この縫い針には簡単に糸が通る。「目細八郎兵衛商店」の針が使いやすい理由
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わずか5センチほどの箱に入った、小さなお裁縫セット。以前、連載「ちひさきものはみなうつくし」でも反響のあった商品です。

この可愛らしい裁縫箱、小さくても道具はしっかり本格派。江戸時代、加賀藩主に認められた「目細八郎兵衛商店」の縫い針は、糸が通しやすく、布に刺した際にも抵抗が少なく針運びがスムーズでとても使いやすいのです。
なぜ糸が通しやすいのか?なぜ針運びが楽なのか?使いやすさの秘密を、金沢にある「目細八郎兵衛商店」を訪ねて、詳しく教えていただいてきました。



加賀藩主が認めた、針穴
加賀の国・金沢で1575年(天正三年)に創業した「目細八郎兵衛商店」。成形がむずかしいとされる絹針の「目穴・目度」を、初代の八郎兵衛が試行錯誤して工夫し、糸の通しやすい良質な針をつくりあげました。

この針が評判になり、加賀藩主から「めぼそ」という針の名前を授かって、針の老舗「目細八郎兵衛商店」としてこれまで440年余りの歴史を歩んできました。

「針の穴はドリルのようなもので開けるので、もともとは真円に近い形をしていました。私たちの店では、この穴を縦長に伸ばし、穴の面積を広げました。的が広くなることで糸を通しやすくしたのです」

布を傷つけない秘密は、針先の「爪」
針の使いやすさは、これだけにとどまりません。布に針を刺した時に抵抗が少なく、針の運びが軽やかなのです。そこにはミクロのレベルでの工夫がありました。
「布に刺す針先部分は、針金の端を研磨することで生まれます。
鉛筆の先のような形に削るのが一般的ですが、うちではもっと手前の部分から緩やかな傾斜をつけて研磨していきます。
手間はかかりますが、滑らかな先細りの形にすることで、布に針を刺した時にスムーズに刺し進めることができるんです」

「さらに、削った後に、もう一度研磨するのですが、そうすることで針先に爪のような部分を作ります。この針先の爪、実は少し曲がっているんです」

「布って、糸がタテヨコに編まれた状態になっていますよね。針は、できれば糸ではなく、糸と糸の隙間に刺したい。爪先が曲がっていることで、糸にぶつかった針がするりと糸を避けて繊維の隙間に入るように設計されています。こうすることで、生地を傷つけず、針も刺しやすくなるのです」
針にわざと傷をつける
「針の成形後、焼き入れを行なって素材を硬くします。こうして針が出来上がるのですが、私たちは最後にもう一つ手を加えています。
最終工程で、再度研磨します。肉眼では見えないのですが、針の表面に縦方向の傷を無数につけています」

「傷のないツルツルとした状態だと、刺した時、針の側面全体が布に当たるので抵抗が大きくなります。一方、傷がついて表面に凹凸があると、布との接地面積が減るので、抵抗も小さくなり、刺しやすく、布を傷つけにくくもなるのです」