鍋が導入されたのが1年前。今では私も噴きこぼれでコンロを汚すこともなく、かなり上手に炊けるようになった。つきっきりで見てないといけないんじゃないかという心配も、何度かやってみたら気をつけないといけないタイミングは沸騰がピークになる1回だということが分かってきて、セットさえしておけばタイマーと湯気が「今ですよ」と教えてくれる。

やっぱり炊飯器と違いますか?という質問に正直に答えると、炊飯器も十分美味しい。でも、水加減がばっちりで良い感じのお焦げができたホカホカ土鍋ご飯の美しさ美味しさは、純粋にテンションが上がる。炊き立ての喜びというか、つやつやと輝くご飯に視覚的にも盛り上がる感じ。単純だけどそれは結構大切な要素であることは間違いないと思う。

夫にはかなわないが、私もきれいなお焦げがつくれるようになった頃、次はあれだなという気がしてきた。時々割烹などでお目にかかる、土鍋で作る鯛めしや季節の炊き込みご飯。湯気を立てる土鍋をそのまま食卓の中央にどんと持ち込み、おもむろに蓋を開け、彩りよく並んだ具材をほっこりゆっくりかき混ぜて、さぁどうぞ。この勢いでそういうのをささっとつくれるようになっておきたい。絶対に美味しいし!

と思っていたところに、北海道の母親から鮭が半身ほども届いた。それはそれは見事な切り身で、あらゆる方法で美味しく頂いたが、それでも少し残ってしまった。あぁこれは、今こそやってみるべきではないのか、鮭ときのこの土鍋ご飯を!ということで、ちょうど撮影で我が家を使うという日に満を持してチャレンジしてみた。洗って浸水させたお米をざっと土鍋に投入し、お出汁を入れたら醤油・酒・塩と砂糖、上にきのこと鮭を並べるだけ。鮭は臭みがでると残念なので軽く焼いて、それだけが下ごしらえと言えば下ごしらえ。

結果。初挑戦でも非常に美味しくできました。撮影準備でお腹も減って、疲れてきた頃というのもあったと思うけれど、期待していた歓声も上がり、あっという間になくなってしまった。
炊飯時間は約30分。仕込みをいれても1時間もかからない。

道具を使いこなすというとハードル高いなと感じるけれど、やってみると意外とできたり、褒められて嬉しかったり。これくらいならできるかなと始めた些細なことが、知らなかった愉しみを教えてくれる。

土鍋ご飯、興味あるけど難しそう。私もそう思っていましたが、案ずるより産むがやすし。少し世界が広がります。美味しいものが満載の秋、機会があればぜひ。


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※文中で使用している道具は、「萬古焼の万能土鍋 白 大」になります。

書き手 :千石あや




この連載は、暮らしの中のさまざまな家仕事に向き合いながら「心地好い暮らし」について考えていくエッセイです。
次回もお楽しみに。

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