職人の道具。鎚起銅器づくりに欠かせない、200種類の相棒たち

エリア
タグ
燕鎚起銅器の職人

工芸を支える職人の愛用品を紹介する「わたしの相棒」。

普段は注目を浴びることが少ない「職人の道具」にスポットを当て、道具への想いやエピソードを伺っていきます。

今回は燕市で200年の歴史を持つ鎚起銅器(ついきどうき)の老舗である「玉川堂」の職人、細野五郎さんにお話を伺いました。

細野さんの「わたしの相棒」は「鳥口(とりくち)」。ほとんどのかたが見たこともない道具だと思いますが、鎚起銅器には無くてはならない特別な愛用品なんです。

200種類を使い分ける、職人の相棒

「こうやって上がり盤にはめると鳥のくちばしみたいに見えるだろ?だから鳥口って言うんだ」

鳥口とは銅器を引っ掛ける鉄の棒のことで、つくる器の形状や大きさによって使い分けるそうです。

どっしりとした存在感を放つ厚さ40センチメートル程もあるケヤキの塊で出来た上がり盤、その表面には様々な大きさの角穴が掘られていて、その穴に鳥口を差し込みます。穴と鳥口の隙間に留木を噛ませて固定したら、先端の平たい部分に椀型になった銅器を引っ掛けて、金槌で丁寧に叩きます。

何度も叩きながら銅器の形を整え、表面に独特の模様をつけていきます。ここまでが鳥口を使った鎚起銅器づくりの基本の流れです。

これが鳥口、確かに鳥のくちばしのよう。先端に銅器を掛け打つための突起や曲線が特徴的です
これが鳥口、確かに鳥のくちばしのよう。先端に銅器を掛け打つための突起や曲線が特徴的です

「昔は上がり盤の上で胡座なんかかけなかったんだよ。親方が厳しくて怒られちゃうから。何時間も座って打つもんで腰痛くてさ、今では長い時間集中するために胡座で打ってるよ」

18歳の頃から47年間鎚起職人一筋で生きてきた細野さんは、そう言って笑います。確かに硬い木の上に座り、背中を丸めて銅器を打つ姿勢は、なるほど腰への負担も大きそうです。

玉川堂の歴史とともに歩んできた職人から見て、昔と今では工房の雰囲気も仕事がしやすいように変わってきたとのこと。何度も何度も丹念に打つことで形をつくる鎚起銅器では、長時間根気強く座って仕事に集中できることがとても大切。一番仕事がしやすい姿勢は職人ごとに違うようで、細野さんのように胡座で座る人もいれば、床に座って背筋を伸ばし目線に近いところで銅器を打つ職人の姿も見られました。

上がり盤の上に座布団を敷き、胡座で腰への負担を抑えながら仕事に集中します
上がり盤の上に座布団を敷き、胡座で腰への負担を抑えながら仕事に集中します

「ここには鳥口がだいたい200種類もあって。例えば湯沸かしを1つ打つにも、だいたい20本くらいの鳥口を使い分けるんだ」

鎚起銅器は全ての技術を習得するのに20〜30年ほどかかると言われています。新しく来た職人もはじめは鳥口の数の多さに驚くそうですが、つくりたい銅器の形に整えるためにそれだけの数の形の違う鳥口が必要なことを、その修行期間の中で体で理解できるようになるそうです。

「来たばっかりの時はこんなにあっても仕方ねえって思ったけど、それぞれ顔が違うし、細いところとか、角度をつけたいところとか、器の表現を細かく分けるためにやっぱり必要なんだよな」

この200種類ある鳥口は全て職人たちが手直しして受け継いできたものだそうで、突起の形状や曲線の描き方が様々です。それぞれに個性があり、数え切れないほどの銅器づくりを支えてきた、その全てが欠かすことができない大切な道具。鎚起職人全ての職人の相棒として、ずっと寄り添い銅器づくりを支えてきたのですね。

叩く場所やつくる形状によって鳥口を選び、20本余りを使い分けながら仕上げていきます
叩く場所やつくる形状によって鳥口を選び、20本余りを使い分けながら仕上げていきます

「鳥口の手入れはほとんどしてないな。でもさ、使わないから道具は錆びるんだよ、毎日のように使っていれば道具も磨かれるんだって」

そう言い残してお昼休みに入っていった細野さん。道具は使い続けることで磨かれる。私たちが生活の中で道具と向き合う時にも大切にしたい、素敵な言葉です。

一つ一つが個性的でその全てが美しい玉川堂の銅器を支えていたのは、200種類もある縁の下の力持ち、鳥口という相棒でした。

燕鎚起銅器に関する詳しい記事はこちら

文:庄司賢吾
写真:神宮巨樹

*こちらは、2016年11月24日の記事を再編集して公開しました

関連の特集