3日間しか見られない「鹿」は300年前の技法で生まれた
エリア
2018年10月12日 (金) から、10月14日 (日) までの3日間に渡り、「こもガク×大日本市菰野博覧会」が開催されました。
祭典のシンボルとなる萬古焼の「鹿」を制作
開催を記念して、菰野町に伝わる繊細な「古萬古(こばんこ)」の絵付けで今回の博覧会のシンボルの鹿が制作されました。
剥製や骨格見本を参考としてリアルな鹿の姿を模しつつ、造形のバランスを追求して作り上げられたという萬古鹿。触れたくなるような滑らかな曲線、存在感のある立派な角が印象的です。そして、体を彩る色絵の美しさに目を奪われました。
「古萬古」の技法を用いた制作現場へ
萬古焼といえば、土鍋や急須などが有名ですが、300年の歴史の中で時代の移り変わりに合わせて多種多様なものが作られてきました。発祥当時は、文人や知識人に好まれた繊細で鮮やかな絵柄のものが主流でした。現在は「古萬古」と呼ばれているものです。
今回つくられた、萬古焼の鹿を手がけたのは堀野証嗣さんと山口静香さん。
昔ながらの技法を取り入れての作陶はどんなものだったのでしょうか。祭典開催から遡ること1ヶ月、制作現場を取材させていただきました。
昔ながらの萬古焼を現代に
伺ったのは、菰野陶芸村にある堀野さんの工房。
堀野さんは長年作陶を続ける中で、「古萬古」の赤絵の繊細さ、風雅な味わいに魅せられ、これを現代に甦らせる取り組みも行ってこられた方。
「磁器は色がパキッと反射するので鮮やかで華やかですよね。一方、つちものである陶器に彩色を施すと柔らかい雰囲気になります。独特の落ち着きが生まれるんです」と堀野さん。
地元の土と、天然素材の釉薬
堀野さんは作品に合う素材をその都度吟味されるのだそう。今回の制作には、地元の土が使われました。
釉薬は、松の葉を乾燥させて灰にした「松葉釉(まつばゆう)」を使用。萬古焼で昔から使われてきたものです。この釉薬を使うと、素朴で柔らかな質感に仕上がるのだとか。
現代では、合成釉薬を使うことが一般的。その方が様々な窯の中の環境に対応できるので、作品の質が安定するといいます。一方で松葉釉を使うと思い通りの仕上がりにならないこともあるのだとか。
それでも、この釉薬を使ったのには理由がありました。それは、焼きあがりに偶発的に生まれる斑点を期待してのこと。
単なる柄にとどまらない“衣を纏ったような”絵付け
今回の絵付けは、娘の山口さんが担当されました。
古萬古焼の文様を組み合わせた絵柄に、「瓔珞文様 (ようらくもんよう) 」が合わせられています。
赤の発色を良くする成分は‥‥
赤い絵付けに使われているのは、「紅殻 (べにがら、またはベンガラ) 」という顔料。
粉状になった紅殻を、ガラス板でさらに細かくして使います。この際に使われる水分は、なんと腐らせたお茶。お茶の中のタンニンが紅殻と反応して、鮮やかに発色するのだとか。これも昔からの使われ方です。
父娘一緒に仕事をするのは、実は今回の制作が初めてのことだったそう。
「娘を褒めるのもなんですが、絵のバランスがすごく良いんです。柄というより、鹿が何か纏っているように見える。今はまだ下絵だけですが、瓔珞文様に色が入るとさらによくなると思います」と語る堀野さんが印象的でした。
<取材協力>
八幡窯 堀野
三重県三重郡菰野町千草7072-1 菰野陶芸村内
059-392-3064
文:小俣荘子
写真:西澤智子