この夏は、涼しげな信楽焼の「線香鉢」を窓際に

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きっぱりとした晒の白や漆塗りの深い赤のように、日用の道具の中には、その素材、製法だからこそ表せる美しい色があります。その色はどうやって生み出されるのか?なぜその色なのか?色から見えてくる物語を読み解きます。

火を守る、線香鉢の海鼠釉

涼しげな青い線香鉢。日本六古窯のひとつに数えられる滋賀県甲賀市の信楽で作られたものです。実はこの青色、ひと昔前の日本ではある冬の暖房器具を連想させる色でした。今日は線香鉢に隠された青色の秘密を追ってみましょう。

古代日本語に登場する4色のひとつ、青。好きな色に挙げる人も多いと思います。空や海を連想させ、「青葉」など生き生きと若々しい印象も。実際に「青」という漢字の原型は、生い茂る草木の色を表すそうです。

火鉢の産地、信楽でつくられた線香鉢

写真の線香鉢の産地、信楽は、鎌倉時代に焼きものづくりが始まったと言われます。信楽焼といえばたぬきの置物で有名ですが、実は大物だけでなく茶器や徳利、植木鉢などの小物まで幅広くものづくりがされています。

室町時代後期から江戸の中頃までは、その素朴な風情が茶人に好まれて茶碗や花入れなどのお茶道具として人気を集めた時代もあったそうです。

信楽焼に「青」が登場するのは、お茶道具の製造が落ち着き、釉薬の研究が進んだ明治に入ってから。信楽焼の特徴である耐火性を生かして生産が盛んになったのが、「火鉢」です。

この火鉢に施されていたのが、深い青色の釉薬「海鼠釉( なまこゆう )」。あの海の生き物、海鼠から名前をとった、ユニークな名付けの釉薬です。

見た目にはかなりグロテスクな海鼠ですが、その地肌が海鼠釉を焼いた時に現れる流紋や斑紋と似ていることからこの名がついたそうです。ちなみに海鼠は赤海鼠、青海鼠と色の種類がいくつかあり、中でも青海鼠の色の鮮やかなものは、海鼠釉の発色に似ています。

信楽焼の火鉢は昭和30年代までなんと全国シェアの80%を占めていたとのこと。出荷数が増えるとともに、火鉢とその産地である信楽、色としての海鼠釉がセットになって認知され、海鼠釉は信楽を代表する色として広まっていきました。

青は水を連想させる色です。火を起こす火鉢に海の生き物から名前をとった海鼠釉が施されたのは、火事などを防ぐまじないの意味もあったのだろうか、とつい想像を働かせてしまいます。

今ではほとんど見かけなくなった火鉢。その耐火性を夏に生かして生まれたのが、信楽焼の線香鉢です。かつては冬の憩いの象徴だった深い青色を、夏に涼しく楽しんでみるのもいいかもしれません。

<掲載商品>
信楽焼の線香鉢


文・写真:尾島可奈子

※こちらは、2017年7月9日の記事を再編集して公開しました。

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