離乳食作りから生まれた使いやすさ。「備前焼・一陽窯のすり鉢」

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すり鉢

こんにちは。中川政七商店のバイヤー、細萱久美です。

この連載では「炊事・洗濯・掃除」に使う、おすすめの工芸を紹介していますが、今回がいよいよラストとなります。最終回でご紹介する調理道具は、最近使い始めてすぐに使いやすさを実感したので是非ご紹介したい「備前焼のすり鉢」です。

備前焼のすり鉢

ところで備前焼についての基礎知識を少々。私も名前と焼き締めの渋い感じは知っていましたが、実際に自分で使ったのは今回がほぼ初めてです。

備前焼は、千年の歴史があり、信楽や瀬戸などと並ぶ日本六古窯の一つとされています。主に岡山県の備前市伊部町で作られる焼き物で、赤松の割木をなんと約10昼夜の間炊き続け、およそ摂氏1200度という高温で焼き締めます。

「土と炎の芸術」と言われる備前焼は、焼きと同様に土も重要。原土は伊部周辺の粘度の高い土を使います。投げても割れないと言われるほど頑丈な備前焼は、その昔はすり鉢をはじめ、大ガメ、壺などの日用雑器から、茶道が発展した時代には茶陶としても全盛期を迎えました。

備前焼は釉薬を使わず、炎や灰の当たり方によって自然の模様を生み出す「窯変」が大きな特徴です。千差万別の模様となるので、作家さんも窯出しは緊張と興奮の時間であろうと思います。

ちょっと渋好みで、どちらかと言うと高級な器も多いため、今まで近寄りがたい存在ではありましたが、ろくろで一つずつ成型し、登り窯でじっくり焼き付けることを考えると価格も納得なのと、一つとして同じモノがないのも魅力です。

備前焼は釉薬を使わないので、表面の微細な凹凸によってビールの泡がきめ細かくなったり、水を良い状態で長く保つので花瓶にしても花の持ちが良いそうです。基礎知識を学ぶだけでも、機能性にも富んだ備前焼が改めて気になり始めました。

今回ご紹介のすり鉢は、備前焼窯元の一陽窯のオリジナルです。すり鉢と聞くと、上に広がった円錐形が多い中、このすり鉢は、背の低い丸い形をしています。

一陽窯のすり鉢

この形が摺りやすさのミソなのですが、すりこぎを側面のカーブに沿うように動かすと簡単に上手に摺ることが出来ます。

また見た目以上に重量感があるので、軽く押えれば動きにくく摺りやすいのです。そして、食器のような形なので、胡麻和えなどを入れたままテーブルに出しても違和感がありません。一陽窯の木村さんが若きパパの頃、離乳食作りのために考案したのが商品化のきっかけだそう。

一陽窯では、このすり鉢のほかスパイスミルも作っていて、某スタイリストさんなどにも支持されています。もちろん茶道具や日常の食器まで幅広い商品展開なので、産地を訪れることがあれば、一つ一つ微妙に違う中からお気に入りを選ぶのも楽しいです。タイミングが合えば、作業現場も見学させて頂けますよ。

同じ一陽窯さんで購入したもの。砂糖壺として使っています
同じ一陽窯さんで購入したもの。砂糖壺として使っています

一つのアイテムから、今まで気付かなかった工芸の良さや産地に目を向けるきっかけをもらいました。これから和え物の登場が増えそうです。

細萱久美 ほそがやくみ
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、
美味しい食事、美味しいパン屋、
猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

文:細萱久美

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