間取りを選ばない“変形畳”が、フローリングに和室をつくる

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草新舎の変形畳XT

日本では1年365日、毎日がいろいろな記念日として制定されています。国民の祝日や伝統的な年中行事、はたまた、お誕生日や結婚記念日などのパーソナルな記念日まで。数多あるなかで、ここでは「もの」につながる記念日を紹介しています。

さて、きょうは何の日?

9月24日は「畳の日」です

「環境衛生週間」の始まりの日であり「清掃の日」であった9月24日。畳替えのタイミングと考えられるこの日を「畳の日」として、全国畳産業振興会が制定しました。住宅材・敷物としての畳の利点をPRする日となっています。

フローリングにも敷ける?新しい畳

生活スタイルの変化に伴い、和室のある家は少なくなりました。い草の香りやゴロゴロと横たわった時の心地よい畳の感触、たまに恋しくなります。

「新たに和室を作るのは難しいけれど、畳のある暮らしを取り入れたい」

そんな願いを叶えてくれるちょっと変わった畳に出会いました。部屋の形やサイズに制限なく、まるでパズルのように自由自在に敷ける変形畳「XT (エクスティー) 」です。

ゲストハウス晴
XTが使われているゲストハウス「晴」の一室。変形畳はモダンなコンクリート壁ともなじんでいます。海外旅行客からの問い合わせも多い、一番人気の部屋なのだそう
フローリングの上に部分的に敷くことも
希望の面積、形に合わせて自由自在に敷けます。フローリングの上に部分的に敷くこともできるので、マンション暮らしでも和室スペースが作れるのです
XT畳
畳1枚あたりのサイズが小さいので、1人で運ぶことも可能。ちょっと片付けておきたい時や、たまの陰干しの際にも気軽に移動できます

通常の畳は長方形。畳ができた奈良時代から1300年の間、ほぼ同じ形のままです。い草や藁などの天然素材が使われている畳の特性上、形を変えることは難しいと言われていました。

この難しさを克服し、新しい畳を生み出したのが、宮城県石巻市の「草新舎」。

宮城県石巻市にある草新舎

この変形畳はどのようにして生まれたのでしょうか。3代目の高橋寿さんにお話を伺いました。

国宝、重要文化財の神社仏閣や旅館の経験が生んだ技

「これまで、特注畳の依頼を数多く経験してきました。例えばお寺では、畳の部屋に大きな丸い柱が立っていたり、曲がり角のある廊下にまで畳が敷き詰められていることがあります。

畳は並べた時に隙間ができてしまったら失敗です。時にはミリ単位の調整をします。美しく敷き詰めるためには、正確な採寸技術や割付技術が求められました。加えて、一般的な形の畳だけでは敷き詰められないので、形を変える必要に迫られることがしばしばありました」

多くの日本家屋での施工を行ってきたそう
草新舎の手がけてきた畳は多岐にわたり、国宝、重要文化財の神社仏閣や旅館では、特殊な形を求められることも多かったそう

「い草を編んで作る畳表は、縦横を直角に折り込むことはできますが、斜めに折ろうとすると毛羽立ってしまったり、傷めてしまうことになります。求められる形が作れるよう素材の研究や加工技術を磨いているうちに、角度のついたもの、縁のないものなど自由なデザインの畳が作れるようになっていました」

空間の形に合わせて敷きつけ方を設計する技術もさることながら、畳づくりそのものに職人の高い技術が必要でした
空間の形に合わせて敷きつめ方を設計する技術もさることながら、畳づくりそのものに職人の高い技術が必要でした。中には、特許を取得している技術も

光の角度によって変わる陰影美

こうして生まれた変形畳。敷いてみると、もう1つ魅力が見つかります。それは、陰影の美しさ。

この畳はすべて同じ素材、降り方で作られたものですが、ものによって色が違って見えます
この畳はすべて同じ素材、織り方で作られたものですが、ものによって色が違って見えます

「光が反射する角度によって畳の濃淡が変わることに気づきました。色彩すら感じます。畳を回転させて使うことで、変化をつけることができました」

太陽の光が入る空間では、時の移ろいとともに畳も表情を変えていくのだそう。

弾力性、調湿性。天然素材で作ることの魅力

人工素材を使った畳風床材には様々な形のものがすでにあったといいます。それでも高橋さんはあえて天然素材を使うことに挑戦し続けてきました。

「歴史を紐解くと、畳文化がはじまった奈良時代の畳は寝具として使われていたそうです。私にとっては、寝心地の良さが畳の条件です。

草の香りに包まれる心地良さは、今でも体に染み付いています。それが天然素材の畳にこだわる大きな理由にもなっています」

心地よい空間を作る畳

「機能面でも天然素材ならではの魅力があります。

弾力のある稲藁を畳の中身に使うことで、座布団いらずの座り心地が生まれ、歩くショックを吸収することから足腰への負担を減らすとも言われます。もちろん、寝心地も抜群です。

また、わら畳床は湿気を吸収する性質があります。部屋の湿度を調整してくれるので、さらりとした肌触りと心地よい空間を作ってくれるのです。室内から吸収した湿気は、日中の乾燥と通気によって、自然に放湿され、その機能は継続的に発揮されます」

知らず識らずのうちに感じていた畳の心地よさは、藁やい草の性質によるものだったのですね。

世界からも注目される、サステナブルな床材

国内外問わず法人、個人いずれの相談も受け付ける草新舎の変形畳は、様々な場所で注目されています。

「国内では、一般住宅のほか、ホテルやジムなどでもXTシリーズの畳を使っていただいています。

フランスには『タタミゼ (タタミーゼとも) 』という日本のことが好きな方々を指す言葉もありましたが、このXTを発表してから、ヨーロッパやアメリカ、ドバイ、インドなどから問い合わせが来るようになりました。

機能性とデザインを兼ね備えた畳が求められているのを感じています。天然素材で環境に負担のないサステナブルなものであることも魅力の1つのようです。

昔ながらの和室でなくとも、畳の心地よさを味わっていただけたらこれほど嬉しいことはありません。現代の暮らしに合った畳をこれからも提案していけたらと思います」

高橋さんお話を伺い、変形畳に触れてみて、その魅力を実感しました。新しい畳の登場によって、和室の可能性が広がっています。

<取材協力>

株式会社 草新舎

宮城県石巻市桃生町神取字屋敷69番地

0120-07-3060

http://soushinsha.co.jp/



ゲストハウス 晴

東京都台東区西浅草2-27-10 豚八ビル3F

http://hostel-haru.com/

文・写真:小俣荘子

画像提供:草新舎・ゲストハウス 晴

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