「お箸は5つのポイントで選ぶ」中川政七商店デザイナーが気づいた使いやすさの決め手
エリア
食卓に欠かせない道具、お箸。色や形、素材、太さ (持ち手 / 先端) 、かたち (持ち手 / 先端) 、重さなど様々ですが、みなさんはお箸をどうやって選んでいますか?
今日は、一人のデザイナーが考え抜いた「本当に使いやすいお箸ってなんだろう?」と、その答えとして生まれた新しいお箸のお話です。お箸の選び方に迷っている人は、きっと参考になるはず!
お箸選びの基準を求めて
「世の中のさまざまなお箸を調べてみると、お箸選びの基準は不明確なものでした。大手百貨店や有名なお店にも行ってみましたが『これぞ!』というベストの選び方は存在しません。つまり、実際に選ぶ人も何がいいかわからないのでは?という考えに至りました」
そう語るのは、中川政七商店のデザイナー渡瀬聡志 (わたせ・さとし) さん。
温故知新の精神をもち、長年使えてなおかつ現在にとってあるべき姿の商品を開発する中川政七商店。定番商品であるお箸を改めて見つめてみた渡瀬さんは、自分にぴったりのお箸を誰もが選べる基準探しを始めました。
「長さ」が基準と言うけれど‥‥
調べていくと、世のお箸屋さんが唱えるお箸選びの基準として「長さ」という考え方があることにたどり着いた渡瀬さん。
親指と人差し指を直角に広げ、その両指を結んだ長さを「一咫 (ひとあた) 」といいます。この1.5倍にあたる、「ひとあた半」が基準のひとつになります。
ただ、この「ひとあた半」で選んだ長さのお箸が渡瀬さんにはフィットしなかったのだそう。
「大まかな目安として捉えることはできるけれど、あまりしっくり来なかった。その他にも素材、塗り‥‥など、様々な要素が合わさるので、同じ長さでも商品によって全く異なる使い心地になってしまう」
たしかに、自分のお箸のほか、飲食店で出される色々なお箸の長さの差をあまり感じたことはないですが、食べやすいものとそうでないものがあるなぁと思い出しました。
そこで、渡瀬さんはお箸の構成要素を整理した表を作って研究をすることに。
「長さ、素材、先端の形状(四角・八角)、重さ、太さ」と項目を洗い出し、それぞれの要素がどのように働いているか調べていきます。実際に比べてみると、長さ・太さ違い、形や素材違い、サイズ感と重さの違い、などによって使い勝手が変わります。
選択が必要な要素と、選ばなくていい要素
要素はたくさんありますが、購入するときに細かく選んでいくのは大変です。検証していくと、要素の一つひとつを全て個々人が選ぶ必要はないことに気づいたそうです。
例えば、素材は重さや、風合いの好みが別れる材を省いていくと、ほどよい重量があり質感や耐久性に優れている「鉄木」が誰にとってもちょうど良い素材として集約されていきました。
驚いたことに、「長さ」は、ほとんどの人は22センチメートルがちょうど良かったとのこと。実は、この22センチメートルは夫婦箸の間をとった長さであるという興味深い結果。つまり、「長さ」も箸選びにおいては気にしないでよい要素となりました。
反対に、人によって大きく好みが分かれて集約しきれない、選ぶ余地として残したほうがいい要素も見つかりました。それは、持ち手の「かたち」と「太さ」。
「持ち手のかたち」は握ったときに角がある方が好みの人もいれば、丸に近い形を好む人もいます。 手の大きさによって心地よいものが変わる「持ち手の太さ」も選択すべき基準として残りました。性別による体格差など、その人の身体特性で手の大きさは様々。これらは自分に合う箸を大きく左右する、選ぶべき要素として残すこと。
新定義!お箸選びの基準は「持ちごこち」
200本以上のお箸を使って検証を重ね、整理していった結果、お箸選びに大事なのは世の定説である「長さ」ではなく、持ち手の「かたち」と「太さ」 からなる「持ちごこち」と定義できました。
そうして渡瀬さんは、自分にぴったりの「持ちごこち」を選べるお箸をつくりあげました。「持ち手のかたち」 は「四角」「八角」「削り」の3種類から、「持ち手の太さ」 は太め・細めの2種から選べるように。
機能面に加え、色合いなどデザインの検討も重ね、拭き漆仕上げの3色に絞られました。生産は、日本一の箸の産地である福井県若狭で、職人の手によって0.1ミリ単位にまで気を配って作られています。
お箸選びのポイント
最後に改めて、お箸選びのポイントを整理しました。
1、持ち手の太さを選ぶ。
2、持ち手の形を選ぶ。
3、色を選ぶ。 (拭き塗り 赤・茶・黒)
「お箸は実際に握ってみないと合うかどうかわからないもの」と、渡瀬さんは言います。日々の暮らしに無くてはならないお箸。食事をより楽しむためにも、使い勝手の良いお気に入りの一膳があると嬉しいですね。
ちなみに、渡瀬さんのお気に入りは「八角」なのだそう。みなさんはどれがお好みですか?自分にぴったりのお箸、ぜひ探してみてください。
<掲載商品>
拭き漆のお箸 (中川政七商店)
文 : 小俣荘子
写真提供:中川政七商店、木澤淳一郎
こちらは、2017年9月26日の記事を再編集して掲載しました。日本人にとってなくてはならないお箸。だからこそ長く使えて、しっくりくるものを選びたいですね。