「冬の、できたて線香花火」が、澄んだ暗闇をやわらかく彩る

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冬の、できたて線香花火

先日、線香花火を買った。2月だ。真冬もいいところだ。季節で言えば間違いなく夏と真逆で、どうしてこんな時期に買ったと自分でも少々困惑するほどだった。

きっかけは、ある雑誌だった。美容室で話すのがあまり得意ではない担当美容師から手渡された雑誌。最近は、「美容室」という特殊な場所で読む雑誌なら、内容も普段とは異なるジャンルにしようと思い、いつもなら絶対に手を取らないものをわざわざ選ぶようにしている。

そこから得られる情報は、見知らぬ街に降り立ったような新鮮さと探究心をくすぐり、なかなか刺激的だからだ。

そして、その「特殊」な雑誌の記事内で、「冬の、できたて線香花火」に出会った。

雑誌の端に小さく紹介された商品名とメーカー名を、スマホに手早くメモする。

筒井時正玩具花火製造所

「筒井時正玩具花火製造所」

一体どんな企業だろうか。帰路に就く電車の中で、社名を検索窓に入力してみる。

場所は、福岡。昭和4年から続く子供向け玩具花火の老舗企業だった。

筒井時正玩具花火製造所

90年続いている小さな企業とは思えぬほど、サイトがすこぶるお洒落だった。スマホ対応はしていないものの、写真の写し方、文字の組み方にどことなく趣を残しつつ、訪問者を童心に返す高揚感が感じられる。

「これは、アタリを引いたかもしれない」とサイト内を回遊すると、たくさんの魅力的な商品が見つかる。

どうぶつ花火
「どうぶつ花火」(画像は公式サイトより)
「花富士」(画像は公式サイトより)

そして「冬の、できたて線香花火」。

夏のイメージが強い線香花火ですが、「スポ牡丹」は気温・湿度が低いことが製造条件で、冬の寒い天候を利用して製造されています。空気が澄んだ冬の夜に、できたての線香花火をお楽しみください。

商品紹介ページに書かれた説明文が、あたたかく、柔らかい。空気が澄んだ冬の夜に手元を照らす線香花火。さぞ綺麗なことだろう。

誰とやるだとか、何処でやるだとか、あまり深いことは考えず、僕は注文ボタンを押した。

商品が届いたのは、一週間を過ぎたころだ。大抵の荷物なら1日~2日で届くこの時代。花火は火薬類につき、陸路での搬送となることを説明されていたが、福岡からはるばる東京までやってきたその花火に、何故か愛着が沸いた。

冬の、できたて線香花火

デザインは、普段目にしているカラフルな紐状のものとは異なり、ワラに練った火薬を付けた棒状のもの。今では、このかたちは同製造所しか販売していないという。ただ、このかたちこそ「線香花火の原型」なのだそう

ちょうどその日は、息が凍るかと思うほど空気は冷たく、星はいつもよりもその存在を強く主張しているように感じられた。

僕はさっそく、花火を持ちだして外に繰り出す。

冬の、できたて線香花火

使い慣れぬライターで、火を付ける。線香花火が灯るまでの時間は、火傷を恐れる少しの危険と、空間を照らす光への好奇心で、自然と胸が高鳴る。

冬の、できたて線香花火

着火し、光球が生まれると、筆で闇をなぞるかのように細く優しい線が夜を走る。柔らかな光が小さな音をたてて、それが次第に激しくなっていく。

冬の、できたて線香花火

線香花火の燃え方には、名前が付いている。

小さく火が付いた「蕾(つぼみ)」から、「牡丹(ぼたん)」、「松葉(まつば)」、と火花を大きくし、「散り菊(ちりぎく)」の静かな幕閉じまで、貴重な時間を、ただただ見つめる。

冬の、できたて線香花火

最盛期を迎えた後、火は静かに消える。“まるで人の一生のような十数秒間を存分にお楽しみください”という説明書きに、線香花火のせつなさと有難さが籠もる。

冬の、できたて線香花火

花火は夏の風物詩。それは今後も変わりないかもしれない。でも、コートにマフラーを巻いて、ホットコーヒーの缶に水を汲み、バケツ替わりにしたそれに消えた花火を落とすのも悪くない。少し煙くなった空気を吸い込み、まだ高い空をぼうっと眺めるのも、夏とは違った良さとして記憶に残った。

まだまだ夜の空気は冷たい。一風変わった冬の醍醐味を、大人になった今こそ楽しんでみてはいかがだろうか。

<掲載商品>
冬の、できたて線香花火

文・写真:カツセマサヒコ

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