雪かきに欠かせない!クマ武「スノーダンプ」は最強の除雪道具だ
雪国で生まれた「最強」の除雪道具
あっという間に年の瀬。そろそろ初雪の便りが聞こえてくる季節となりました。
みなさん、雪かきの準備はできましたか?
雪の多い地域にとって除雪は命に関わる切実な問題です。
世界有数の豪雪地帯と言われる新潟県十日町市。
平均して一冬に累計10メートルあまり雪が降り積もるそうです。
厳しい環境で鍛え抜かれた除雪隊の仕事ぶりが、以前テレビ番組で紹介されたこともありました。
そんな雪国十日町で生まれた「最強」の除雪道具があります。
その名も「クマ武スノーダンプ」。
スノーダンプは、除雪した雪を乗せて運ぶ道具のこと。
「クマ武」とはなんとも勇ましい感じがしますが、いったいどう「最強」なのか。製造現場を訪ねました。
鉄工所から引き継がれた技術
伺ったのは JR十日町駅から歩いて20分ほどのところにある「山田屋商店」です。
一見、よくある街の金物店ですが、こちらで最強のスノーダンプが作られています。
「創業は明治32年。初めは金物と食料品を扱うお店でした」と話すのは、山田屋商店でスノーダンプの製造を担当している太田功さん。
街の雑貨屋さんから始まった山田屋商店さんですが、現在は家庭金物のほか、セメント、コンクリート二次製品、建築土木資材の販売、ガス工事や水道工事、ガソリンスタンド経営まで手がける、街の大きな雑貨屋さんです。
以前はお店で販売するだけだったスノーダンプを製造することになったのは、今から30数年前のこと。
「もとは、十日町の新座にあった樋熊鉄工所の樋熊武(ひぐま たけし)さんが試行錯誤して考えついたものです」
樋熊 武さんが作ったから「クマ武」。
「特許をとって、作り始めた頃に残念ながら亡くなられまして、弊社が引き継ぐことになりました」
雪国の家庭には、一家に1台スノーダンプ
そもそも、スノーダンプとはどんなものなのでしょうか。
「スノーダンプは道具の名前で、他の会社でも使っています。ダンプカーのように雪を乗せて、運んで降ろせるということだと思います」
雪国の生活では、建物を雪から守り、人や車が通る道を作るための除雪が欠かせません。
昔は「こしき」という木製のスコップなどで屋根の雪おろしなどをしていました。
昭和30年代に鉄製のスノーダンプが登場。
その後、軽量のプラスチック製、アルミ製ができるなど、スノーダンプは雪国の生活を支えてきました。
「昔と比べて雪は少なくなりました。私が子どもの頃は家の2階からでも外に出られないぐらい積もっていましたが、今は消雪パイプ(道路に埋め込んだパイプから地下水を流して除雪したり路面凍結防止をするもの)や除雪車もあるので、除雪も楽になりました」
それでも雪の多い年は1シーズンに10回くらい屋根の雪下ろしをすることもあるそう。
「スノーダンプは雪下ろしだけでなく、家の前や道に積もった雪も片付けなくてはいけないので、どこの家庭にもあると思います」
作業を少しでも楽にしたいという切実な思いを形に
ではクマ武スノーダンプはどんなものなのでしょうか。
「こちらがクマ武スノーダンプです」
‥‥失礼ながら大きなチリトリのようにしか見えず、あまり最強さが感じられません。どこが他のものと違うのでしょうか。
「一般的なスノーダンプは一枚板で作りますが、クマ武は先端部分と鍋の部分(雪を乗せる部分)が分かれています」
「先端の板は他よりも厚いので、雪が切りやすくなっています」
「雪を切る」とは?
「積もった雪にダンプを刺し込むと、すっと切れるというか。プラスチックは硬い雪だと刺さりにくいし、鉄の一枚板は、使ううちに先端が削れてしまいます」
クマ武はステンレスなので鉄よりも硬く、しかも先端部分を厚くしているので削れにくく、長持ちするそうです。
また、ステンレスは滑りもいいといいます。
「乗せた雪を運ぶ時も滑りがいいので簡単に押すことができますし、捨てるのもスッと捨てられる。雪離れがいいのも特徴ですね」
特に雪下ろしには、この「雪離れ」が重要だと言います。
「屋根に上がるのは危険ですので、落ちないよう、滑らないように気をつけなければいけません。スノーダンプの雪離れが悪いと、雪を捨てた時に体ごと持っていかれそうになるので危ない。だから雪離れがいいことが重要になります」
雪下ろしはどのくらい積もるとするものなのでしょうか?
「1〜1.5メートルぐらいですかね。この辺りは水を含んだ雪で積もるほど重たくなるので、早めに下ろす人もいます」
クマ武は、この水っぽい雪にも向いているそうです。
「ステンレスは氷点下になるような地域では、雪が凍りついてくっついてしまうので向いてないと思います」
経験のない者には想像もつかないエピソードばかりです。
作業を少しでも安全に楽にしたい。そんな切実な思いを形にしたクマ武スノーダンプ。その最強さがわかってきたような気がします。
一生物の除雪道具
オールステンレス製のクマ武は錆びにくいのも特徴。
「使い方にもよりますが、最近、発売当初のものと思われるものを修理に来た方がいます。上手に使えば一生ものとして使えますね」
サイズは屋根用と中サイズ、大サイズの3種類。
「先端部分の長さが違います」
鍋の大きさは全部同じで、先端部分が2センチずつ大きくなっていきます。
「少しでも軽いのが欲しい人は屋根用。力があれば大きい方が一度にたくさん雪を運べます」
厚さにもひと工夫が。
「鍋に対して先端部分だけコンマ数ミリ厚くしてあるんです。全部を厚くすると重くなってしまうので」
重さは屋根用が4.7キロ、一番大きいサイズは5.5キロ。
持ってみるとスノーダンプ自体、かなりの重さ。これに雪が入ると思うと、少しでも軽い方がいいのがよくわかります。
樋熊さんが亡くなったことで、開発の経緯など詳しいことはわかっていないそうです。
「いろいろ苦労して考えたんだと思います。試作品を見たことがありますが、形が違ったりしていました」
鍋の後ろの部分を曲げてあるのにも意味があるそう。
「おそらく、雪を乗せて持ち上げる時にここに足をかけるので、踏んだ時に痛くないようにしているんだと思います」
心憎い配慮がされているところもまた、クマ武を最強と言わしめる所以なのかもしれません。
山田屋商店さんが引き継いだ経緯はなにかあるのでしょうか?
「どういうんでしょうね。特別知り合いだったわけでもないようですが、お話をいただいて、いい品物ですので、引き継がなければと思ったのではないでしょうか」
山田屋商店さんが引き継がなければ存在しなかったかもしれない「クマ武スノーダンプ」。
実は、製造方法にも「最強ポイント」が隠されているんです。
迷いなく作業ができる最強の溶接道具
クマ武が作られている現場を見せていただきました。
「最初は樋熊鉄工所にこちらの従業員が行って作っていましたが、今は工場を弊社の倉庫に移して、3人で作っています」
作業場にはパーツが並んでいます。
「部材は燕三条の会社で作ったものを仕入れて、ここでは溶接して組み立てるだけになっています」
新潟県の燕三条といえば日本を代表する金物の産地。パーツにも最強さが伺えます。
部材の発注も、樋熊さんが始めた時のまま変わっていないそうです。
「作り方は残っていた従業員の方に教えてもらいました」
実は、溶接するための道具もクマ武専用、樋熊さんのオリジナルです。
「パーツを置けばすぐに溶接ができるように、置く角度も全て決まっています」
「よく考えてあるなと感心します。これがなければパーツを合わせるのも大変なので」
迷いなく作業ができる。
「そうですね。私どもはただ組み立てて溶接すればいいだけですから。ここまで考えた樋熊さんは本当にすごいなと思います」
スノーダンプ自体も改良はほとんどしていないと言います。
「鍋と持ち手のつなぎ部分を3点で止めていたところを、より丈夫にするために4点にしているぐらいです」
それだけ優れているもの?
「そうですね。ただ、昔と比べて体格の大きい方もいるので、もう少し持ち手を長くして欲しいとか要望はあるので、後々は考えていきたいと思っています」
クマ武という名前は?
「これも初めからできていました」
あぁ、本当に作る準備も全て整って、さぁ、これから作り出そう!という矢先だった。
名前がしっかり残って、きっと喜んでいるでしょうね。
「こんなに有名になるとは思ってなかったでしょうしね」
雪と仲良く暮らしてきたからこそ生まれた商品
山田屋商店さんではメンテナンスもしていただけるそうです。
「私どもではプレス加工ができないので、曲がってしまったものをきれいに直すのは難しいのですが、溶接であればいくらでも直してあげられます」
いいものなので、長く使って欲しいですね。
「そうですね。みなさん、使ってみるとやっぱりこれがいいなと言われます。安いものではありませんが、先端が減りづらいので長持ちすると思います」
十日町市の人口は5万人以上。豪雪地帯にこれほど多くの人々が暮らしている地域は世界的にも珍しいそうです。
それだけ、人々が上手に向き合いながら暮らしてきたと言えるのかもしれません。
雪のことをよく知る十日町だからこそ生まれた、クマ武スノーダンプ。
みなさんも冬の準備に求めてみてはいかがでしょうか。
<取材協力>
山田屋商店
新潟県十日町市山本町五丁目866番地6
025-752-3105
文・写真 : 坂田未希子
※こちらは、2018年12月4日の記事を再編集して公開いたしました。