中川政七商店が浴衣をデザイン。5分で着られる、ワンピースのような浴衣ができるまで

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中川政七商店の浴衣

先日、夏を舞台にした日本映画を観たのですが、主人公の女性の浴衣姿が美しく印象的でした。

浴衣着用イメージ
涼しげな浴衣は夏の風物詩

やっぱりいいもんだなぁと思う一方で、着るのが大変、なイメージもある浴衣。

もっと気軽に楽しめないか?と考えたのは生活雑貨メーカーの中川政七商店。

「日常のワードローブの一つとして、ワンピースのように着られる浴衣をつくりたい」

そんな思いに技術で応えたのが「きものやまと」。

今日は、2018年夏に中川政七商店からデビューした、5分で着られる「ワンピースのような浴衣」の魅力に迫ります。2着目を探している人にも、おすすめですよ。

中川政七商店の浴衣

5分で着られる秘密

きものやまとは、1917年創業の着物専門店、株式会社やまとが展開する着物ブランド。

独自に開発した「クイック浴衣」の技法が、今回の「ワンピースのように着られる浴衣」を可能にしました。5分で着られる秘密はその縫い方。

着丈を調整するためのおはしょりが、すでに縫い合わせてあるのです。

このおはしょりの幅を、従来の浴衣では自分で調整していました
このおはしょりの幅を、従来の浴衣では自分で調整していました

調整の手間が省けるので5分とかからず着用でき、着崩れしにくいのが特徴。素早く簡単に、きれいに着られる、というわけです。

サイズはおはしょりで調整する代わりに、S・M・Lと自分にあったサイズを洋服感覚で選べます。

腰紐も縫い付けてあるのでずれる心配がなく、ちょうどワンピースの紐を結ぶように簡単に浴衣の合わせが完成するという仕組みです。これは便利!

羽織って腰紐を結べばOK
羽織って腰紐を結べばOK

気軽に取り入れられるので、すでに一着は持っているという人も、二着目にいいかもしれませんね。

涼しげなデザインに、全国の産地の技術が集結

柄は、縁起のよい日本の伝統模様を取り入れた、中川政七商店オリジナルの3柄。

今回の浴衣のために作られたオリジナルの3柄
今回の浴衣のために作られたオリジナルの3柄

なんとそれぞれの柄の良さを一番引き出せるよう、生地と染めの技法を柄ごとに変えています。

浜松の綿生地×石川の捺染「葡萄唐草」

葡萄唐草

奈良の正倉院宝物に描かれた葡萄唐草をアレンジしたデザイン。葡萄、唐草ともに日本では古くから縁起が良いとされるモチーフです。

綿織物の一大産地、浜松の生地に石川で柄を捺染 (なっせん。プリントのこと) 。糸から染めた生地を使うことで色柄が生地に馴染み、総柄ながら落ち着いた大人っぽい印象です。

浜松の綿生地×宇都宮の宮染「麻の葉」

麻の葉

宇都宮に流れる田川を中心に栄えた染物「宮染 (みやぞめ) 」。裏も表も同様に染め上げる注染 (ちゅうせん) の技法で、大胆な麻の葉柄を色鮮やかに染め上げています。

知多の空羽紅梅生地×京都の手捺染「鹿の子立涌」

鹿の子立涌

水蒸気や雲気が涌き立ちのぼっていく様を表す、涼しげな立涌 (たてわく) 文を、鹿の斑点を模した鹿の子柄で表現。

生地はシャリ感のある綿麻の糸を使い、経糸をあえて規則的に抜き立体的に織り上げる空羽紅梅 (あきはこうばい) 生地を使用しています。

涼感のある生地に柄を手捺染し、光の加減でも見え方が変わるような、繊細ながら華やかな印象です。

こんな風に作られていました。日本にしかない注染の現場へ

生地、技法だけでこんなにいろいろな種類があったとは!

実際にどんな風に作られているのか気になって、染めの現場を覗かせてもらいました。

染に使うじょうろ

伺ったのは麻の葉柄を染める宇都宮で明治38年創業の「中川染工場」。

工場のそばを流れる田川。宇都宮は綿の産地だった同じ栃木県内の真岡の近くだったことから、川沿いに染物産業が発展。一帯の染物は「宮染め」と呼ばれ栄えました
工場のそばを流れる田川。宇都宮は綿の産地だった同じ栃木県内の真岡の近くだったことから、川沿いに染物産業が発展。一帯の染物は「宮染め」と呼ばれ栄えました
中川さんの事務所に掲げられていた「宮染め」の額
中川さんの事務所に掲げられていた「宮染め」の額

用いる「注染」の技法は、昔から手ぬぐいや浴衣の定番の染め方です。

「注染は日本にしかない染め技法です。浴衣に向いているのは、染料が布目を通ることで風通しがよくなるからなんですよ」

そう案内いただいた注染の工程は、折り重ねた生地に染料を上から注いで、同時に下から吸い上げ、一気に裏表を染め上げるというもの。

ちょうど麻の葉柄を染めるところでした
ちょうど麻の葉柄を染めるところでした
長いじょうろのような道具「やかん」を使って、指定の場所に染料を注ぎます
長いじょうろのような道具「やかん」を使って、指定の場所に染料を注ぎます
一見わかりませんが、この下に何十枚と生地が折り重ねてあります
一見わかりませんが、この下に何十枚と生地が折り重ねてあります
周りに色が移らないよう、染めたいところを「土手」で囲んであります
周りに色が移らないよう、染めたいところを「土手」で囲んであります
やかんを使い分け、指定の色に染め分けます
やかんを使い分け、指定の色に染め分けます
足元のペダルを操作して染料を吸引。一気に何十枚と染め上げる
足元のペダルを操作して染料を吸引。一気に何十枚と染め上げる

「色を染めたくないところは、あらかじめ糊を置いて染まるのを防ぎます。柄がきれいに出てくるかどうかは、実はここで決まると言ってもいいくらい重要なんですよ」

染めの前の工程。板場と呼ばれる糊置きの現場
染めの前の工程。板場と呼ばれる糊置きの現場
茶色いところが糊を置いたところ。その上から慎重に生地を折り重ねて‥‥
茶色いところが糊を置いたところ。その上から慎重に生地を折り重ねて‥‥
型紙をはめた木枠を置き、上からヘラで糊をのせていきます
型紙をはめた木枠を置き、上からヘラで糊をのせていきます
緊張の一瞬
緊張の一瞬
持ち上げると‥‥
持ち上げると‥‥
この通り。きれいに糊がのっています
この通り。きれいに糊がのっています

糊が厚いと柄がはっきり出ず、薄いと染料がにじんで汚くしあがってしまうそう。絶妙な力加減が必要です。

生地を12mと長く使う浴衣。対して注染の型は1mほど。

折り重ねた生地を開いたときにも、柄がつながって見えることが大切です。特に今回の麻の葉柄のような大柄は、わずかなズレでも目立ってしまう難しい柄。

中川政七商店の浴衣

この折り目でずれなく柄を繋げられる「型継ぎ」ができるところは、全国でも数えるほどだそうです。

型が途切れないよう、補正しているところ。熟練の技が要されます
型が途切れないよう、補正しているところ。熟練の技が要されます

「大柄をバシッと出すには、ここしかない」と、中川染工場さんが今回の麻の葉柄の染めに大抜てきされました。

工場内の見学を終えて外に出ると、染色後に水洗いで糊を落とされた麻の葉の生地が、広場一面に干されていました。

吹き流しのように生地が干されている
テープのように干されている麻の葉柄

吹き流しのような光景は壮観です。

四代目の中川友輝さん。こことここが型を継いだところですよ、と教えてもらいますが、ほとんど見分けがつきません
四代目の中川友輝さん。こことここが型を継いだところですよ、と教えてもらいますが、ほとんど見分けがつきません

着るのは簡単に、作りは丁寧に

身支度わずか5分で着られる浴衣。

着るのは簡単でも、一着ができるまでには素材から染め、縫製まで、夏を涼やかに楽しむ工夫がぎっしりと詰まっていました。

この夏はお気に入りのワンピースを着るように、ものづくりの粋を尽くした浴衣でお出かけを楽しんでみては。

<掲載商品>
ワンピースのように着られる浴衣 (中川政七商店)

<取材協力>
きものやまと
http://www.kimono-yamato.co.jp/
株式会社中川染工場
http://www.somemono-nakagawa.com/

文:尾島可奈子

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