久留米絣の織元・坂田織物が織りなす日常にまとえる上質な羽織もの

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2022年3月30日。久留米絣の新しいブランド「sakata」がお目見えした。

折タグにも久留米絣を使用。織元ゆえの贅沢さ(展示会「大日本市」で撮影)

用意されたのは伝統的な久留米絣をベースにしながら、日常づかいの気軽さをまとう“羽織もの”。ショートとロングの2タイプを、アースカラーをベースにした8つの柄で展開しています。

春夏に使えそうな軽やかなデザイン(展示会「大日本市」で撮影)
無地からストライプまで8つの柄がある(展示会「大日本市」で撮影)

ふと、思う。

これ、久留米絣なんだ、と。久留米絣というと藍色の生地に白い文様が浮き上がる、昔ながらの風情を連想するけれど、ここに並ぶ商品は、いずれもこれまでの雰囲気とは異なる軽やかな趣をたたえていました。

昔ながらの久留米絣の模様(提供:坂田織物)

つくり手は、福岡県八女郡にある「坂田織物」。1948年の創業以来、久留米絣の伝統を受け継ぎながら、常にその魅力を現代に残し、可能性を広げるべく奔走する織元です。

福岡県八女郡広川町の本社

そんな坂田織物が中川政七商店を経営再生支援に迎えて、表現したかったこと、新ブランド「sakata」を通じて伝えたいことは何なのでしょう。

自分たちの強みは何なのか?

「新しいブランドを立ち上げた背景には、久留米絣という素材の良さをより多くの人に知ってもらいたい、という想いがあります」

そう話すのは3代目の坂田和生さん。

大手アパレルブランドに勤めた後、家業である坂田織物に入社。2017年にはニューヨーク進出するなど、常にチャレンジを続ける。一時はお笑い芸人を目指したこともあるとか

久留米絣は、夏は涼しく冬は暖かいという機能性の持ち主。また一着ごとに少しずつ異なる独特の柔らかな風合いは、着れば着るほど、洗えば洗うほどに増し、長く着るほど着心地がさらに良くなっていくという魅力があります。

「伝統工芸に注目が集まり、久留米絣の良さが見直されつつあるといっても、絣文化の縮小傾向はすぐには止まらない。さらには昨今の感染症によって状況が停滞しつつありましたし、このまま手をこまねいていても、何も変わらないんです」

むしろ停滞している今だからこそ、進む手立てを考えるチャンスと捉えた坂田さんは、絣の歴史的背景や久留米絣にまつわる技術や知恵、日本における絣文化などを徹底的に調べ直したといいます。絣づくりに携わりはじめて20年。なのに「知らないことばかりで驚いた」とか。

そして、見えてきたのは自分たちの強みーー「久留米絣という素材をつくれる」という、当たり前だけど、忘れてしまいがちな大事な事実でした。

均一の技術で生まれる 不均一な美しさ

久留米絣とは福岡県南部の筑後地方一帯でつくられる織物のこと。日本三大絣の一つとして1957年には国の重要無形文化財に指定されました。坂田さんは、2020年重要無形文化財技術伝承者でもあります。

その製造工程は、なんと30以上。世界的に見ても驚くほど複雑な工程を要するといいます。

横糸となる緯巻き(ぬきまき)づくり一つとっても、職人技が必要

柄のデザインを行う図案づくりにはじまり、経糸(たて糸)と緯糸(ぬき糸。横糸のこと)の準備、染色などすべての工程おいて職人技が必要となるけれど、なかでも久留米絣の個性を決める一番の特徴は「くくり」という工程。

そもそも“絣”とはあらかじめ染め分けた(先染めした)糸を使ってつくる織物のこと。染め分け方によって、さまざまな文様を描くことができます。

「その染め分けをするために不可欠な技法であり、デザイン画に従って柄で表現したい場所を糸で縛るのがくくり。くくった部分には染色時に色がつかないため、ほどいたときに模様となって表れるんです」

図案に沿って、染めたくない部分に糸を巻きつける

染め分けにはほかにも、板に糸を巻きつける板染めや、糸に直接染料をすり込む捺染(なっせん)という方法があるけれど、「くくりによって染め分けたものは、より繊細で細かい文様を表現することができる」のだそう。

緻密にくくり、きっちりと染め分ける。均一に行うべき、この高い技術こそが久留米絣の要となるのです。

「でもね」と坂田さん。

昔ながらの久留米絣。独特のかすれ具合が美しい

「いくら均一な技術で図面通りにくくっても、糸って伸び縮みするでしょう。糸の強度やくくるときの力加減、染料の染み込み具合などにも影響されて、ところどころ不均一になってしまうんですが、これこそが大事なところ。久留米絣独特のかすれやゆらぎといった、いわば不均一な美しさが表れる。プリントなどでは決して表現することのできない、豊かな風情が生まれるんです」

捨てていた残糸が新たな個性を育む副産物に

新しい商品づくりを進めるなかでカギになったのは、そんなくくりの工程で使う“くくり糸”でした。

「くくり糸はあくまで染色する前の糸を縛るための道具。これまでは使用後の大半を処分していたんです」

途中で切れたりしては染色の妨げとなって美しい文様が描けない。くくり糸にはギュッと縛ることのできる太さと強度のある、丈夫な糸を採用していた

「でも、くくり糸がある=久留米絣屋の証拠だな、と。くくり糸は久留米絣が描く不均一な美しさの象徴のようなものだから、これを生地に織り込むことで、久留米絣という素材そのものの個性や魅力をより多くの人に伝えられるのでは、と思ったんです」

織物屋の強みは「素材をつくれる」こと。伝統技をきちんと踏まえつつ、生地の質感を多様にアレンジしてつくり変えることができるのです。

あくまで道具として扱われていた糸が、織り糸として蘇ることに

一方で、伝統にあえて従わなかった部分も。

久留米絣は紺と白、黒と白といった模様のコントラストがバチッとしているのが美しいとされてきました。

「それはそれで美しいんですが、現代人からしたらどこか民芸調のイメージもぬぐえない。だから今回はアースカラーをテーマにして、ベースの色に柄が溶け込むような模様を採用することにしたんです。昔ながらのはっきりとした染め分けではなく、久留米絣の可能性を広げるため、あえて、これまでにない曖昧さを表現しています」

マス見本。これまでの久留米絣にはなかったナチュラルな色使いも「sakata」ならでは

経糸と緯糸の割合や織りの密度などを調整しながら、ベースの色を決める。そして捨てられるはずだったくくり糸を撚り直して、染め直したり、ときにはブリーチをかけて、ベースの生地に合う織り糸に仕上げていく。

こうして久留米絣をベースとしながら、絣の新しい表現に挑戦した、これまでにない風合いの久留米絣が誕生しました。

生地一つ一つにはレインストライプ、ブラシチェックといった独特の名前が

なぜ、日常着に?
「着るほどに肌に馴染むから」。

新しい生地づくりに挑戦する「sakata」が、第一弾として提案するのは、くくり糸を織り込んだ久留米絣で仕立てた上質な日常着。

「絹を使った紬などが“ハレ”の着物なのに対して、主に木綿でつくられる久留米絣は“ケ”の日常着。着れば着るほど肌の馴染みも良くなり、普段着として活躍する丈夫さも兼ね備えています」

織る糸の密度を変えることで柔らかくしたり、厚みを出したり(展示会「大日本市」で撮影)

生地にはさらりとしたシャツ生地や、少し厚みのある生地の2種類を用意。

場所や性別、体型、年齢を選ばず、久留米絣という概念も含めて、あらゆる枠組みを取っ払いたいという想いから、ゆったりとしたシンプルなデザインを採用。着物を連想させる長い襟が特徴の“羽織もの”が誕生しました。

表裏のない絣の良さを生かし、裏地はついていない。左/ロングタイプ、右/ショートタイプ(提供:坂田織物)
シンプルな「レインストライプ」は、柄物にも合わせやすそう(提供:坂田織物)
爽やかで大胆な「ブラシチェックブルーゴールド」(提供:坂田織物)

たとえば、白いTシャツの上にさっと羽織るだけで様になるし、ジーンズやシンプルなワンピースに合わせればただそれだけで粋な装いに早変わり。伝統のある久留米絣を気軽に着こなすことのできる日常って、ちょっと格好いい……ですよね。

日本の絣文化を世界へ

「sakata」の取り組みはファッションにとどまりません。

「久留米絣は洋服に使えることはもちろん、日常生活を彩るインテリアなどにも多彩に使えるファブリック。久留米絣の可能性を追求しながら、現代人の暮らしをより豊かにする提案をしていきたい」

製品をつくることはもちろん、久留米絣の製造を見学できるオープンファクトリー、産地ならではの使いこなしが体験できるカフェ、「ゆくゆくは久留米絣のテーマパークをつくりたい」と坂田さんは嬉しそうに語ります。

「世界に日本の絣文化を広めたい」と坂田さん。

「さらに言えば、久留米絣だけでなく、日本各地で独自に発展してきた絣の文化を、世界中に伝えていきたいですね。絣文化の底上げをしていくことが、結局は、僕たちの生き残る大事なカギになると思うから」

「sakata」の挑戦はとてつもなく大きく、でも、確実に前に進んでいました。


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<取材協力>
有限会社坂田織物

福岡県八女郡広川町長延602
http://sakataorimono.com/

文:葛山あかね
写真:藤本幸一郎(「大日本市」撮影 中里 楓)

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