蒔絵のアクセサリーがかわいい!蒔絵師一家「うるしアートはりや」の作品づくり
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木の樹液である天然の塗料「漆(うるし)」。
日本では12000年以上前から使われ、その技術や文化が受け継がれてきました。
漆を使った伝統技法のひとつに「蒔絵(まきえ)」があります。
漆で絵を描き、絵が乾かないうちに金粉、銀分、色粉などを蒔いて仕上げていくもので日本独自の技法です。
話題の蒔絵師一家「うるしアートはりや」
そんな蒔絵の魅力を多くの人に伝えたいと、作品づくりをしている工房があります。
蒔絵師一家が活動する「うるしアートはりや」です。
作品は茶道具の棗(なつめ)や香合のほか、ブローチやピアスなど様々。
伝統工芸という格式ばったイメージはなく、モダンでポップで可愛らしくて、ちょっと手に取りたくなるようなものばかり。
どんな想いで作品づくりをしているのか。工房を訪ねました。
山中漆器の産地にある工房
加賀温泉郷のひとつ山中温泉。
松尾芭蕉をはじめ、文人たちにも愛された自然豊かな温泉地です。
温泉街から少し離れた山の上に工房があります。
作業場にはご両親が向かい合って仕事をする机。
隣の部屋には息子さんたちの作業場があります。
「うるしアートはりや」の蒔絵師は、父・針谷祐之さん、母・絹代さん、長男・崇之さん、次男・祥吾さんの4人。分業ではなく、それぞれ自分の作品をひとつひとつ作っています。
工房のある山中温泉は「山中漆器」の産地で、もともと山中漆器の蒔絵師として活動していたご両親が独立。
蒔絵や漆をもっと身近に感じてもらいたいという思いから「うるしアートはりや」が誕生しました。
蒔絵作家として生き残るために、何に描こうか常に考えている
工房をはじめた当初は問屋さんから棗などの絵付けの仕事をもらう一方、絹代さんがアクセサリーの制作を開始。
1994年、「テーブルウェアフェステバル 暮らしを彩る器展」に出展。布に漆を塗ったランチョンマット、金箔を貼ったグラス、竹に絵を描いた箸のセットで、テーブルウェアオリジナルデザイン部門大賞を受賞。その後、活動の場を広げていきます。
絹代さんの作品は蝶貝やべっ甲、皮、石など様々な素材を土台にしているのも特長。
次は何に描こうか常に考えていると言います。
「他所にないものを作ってみたい。蒔絵の可能性を探るという感じですね。蒔絵のアクセサリーは私が先駆者的なところはあるんだけど、今はやっている人がたくさんいるので、その中で生き残っていくにはどうすればいいんだろうって、家族で話しながらやっています」
家族4人でのスタート
「子どもの頃は金粉で遊ぶくらいで、手伝いをしたこともなかった」という息子さんたち。
絹代さん自身が家の仕事を手伝わされるのが嫌だったことから、自分の大好きな仕事を嫌いになってほしくないと、一切手伝わせなかったそう。
そんなふたりが蒔絵の道へ。
「まさか二人とも蒔絵をやるとは思ってなかった」と両親を驚かせることに。
弟の祥吾さんは高校を卒業後、お菓子屋さんに就職したものの、3ヶ月ほどで退職し、「他の人ができないような仕事をしたい」と、両親に弟子入り。
苦手だった絵も地元の画家さんに習うなど人一倍努力しながら、繊細な図柄を描きこんだアクセサリーなどを手がけています。
兄の崇之さんは高岡短期大学漆芸コース・専攻科を卒業後、うるしアートはりやに入社。
「家のことも漆芸のこともなにも知らなかったのですが、大学で勉強するうちに作るのが楽しくなって。卒業後は家の仕事に可能性があると思ったので、一緒に働くことに決めました」
こうして家族4人での活動がスタート。
「家族でやってるって言うと羨ましいって言われるし、ありがたいことなんだなと思います」と言う絹代さん。
「自分たちだけじゃできなかったことを息子たちの力も合わせたらできるんじゃないかなと、楽しみです」
漆はお風呂に入れて乾かす!? 蒔絵の技法は伝統技術を継承
「うるしアートはりや」では、日常生活にもっと蒔絵や漆を取り入れてもらえるよう、気軽に使えるアクセサリーなどを制作していますが、蒔絵の技法は昔からの伝統技術そのまま。手描きにこだわり、作品づくりをしています。
制作の一部を見せていただきました。
まずは、下絵を漆でなぞります。
それを素材に転写。
上から金粉をのせていくと、金で描かれた図柄が浮かび上がります。
さて、これはなんでしょう。
正解はうずらの卵。
酢に漬けると表面のまだら模様が消えるそうです。これを細かく砕き、漆を塗った素材に貼り付けていく。卵殻(らんかく)という伝統的な技法です。
では、こちらは何でしょう。
各作業場にあり、中には製作中の作品が並んでいます。
これは漆風呂です。
漆は湿度がないと乾かないという不思議な塗料。
そのため、絵付けをした後は、このお風呂に入れて乾かします。
床にヒーターを置き、霧吹き内部に水を吹き付けて調節。漆が垂れずに乾くように、24時間回転させる機能もある、
すごいお風呂なのです。
新アイテムと伝統工芸の融合
蒔絵の魅力は漆の魅力でもあると言う崇之さん。
「漆はすばらしい天然の塗料です。普通の絵の具は描いた後、乾いてしまうので金粉がのりませんが、漆は湿度がないと乾かないので、描いてから金粉を蒔くと、金粉が付着します。蒔絵は漆がないとできないんです」
漆でしかできない蒔絵のアートを広めていきたいと、崇之さんは独自のブランドも立ち上げています。
そのひとつがメンズ蒔絵アクセサリーのブランド「Mt.Artigiano」。
カフスやタイピン、ループタイなどを制作する中、世界初の「ボタンダウンピアス」が誕生しました。
「はじめはシャツのボタンを蒔絵にしようと考えたんですが、縫い付けてしまうと洗濯のときに外さなくてはいけない。取り外しがしやすいものということで、ボタンダウンピアスにたどり着きました」
ボタンの穴に通すので、ボタンを外さなくてもいいし、ボタンも隠れるというのがポイント。
「ちょうどクールビズで、ネクタイを付けない代わりにボタンダウンシャツを着る人が増えたんですよね。それが目につくようになって、新しいアイテムとして考えました」
ありそうでなかった新アイテムと伝統工芸の融合。
蒔絵のさらなる可能性が感じられる作品です。
山中から世界へ
山中漆器の蒔絵師からはじまった「うるしアートはりや」。
「山中漆器があってこその自分たちだと思っている」と絹代さんは言います。
世界に誇る「蒔絵」という伝統文化の中で自分たちも跡を残したいと、海外へ向けても活動中。
「ゆくゆくは“針谷蒔絵”というブランドで、蒔絵の世界をもっと広げていきたいですね」と言う絹代さん。
かつて漆器が西欧で「ジャパン」と呼ばれ愛されてきたように、世界で蒔絵が「ハリヤ」と呼ばれる日が来るかもしれない。
そんな夢を一緒にみたいと思いました。
<取材協力>
うるしアートはりや
「うるしアートはりや」の作品は、加賀温泉駅前にある「アルプラザ加賀内・加賀百選街」などで購入できます。
文・写真:坂田未希子
※こちらは、2018年6月21日の記事を再編集して公開しました。