「花嫁さんが持ちたくなるハンカチ」ができるまで
身近なもののことを、私たちは意外とよく知りません。
そのひとつがハンカチ。
前回の記事では「どうしてハンカチは四角いの?」といった素朴な疑問から始まって、ハンカチブランドmotta (モッタ) のデザイナー、山口葉子さんにお話を伺いました。
前回の記事はこちら:「ハンカチはなぜ四角い?小さな布に込められたデザインの秘密」
ちょうど伺った時に山口さんが手がけていたのが、1925年のパリ万博に日本から出品された麻のハンカチーフの復刻版。
デザインの肝である美しい手刺繍の模様を、復刻版では「ジャカード織り」という機械織りで再現することに挑戦したそうです。
デザイナー、というと平面上にいかに美しい姿を描くか、というイメージがありますが、色、素材、作り方で実際の製品の印象も手触りも、ガラリと変わります。今回は生地の織り方が、ハンカチの風合いを決める鍵。
数ある手法の中で山口さんがこの復刻版にジャカード織りを選んだのには、ある理由があったそうです。
いつも身近なハンカチはどんなきっかけで、どんな工程を経て作られるのか。
鍵をにぎる製造の現場に立ち会って、一枚のハンカチが生まれるまでのお話をひもときます。
200年続く日本最大の綿織物の産地へ
訪ねたのは兵庫県の中央に位置する西脇市。
一帯には3つの川が流れ、染織に欠かせない水資源に恵まれていたことから、200年以上前から日本最大の綿織物の産地として発展しました。
一帯で作られる生地は、昔の地域名から「播州織 (ばんしゅうおり) 」と呼ばれています。あらかじめ染めた糸で色柄を織り分ける「先染め」と呼ばれる手法が特徴だそう。
早速、今回の復刻版を手がけている工場にお邪魔すると、ちょうど紺色を織っているところでした。
ジャカード織りとは?
そもそもジャカード織り、どんな仕組みかというと縦にセットした糸の列をプログラムで上下に開口させて、その間に横糸を通してあらゆる模様を描き出す、というもの。
文だけだとわかりづらいので、実際にその様子を見てみましょう。
ハンカチを依頼した山口さんいわく、ここがジャカード織りの面白いところ。
「パリ万博のハンカチーフは白地に白い刺繍ですが、復刻版では色地に刺繍部分が白く浮かび上がるようにしたかったんです。
それにはプリントより、糸の色で模様を織り分ける織物、中でも模様に立体感の出るジャカード織りがいいなって」
しかし日本最大の綿織物、播州織の産地の中でも、ハンカチを扱うメーカーさんは限られるそう。多くはシャツ生地を得意とします。
同じ織物なのに、いったい何が違うのでしょうか?理由の一つを現場で見ることができました。
シャツに求めるもの、ハンカチに求めるもの
織りの様子を見ていると、模様と模様の間に細いラインが走っているのがわかります。
この線、カットラインと言って、生地を織った後にハンカチサイズにカットする目印になっています。
つまり同時に複数枚のハンカチを横並びで織りながら、次の工程のためにカットの印も織り上げているという、とても複雑な動きです。
「シャツの場合、配色も2、3色で織り方もワンパターンなものが多いですが、ハンカチだと小さな面積の中でいかに柄を見せるかが勝負。5、6色の糸を使うこともよくあります。
模様も複雑で、シャツを織る時とは機械の動きが全然違うんですね」
さらに糸の太さや生地の密度もシャツとハンカチでは変わってくるそう。
「シャツは体に添うものなので、着ていて簡単に破けないように、太めの糸を使うことが多いんですね。
でもハンカチは、引っ張りに強いことより、柔らかさや吸水性が求められる。
だから糸も細く、密度もゆったり織るような調整をします。うまくいかないと糸が切れたり、模様が崩れてしまったり。この微調整が難しいところです」
シャツを作るのとは勝手が大きく異なり手間もかかるので、産地でもハンカチを扱うところが限られるのだとか。
この小さな四角い布、何気ないようで完成するまでにいろいろな工夫が凝らされています。
こうして無事、1枚のハンカチが織り上がりました。
結婚式に使えるハンカチ
実は山口さんには、復刻版のハンカチをジャカード織りで作ろうと思い至ったひとつのきっかけがありました。
「復刻版は3色作りましたが、一番作りたかったのが白なんです。
実は自分が結婚式を挙げる時に、式場の方に『白いハンカチを持ってきてください』って言われたんですよ。でも意外と真っ白の、佇まいの素敵なハンカチが見つからなかった。
ジャカード織なら、ぱっと見は白だけれど、角度を変えると模様が浮き出るハンカチになって素敵だろうなと思ったんです」
確かに写真では、うっすらと模様が透けて見える程度。けれど実際に持ってみるとその柔らかな風合いとともに、美しい模様が手の中で浮かび上がります。
「純白のアンティークレースみたいな白、のイメージで作ってみました」
「こんなハンカチがあったらいいな」の想いが設計図となり、産地の技術と結びついて、復刻版だけれど新しい、1枚のハンカチが生まれました。
ハンカチをめぐる旅、いかがでしたでしょうか。今朝選んだそのハンカチも、こんな風に生まれてきたかもしれませんね。
<掲載商品>
motta037 (中川政七商店)
文・写真:尾島可奈子
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