結婚式やご祝儀が華やぐ「金沢・加賀水引細工」の世界。津田水引折型が受け継ぐ「気持ちを贈る工芸」とは
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立体的で華やかな、加賀水引
結納や結婚式などのお祝い事、あるいは不祝儀にもかかせない水引。
あわじ結びと言われる結び方が基本ですが、とくに祝儀においては様々なアレンジが加えられ、華やかに贈り物を包みます。
たとえば、こんなふうに。
かつての水引は平面的なもので、こうした立体的で華やかな水引細工が使われるようになったのは大正時代になってからのこと。なかでも、石川県の津田左右吉氏は数々の独創的なデザインを考案しました (※) 。いまも「加賀水引細工」の名で、金沢の希少伝統工芸に指定されています。
その技術を受け継ぐ工房、津田水引折型を訪ねました。
平たく折るのは難しい?きっかけは作りやすさ
「もともと、水引や折型 (おりかた=和紙を折って品物を包むこと) を用いることは上流階級の人々にのみ許されていました。一般の人々に開放されたのは明治時代に入ってからのことです。
武士のマナーの基準となっていた小笠原礼法流の水引折型が、明治後期から民間に広まり始めます。加賀水引の創始者、津田左右吉はそれを勉強し、結納品を整える仕事を始めました。
しかし、用途ごとの複雑な折型をきっちりと折り畳むのは、なかなか難しいものでした。少しでも折り目が崩れたり、歪んだりすればすぐに品のないものになってしまいます。
水引折型は、その清しく端正な姿こそが価値です。左右吉は、研究をするうちに一つのアイデアを思いつきました。平たく折り畳んでしまわず、ふっくらとしたまま折り目を付けず、それを胴のあたりでぐっと水引で引き結んでみてはどうか、と。
そうすることで、技術的なアラが目立たず、作業も楽で、しかもボリュームのある華やかなフォルムが出来上がる。今も受け継がれる綺麗な結納品の水引折型は、こうした苦心の末の、いわば逆転の発想によって完成したものでした」
はじめこそ簡単にするために思いついた方法でしたが、美しさを追求し、独自の進化を遂げていきます。現在の結納飾りや祝儀袋に飾られる鶴亀や松竹梅などは、左右吉さんの考案した水引細工が原型となっているものもあるのだそうです。
また、津田家の人々は、結納業の傍ら、水引と和紙などを使って、人形や植物をモチーフに内裏雛や甲冑といった水引細工の作品も数多く作り出します。
二代目となった左右吉さんの次女、津田梅さんの代には芸術分野においても高い評価を受け、その作風を「加賀水引」として確立。全国に広く紹介されるようになり、金沢の希少伝統工芸として定着しました。
「魔除け、縁結び、未開封」‥‥水引に込められた意味
美しく目を楽しませてくれる水引細工ですが、装飾としての演出だけでなく、様々な意味が込められているのだといいます。
「水引の起源は、聖徳太子の時代に遡ります。遣隋使が持ち帰った品物に紅白の麻紐がかかっていました。受け取った日本人たちは、そのぎゅっと結ばれた紐に、ご縁が長く続くようにという縁結びの意味合いを感じたと言われています。
また、当時海を渡るのは大変なことで、天災や海賊など様々な厄災が待ち受けていました。そうしたものを払う厄除け、魔除けの意味合いや、まだ何者にも開けられていない『未開封』の意味を見出したそうです。
麻紐から和紙をよって作る水引に変化しても、その3つの意味合いが包むことの本質として残りました。むしろ、和紙を使うことで千切れにくくなり、より一層その意味合いは深まったかもしれません」
さらには、和紙の折型にも祈りが込められています。
「紙を折ることは、神聖な行為と考えられてきました。紙の折り方に様々な意味合いがこめられています。霊符、折符などと呼ばれますが、祈りを込めて意味合いに沿って折られた紙は、『携帯する神社』とも呼ばれるものなんですよ。
中身は同じでも、包み方で意味合いが変わり、新たな価値が生まれる。そんな考え方があります」
「加賀水引は、細工のことだけでなく、和紙で『包む』、水引で『結ぶ』、差し上げる理由や名前を『書く』、この3つの工程全てを指しています。その本質は相手とのコミュニケーションにあると思っています。
市場価値に関係なく、その人にとって大切なものだからきちんと包んで気持ちを添えて贈りたい。そんなご依頼も色々といただきます」
気持ちを贈る工芸。大事に受け継いでいきたいと、津田さんは力強く語ってくれました。
<取材協力>
津田水引折型
http://mizuhiki.jp/
石川県金沢市野町1-1-36
076-214-6363
文・写真:小俣荘子
画像提供:津田水引折型
※参考文献
「伝統の創生-津田左右吉による加賀水引折型細工の創始-」 山崎達文/著 (『富山市篁牛人記念美術館 官報』第8号 1998年3月)
「加賀の水引人形師」本岡三郎/著 (北国出版社 1970年5月)
この連載は‥‥
日本人は古くから、ふだんの生活を「ケ」、おまつりや伝統行事をおこなう特別な日を「ハレ」と呼んで、日常と非日常を意識してきました。晴れ晴れ、晴れ姿、晴れの舞台‥‥清々しくておめでたい節目が「ハレ」なのです。
こちらでは、そんな「ハレの日」を祝い彩る日本の工芸品や食べものなどを紹介します。
*こちらは、2018年5月5日公開の記事を再編集して掲載しました。贈りものに込められた意味をきちんと理解するのも大事だな、と改めて思いました。
<掲載商品>
飯田水引の祝儀袋
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