京友禅の職人が作ったメガネ拭き ヒットの裏側。かわいい顔した、ほんまもん。
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今、新たな京土産として注目を集めている、メガネ拭きをご存知ですか。
京友禅に携わる若き経営者4人が、会社を越えて立ち上げたブランド、SOO(ソマル)が手がけるメガネ拭きは、京都でしか手に入りません。その名も、「おふき」。
手のひらサイズのかわいらしい布には、京友禅を更に発展させていこうとする熱い想いが込められていました。
「おふき」誕生の経緯やこれからの取組みを、SOOの皆さんに伺います。
京都を代表する工芸品、京友禅の今
京友禅は、国が指定する「経済産業大臣指定伝統的工芸品」の一つ。
真っ白な正絹の生地の上に、手描きや型を使って鮮やかな模様を染め上げていく京友禅は、図案の制作から仕上げまで20以上もの工程を必要とし、各工程はそれぞれ専門の職人が分業で進めていきます。
鮮やかな美しさで全国的にも名高い京友禅ですが、着物の流通量の減少にともなって需要は低下しています。
販売開始からわずか一年で、引く手あまたの人気商品に
京友禅の事業者による「京都友禅協同組合」の青年部、「京都友禅青年会議所」は、この状況を打破すべく、京友禅の技法を活かした商品の開発に長年取り組み続けてきました。
帽子や靴、皿など、様々な製品を試作したものの、いずれも商品化までは至らなかったそう。
そこで日根野さんら4人が立ち上げたのが、京友禅の新ブランド、SOO(ソマル)です。「染める」・「染屋」から連想した「そまる」を、染屋の屋号としてよく使われていた「一文字を丸(○)で囲んだロゴマーク」に置き換え、現代風にアレンジを加えて「SO(ソ)O(マル)」と名付けられました。
「京友禅を手軽に持って帰ってもらいたい」との思いから、SOO第一弾の商品として、京友禅のメガネ拭き「おふき」は誕生したのです。
「おふき」は2017年夏に百貨店のポップアップショップにて販売を開始。「京都のもの」というブランディングの一環で、ネット店舗を含め、京都市内以外では一切販売をおこなっていません。
本物の京友禅を1500円(税抜)という手軽な価格で購入でき、しかも京都市内でしか購入できない珍しさから、人気は徐々に高まっていきました。現在では京都市内30店舗で取扱われるまでに。
京友禅というと高級なイメージがありますが、一体どうやって手頃な価格を実現しているのでしょうか。
「『おふき』だけを別に染めると、コストが掛かってしまいます。普段の仕事の延長線上での商品作りをコンセプトに、着物を染める工程からいかに外れずに作るかを考えました」
SOOメンバーの一人、安藤さんが経営する安藤染工へお邪魔し、「おふき」作りの様子を見学させていただきました。
ほんまもんの京友禅「おふき」が染められる工場へ
「『おふき』は、着物を染める各工程の職人さんに、普段と同じことをしてもらいながら作っています。
着物用の生地と一緒に『おふき』用の下地を染め、その生地を使っているのです。こうすることで価格も抑えられます。
小さくても、手頃な価格でも、着物と全く同じ材料・工程で作った『本物』を手にとってもらいたい、という思いでやっています」
「染め」の工程だけでも、これほど手がかかっているとは。「おふき」には長年培われた技術が詰め込まれているのだと実感しました。
逆境から生まれた、究極の京土産
「『おふき』は京友禅の生地をカットしただけの『布』です。ある意味、京友禅が主役となる究極の形といえます。
絹は目が細かいため、メガネを拭くのに適していますし、天然繊維で静電気が起きにくく、ホコリがつきにくい。生地の特長も最大限生かした商品ができました」
今年の4月からは新作として、スマホ拭きの「おふきmini」も登場。こちらはコンビニの店頭でも販売されるなど、売れ行きは更に好調さを増しています。
世界一の技術を知ってもらいたい。SOOの思い
しかし、SOOの目標は「おふき」の販売売上を上げることではない、と代表の日根野さんは語ります。
お客さんとの接点を生み出し、「おふき」を通じて京友禅そのものに興味を持ってもらえるよう、積極的に働きかけているのです。
「まずは『こうやって手をかけて染めているのか』と、京友禅の価値を知っていただく。その上で、着物などにも興味を持ってもらえたら嬉しいです」
また、SOOは日本国内だけでなく、世界展開も見据えています。今年の秋には台湾の展示会への出展も予定しているとのこと。
「正絹生地を染めることにおいては、京友禅が世界一だと思います。これだけの技術があるのだから、着物以外にも利用価値は必ずあるはずです」
需要減という逆境から生まれた「おふき」そしてSOOは、逆境に立ち向かうだけでなく、世界にまで京友禅の可能性を広げようとしていました。
熟練の職人さんたちの技術や手間が込められた「おふき」。皆さんも京都を訪れた際には、ぜひ手にとってみてください。
きっと、その色合いや手触りに、ほんまもんへの作り手の思いが感じられるはずです。
<取材協力>
SOO(ソマル)
京都市上京区元誓願寺通東堀川東入西町454 (株)日根野勝治郎商店内
075-417-0131
https://soo-kyoto-soo.amebaownd.com/
安藤染工
京都市右京区西院西寿町21-3
075-311-0210
「おふき」取扱店
https://soo-kyoto-soo.amebaownd.com/pages/1334237/page_201710100047
文・写真:竹島千遥
写真提供:SOO