ここにしかない一点ものを求めて、プロダクトマニアが訪れる店
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新年の書きはじめ、さんちを見てくださってるみなさんに今年もたくさんいいことがありますよう、縁起ものの話から。
お正月、帰省を兼ねて訪れた地元、福岡。「あついお店がある」と友人が教えてくれたのは、“郷土玩具”の専門店でした。
器や帽子、時計など、世の中にはいろいろな専門店がありますが、まさか郷土玩具の専門店とは。これは覗かずにはいられません。新年の縁起ものを求め、福岡 今泉にある山響屋(やまびこや)さんへお邪魔しました。
※ “郷土玩具”とは、昔から日本各地で作られてきた“郷土”の文化に根ざした“玩具”。だるま、木彫りの熊、こけし等も郷土玩具のひとつ。その土地の風土・文化に密接が反映されています。
想像を裏切る、にぎやかな空間
「郷土玩具屋」と聞き、町の骨董品屋さんのようなイメージで訪れた山響屋さん。いい意味で、裏切られました。
宝石箱をひっくり返したみたいな、にぎやかで楽しい空間。九州の郷土玩具を中心に扱っているというだけあって、色鮮やかな郷土玩具がぎっしりと並びます。(九州地方の郷土玩具は、彩度が高く、色味の強いものが多いのです)
楽しい空間にあがるばかりのテンションを抑えつつ、迎えて下さった店主の瀬川さんにお話を伺います。
瀬川 信太郎(せがわ しんたろう)さん
山響屋店主 / だるま絵付師
1984年生まれ 長崎県島原市出身
全日本だるま研究会 会員
※ご本人は、かなり独特の九州訛りで話されますが以下訳してお伝えします
日本でも稀な“郷土玩具の専門店”
2015年の春にオープンしたという山響屋さん。最近、ようやく雑誌やネットでも特集されるようになった郷土玩具ですが、まだまだマイナーな領域であるのも事実。なぜまた郷土玩具のお店を開こうと思ったのか、始めるまでの経緯を伺いました。
山響屋をはじめる前は、大阪の雑貨屋で働いていた瀬川さん。各店のディスプレイ監修や、バイヤーをしていたそうです。
「自分のお店を出そうとは決めていたけど、特にはじめから郷土玩具に絞って考えていたわけではないです。元々、木彫りのお面とか食器とか人の手で作られたものが好きだったので、民芸品かなぁというぐらい。
独立を決めていた30歳を目前にした頃にちょうど、だるま絵師としての活動も本格的にはじめて。その流れもあって、九州の郷土玩具を扱うことにしました」
瀬川さんはなんと、だるまの絵師でもありました。趣味で描いていた絵が注目され、大阪を拠点に縁起アートを手がける「うたげや」にだるまの絵師として参画。三原のだるま市への出店や、大阪での個展を経て福岡に戻り、山響屋を開店したのだとか。
「はじめは郷土玩具のことはほとんど知りませんでした。でも、取り扱っていくうちに郷土玩具が作られた土地や人、文化の魅力にどんどん惹きつけられてハマっていきました」
絵師としての活動も続けながら、九州を中心に日本全国を周りながらバイイングをしています。
次に繋げていく、もの選びを
バイイングの基準を聞いてみると、素敵な答えが返ってきました。
「今は作っていない昔のものじゃなくて、作り続けられるものだけを扱うようにしてます。今、郷土玩具を作ってくれている方たちが、今後も“仕事”として続けていけるように、次に繋げていくことが俺の役割だと思っているので」
廃盤の中から目利きが選ぶ、次のヒット商品
駆り立てられる物欲に困るほど、扱ってる商品はとにかくかわいい。また「こんなものあったんだ!」という珍しいものが多く目につきます。
他では見ない郷土玩具、どうやって集めているのか?と聞くと「とにかく現場に行って、作り手と話してる」と教えてくれました。
「作り手と話しながら、作られてるものを見せてもらいます。すぐには出てこないんですけど、話し込んでると片隅の方にね、面白いものが埃を被ってひっそりと佇んでいるんですよ。
それ欲しいって言うとだいたい、『もう、型がどこにある分からない』とか言われるんですけど、そういうものこそ“その土地の匂い”がしてすごく良かったりするんです」
古いカタログに載っている廃番商品を、もう一度作ってもらうようお願いすることもしばしば。最初は断られることも多いそうですが、何度も通って再生産をお願いするのだとか。
「世の中に見向きされていないものを見つけて、紹介するのが楽しいんです」
最近も、長年作られてなかった津屋崎人形の〈 ごん太 〉をようやく作ってもらえたのだそう。「今では扱う店舗も増えて、いつの間にか人気ものです。『生産が間に合わん』って、手に入れるのが大変になりました」と、笑います。
オリジナルのものも作ってもらうこともあるのか尋ねてみると「それはしてない」との答えが。
「わざわざ新しいもの作らなくても、いいものは絶対にある。作り手が作れるものの中から、新しく主力商品になりそうなものを探し出すのが、大事なことだと思うんです」と話します。
その為、工房に足を運び、何があるかどんな商品を作ってるのかをひとつひとつ見るのだそう。バイヤーとして、これまで国内外でたくさんのプロダクトを見てきたという瀬川さん。いいものを探し出す審美眼が鍛えられているのを感じます。
長い時間をかけて、研ぎ澄まされてきたもの
郷土玩具ってこんなに人気があったのかと驚くほど、取材中も入れ替わり立ち替わりでお客さんがやってきます。いつもどんな方が買っていかれるのか聞くと、デザインやものづくりに関わる方が多いとか。
「郷土玩具って、高級工芸や美術品じゃなくってあくまで“おもちゃ”だから、何の制約もなく自由に変わってもいい、しなやかさを持ってます。だから、デザインも、どんどん磨かれて洗練されてきてるんです。
何代にも渡って支持されて残ってきたものはやっぱり、パッとでてきたプロダクツには負けんかっこよさがあります。何でこういう色か形か、ひとつひとつに文化があるし、すごく根が深い。
うちのお客さんは、感覚的にでもそういう背景や造形の奥深さに惹かれてるんじゃないかな。何というか、独自のセンスを持ってる人が多いように思います」
流行りや人気など、外から借りてきたような価値観じゃないものを軸に物選びをする人たちが、自分が好きなものを探してここにやってくるのかなと感じました。
郷土玩具店の、これから
これからどんなことをしていきたいか、郷土玩具店のこれからを尋ねました。
「今は、廃絶してしまった福岡の郷土玩具を復活させるプロジェクトを進めています。どうしても無くしたくないんだけど、一人しかいなかった作り手の方が辞めちゃったので、それなら自分たちで復活させようと。
地元のメーカーさんと作り手の息子さん、町の行政の方に協力してもらって制作を進めているところです」
今年の春に発売予定のその郷土玩具は元々、地域の祭礼で売られていた町のシンボルのような存在だったのだそう。この再生プロジェクトは、ものの復刻という域を超えて地域復興へも繋がっているのかもしれません。
「ひとりの力は限られてるけど、ひとりが動けばどうにかなることは意外と多いです。郷土玩具の世界は特にそんなに大きいものでもないし。そしてやっぱり地元にいる人が、思いを持って動くべきだと思います」
九州の郷土玩具は、瀬川さんがいる限り安泰な気すらしてきます。
「あとは将来、本を出したいです。郷土玩具からその土地の観光地や行事を紹介するような本。今あるガイドブックに紹介されてる有名なところの他にも、九州には魅力的なところがいっぱいあるし、そういう場所もみんなに知ってほしい。
郷土玩具の背景には、それが使われている祭りや神事や、売られている朝市があったりして深いですし、ものの周りを知ることでそのもの単体だけじゃなくって、その土地自体に愛着が湧くと思うんです」
お店のセレクトを見ても分かるように、それはきっとまだみんなの知らない情報が掲載されたおもしろい本となるに違いありません。
取材中、ひっきりなしに来られる山響屋さんのお客さんがみなさん、郷土玩具を持ってとても幸せそうに帰っていかれるのが印象的でした。縁起ものを届ける仕事っていいですね。
福岡のアパートの一室にある小さな郷土玩具店は、お客さんにも作り手にも、そして郷土玩具の未来にも、大きな縁起をもたらすとっても素敵なお店でした。
山響屋
福岡市中央区今泉2丁目1-55やまさコーポ101
092-751-7050
http://yamabikoya.info
文・写真 : 西木戸 弓佳