隆太窯のうつわが愛される理由。クラシックが流れる作陶場を見学
唐津へ行くならまずここへ、と必ず名の挙がる場所があります。
隆太窯 (りゅうたがま) 。
焼き物の里、唐津を代表する窯のひとつです。開いたのは唐津焼の名門、中里太郎右衛門十二代の五男として唐津に生まれた中里隆 (なかざと・たかし) さん。現在は息子の太亀 (たき) さんとともに器づくりを続けています。
不思議だったのは、聞いた人誰もが器を「買ったほうがいい」ではなく「まず、行ったほうがいい」という薦め方をすること。
なにか、器だけでない魅力がありそうです。早速行ってみました。
JR唐津駅から車でおよそ15分。日本海に向かって町が開けている唐津ですが、そんな海の気配は微塵も感じられない山中をどんどんのぼっていったところに、隆太窯の看板が見えてきます。
道なりに進むと、急に景色が開けました。
山の斜面を下りたところに、材木置き場や工房と思われる建物が点々と建っています。木々の間から瓦屋根がのぞき、窯元にきたというより、まるで小さな集落にやってきたような気分です。
道を下ってまずギャラリーへ。思わず歓声をあげました。
照明を抑えめにした室内に、立派なステンドグラスを通して光が差し込んできます。空間をぐるりと囲むように、器が静かに並んでいます。
後で聞いたところによると、はじめからギャラリーにはステンドグラスを入れるつもりで、逆光を生かせるように隆さんが建物のつくりを考えたそう。
1974年にこの見借 (みるかし) という地に窯を開くまで、そして今も、国内にとどまらず海外でも作陶をされている隆さん。その経験もあってか、どこか空間に日本離れした雰囲気があります。
来たお客さんも心地よさそうに、静かにゆっくり器選びを楽しんでいます。
日本でないような雰囲気は、ギャラリーだけではありません。
おとなりの工房に入ると、高い天井に、壁いっぱいにとった窓。隆さんが好きだというバロック音楽が流れる中で、太亀さんと隆さんが親子揃って作陶中でした。お二人の姿がなければ、どこかのコテージのような趣さえあります。
「若い頃の工房は、だいたい暗かったんですね。明るくしたいなと思って、こういう工房にしました。
場所は、何日間と窯を焚いて煙を出しても、ご近所の迷惑にならないようなところで選びました。見学OKにしている理由ですか?まぁ、見られても減るもんじゃないからね」
答えてくれたのは隆さん。ろくろ台に座る向きも、周りの人と会話がしやすいように、あえて内側を向いているそう。
開放的な空間に、土をこねる音、ろくろをまわす音、そして時折、ふたりの会話が響きます。
今日の土の具合、お互いのインタビューへの補足。手は休まず動かし続けながら、会話は自然体。ゆったりと時間が流れます。
太亀さんに今作られているものを伺いました。その日、作っていたのは小鉢。
「例えば、ほうれん草のおひたしを盛り付けたり。この後、白化粧して白い器にしようと思っているんです」
太亀さんの頭の中には、白い器にパッと映える緑がはっきり描かれているようでした。
「いつも、食べること、飲むことしか考えていないですね (笑) だから作る時も、どういうものを盛ったらいいかな、と考えます。食べている時に、こういう器があったらいいねとアイディアが出ることもありますね」
実は隆さん、太亀さんとも料理好き、お酒好きで有名。
だんだん、旅の前に誰もが「行った方がいい」と薦めてくれた理由がわかってきました。あのギャラリーを見て、この工房の空気を知って、お二人の人柄に触れて、自分も隆太窯の器を暮らしの中で使ってみたい、との思いが湧いてきます。
そんな隆太窯の器をこよなく愛し、ぴったりの料理と組み合わせる名手が、地元唐津にいらっしゃいます。
今度は唐津の町なかで活きる隆太窯の器を訪ねてみましょう。
<取材協力>
隆太窯
佐賀県唐津市見借4333-1
0955-74-3503
http://www.ryutagama.com/
文:尾島可奈子
写真:菅井俊之