“カラコロ”と幸せ運ぶ、佐賀の「のごみ人形」
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みなさん、「郷土玩具」と聞いてどんなものを思い浮かべますか?もしかすると、おばあちゃん家にあるような、ちょっぴり渋い人形を思い浮かべてしまうかもしれません。でも、そんな先入観で郷土玩具を一括りにしてしまうのは、もったいない!
日本各地には、実に個性的で愛らしい郷土玩具があります。郷土玩具は、読んで字のごとく、“郷土”に根ざした“玩具”。一つひとつ手作りされ、土地の人々の手で伝えられてきた玩具です。どれも似ているようで、似ていない。それは、その土地ならではの文化や歴史、風習を映し出す鏡のようなものです。
郷土玩具を手にすれば、その土地をもっと深く理解できるはず。
そんな思いから各地の魅力的な郷土玩具を紹介する「さんちの郷土玩具」。
今回は、佐賀県鹿島市の「のごみ人形」に会いに行ってきました。
実は、認知度は全国区?
「のごみ人形」は、干支や動物、七福神、佐賀にちなんだ祭りや行事などをモチーフに、約50種がそろうバラエティー豊かな郷土玩具。「能古見 (のごみ)」という昔からの地域の名前をとって、「のごみ人形」と名付けられました。
この通り、ぽってりとした形とカラフルな色使いが特徴です。竹皮とい草でできた紐がついているものは、「カラコロ」という素朴な音が鳴る土鈴になっています。
写真を見て、「この人形、どこかで見たことあるぞ」と思った方。
その既視感は正解です。
実は、のごみ人形は、昭和38年、平成3年、平成26年と、これまでに3回も年賀切手のデザインに採用されています。佐賀県を飛び出し、全国津々浦々の人の前にお目見えしているのです。どこかで見かけていても、おかしくありません。
人々の心に潤いと楽しみを
のごみ人形は、染色家の鈴田照次 (すずた てるじ) さんが生み出した郷土玩具。1945 (昭和20) 年の終戦後、物資が少なく、生活苦が続く中で、人々の心を少しでも明るくしたいという思いから作り始めたといいます。
当初は資材も少ない中での制作だったため、木製の人形だったそう。その後、干支をモチーフにした土鈴を作るようになり、現在のような土製の人形へと移り変わっていきました。
1947年ごろからは、日本三大稲荷の一つ、祐徳稲荷神社の境内でも参詣みやげとして売られるように。十二支の土鈴だけでなく、神社にちなんだ稲荷の神の使いである命婦 (みょうぶ) や稲荷駒も作られるようになり、魔除けや縁起物の人形として、この土地に根付いていきました。
現在では、工房や祐徳稲荷神社のほか、JR肥前鹿島駅の土産物店でも販売され、まさにこの地域を代表する郷土玩具となっています。
変わらぬ手づくりの工程
のごみ人形は、2種類の土をブレンドした粘土を石膏型に入れ、形を作っていきます。
土鈴の場合、土を固めた玉を入れて、音が出るように。乾燥後につなぎ目をなじませ、底部分に切り込みを入れることで、鈴の音を響かせます。この切り込みの匙加減ひとつで響きが変わってくるのだとか。
土鈴にしたのは、「音が鳴る」と「良くなる」という言葉を掛け合わせた縁起物という意味合いがあったのではないかとのこと。「カラコロ」という響きは、福を呼び込む音でもあったようです。
一つひとつの線に意味を込めて
窯で焼き上げたら、次は絵付けです。一筆ずつ、丁寧に色をのせていきます。色づきをよくするために顔料に水で溶いた膠を加え、固まらないようにIHヒーターで温度調節をしながら、色を塗り重ねます。季節や天候で状態が変わるので、職人の勘が頼り。
筆入れは、一本一本の線の意味を考えながら行っていくとのこと。例えば、狆 (ちん) をモデルにした戌の土鈴では、首横の縦線で長い毛並みを表現。変わらぬ絵柄を受け継いでいけるよう、線の太さにも細心の注意を払っています。
親子三代で受け継いできたもの
鈴田照次さんが始めた「のごみ人形工房」を現在任されているのが、孫にあたる鈴田清人さん。昨年の春から工房管理を担当しています。昨夏に型取りを担当していたベテランの職人さんが引退し、新体制となって半年ほど。
「とにかく今は丁寧に作ることを重視しています。祖父や父が守ってきた『のごみ人形』の品質をしっかり保ちたい。その上で、ゆくゆくは新しい種類のものも増やしていきたいですね。有明海の干潟に住むワラスボなども作ってみたいです」と清人さん。
守るべきところは守り、進化できる部分は進化を続けていく。
これからも、のごみ人形はさまざまな形で人々の心を明るく照らしていきます。
<取材協力>
のごみ人形工房
佐賀県鹿島市大字山浦甲1524
0954-63-4085
https://www.nogominingyo.com/
文・写真:岩本恵美