知るほど全部ほしくなる。フィリップ・ワイズベッカーの描く「日本の郷土玩具」が九谷焼の絵皿に。
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フランス人アーティストが出会った日本の郷土玩具。
JR東日本、資生堂やとらやなど、日本の企業広告や書籍の挿画も数多く手がけるフィリップ・ワイズベッカーが1年をかけて、全国の郷土玩具の作り手を訪ねる旅に出ました。
そして2018年秋、旅の道中に描いた12枚のデッサンから、新しいワイズベッカー作品が生まれることに。
日本の十二支の郷土玩具が描かれた、愛らしい12枚の飾り皿です。
器を企画したのは「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げる生活雑貨メーカーの中川政七商店。
オファーに応えたのは石川県を代表する伝統工芸品「九谷焼」の窯元、上出長右衛門窯 (かみでちょうえもんがま) 。
海外アーティストが描く郷土玩具の世界観を、日本の工芸メーカーはどのような器で再現したのか。
洋の東西を超えたものづくりの現場にお邪魔してきました。
創業140年を迎える九谷焼の窯元、上出長右衛門窯
石川県南部を中心に生産され、国の伝統的工芸品にも指定されている九谷焼 (くたにやき) 。
その特徴は美しい藍色の染付 (そめつけ) と、九谷五彩と呼ばれる「青、黄、紫、紺青、赤」の鮮やかな絵付にあります。
上出長右衛門窯は1879年 (明治12年) 創業。まもなく創業140年を迎える、石川県能美市にある九谷焼の老舗です。
九谷古来の技法を生かし割烹食器をメインに器を作り続けてきましたが、近年では世界的デザイナー、ハイメ・アジョンとのコラボや九谷焼の転写技術を生かしたブランド「KUTANI SEAL」を立ち上げるなど (現在は合同会社上出瓷藝が運営) 、従来の九谷焼のイメージを刷新する取組みが注目を集めています。
その旗手こそが6代目にあたる上出惠悟 (かみで・けいご) さん。
上出さんは東京藝術大学在学中に制作した、九谷焼作品『甘蕉 房 色絵梅文』が評判を呼び、のちに金沢21世紀美術館に収蔵されるという異色の経歴の持ち主でもあります。
360年続く九谷焼の伝統。ワイズベッカーさんが描く日本の郷土玩具。上出さん率いる上出長右衛門窯。
それぞれがどう交わり、12枚の飾り皿は生まれたのか。上出さんご本人に伺います。
フィリップ・ワイズベッカーから見た日本の郷土玩具。上出惠悟から見たフィリップ・ワイズベッカー
——十二支の絵をはじめて見たときは、どんな印象でしたか?
「ワイズベッカーさんの手がけた作品は前々から見て知っていたのですが、今回の十二支を見て、改めて改めて独特な遠近感のある表現のまとめ方がユニークだなと思いました。
ワイズベッカーさんにしかない線の出し方で、一体どういう紙にどんな道具で描いているんだろうと思います。
そういうワイズベッカーさんの線で、日本の郷土玩具が描かれているところのギャップをすごく面白く感じました。
例えば赤べこは、多くの人が一番見慣れている郷土玩具だと思うんですけど、ワイズベッカーさんが描くとこういう風になるんだ、みたいな発見があって面白いですよね」
——再現の上で大事にしたことはありますか?
「基本的には割烹食器をメインに作っているので、小鉢とか向付と言われるような、小さな器に細かな絵付をする仕事が普段は多いんです。
でも今回は大きなお皿にとてもシンプルな線で構成されたワイズベッカーさんの絵を載せるので、そのまま描くと間が抜けちゃうんですね。
シンプルな線と独特な間の取り方みたいなものがワイズベッカーさんの絵の大きな特徴だと思うので、その魅力をどこまでお皿に手描きで落とし込めるかが、普段にはない難しさでした」
絵と文様の違い
これまでもスペイン人デザイナー、ハイメ・アジョンとのコラボ商品など、海外アーティストとのものづくり実績がある上出長右衛門窯。しかし今回の飾り皿は「経験は活かされているけれど、これまでとまたちょっと違いました」と上出さんは語ります。
「絵と文様って違うんです。絵は多分その人にしか描けなくて、誰でも描けるのが文様。
今日本に残っている文様って、青海波、麻の葉みたいなパターンや家紋もそうですが、要は誰でも描けるからこそ残っているんだと思います。
けれど絵になるとその人自身のセンスに依るところがとても大きいので、別の人が描くと全く別物になっちゃう可能性がある。
ハイメ・アジョンの時は本人と直接デザインを詰めていった結果、絵よりも文様のようになりましたが、今回はワイズベッカーさんのやりたいことを感じ取って、完成された絵をいかに忠実に再現するか、に徹して取り組みました。その分、僕らの技術が試されるものでもありました」
この重役を任されたのが、熟練の絵付師である井上さん。
絵付の作業場にはアップテンポなBGMが流れる中、黙々と作業する背中は目の前のひと筆に集中する緊張感を常にまとっていました。
流れるような手さばき、筆さばきはどこか神聖さすら感じられるほど。その様子は見ていただいた方が早いでしょう。ワイズベッカーさんの絵が立体的な飾り皿に生きづいていく過程を動画に納めました。
九谷五彩も超えて
井上さんが見せてくれたのは、器作りのうち「上絵付」という工程。
釉薬をかける前に彩色する「染付 (下絵付) 」に対して、釉薬をかけた後に色を施すのが「上絵付」。
ガラス質の絵の具で立体的に彩られる九谷五彩は大変美しいですが、絵の具によって特性が微妙に異なるため、そのことを頭に入れながら何度か焼き直しをして色ムラを減らすなど、時間をかけて完成度を高めて行きます。
これを十二支すべてに行うのだと思うと‥‥途方もない道のりを経て生まれてきた器に、一層の愛着がわいてきます。
しかしこの飾り皿、大変な手間暇をかけた分の収穫も大きかったそうです。
「九谷焼って色を混ぜることを普段あまりしないんです。でもワイズベッカーさんの原画に近い色を再現する過程で、いろんな色をテストさせてもらって、そこから生まれた色が他のアイテムに活用できたケースもありました」
今まで使ってこなかったような中間色を、自分たちで調合しながら作れたというのはいい経験だったと思います」
伝統的な九谷五彩の枠も超え、何度もサンプルを作りながらようやく完成した12枚の飾り皿。上出さんのギャラリーにずらりと勢揃いした様子がこちらです。
「ワイズベッカーさんの筆のタッチや手のストロークを、そのままそっくり写すことはできません。それでも見た方や触った方、買われた方がうちの職人が描いた絵の中に、ワイズベッカーさんらしさみたいなものを見つけてもらえるとすごく嬉しいです」
飾り皿の販売は中川政七商店のオンラインショップでのみ行われますが、11月から1月まで、4つの直営店で原画巡回展が開催されます。機会があったらぜひ間近で、その一筆一筆の息遣いを感じてみてくださいね。
<掲載商品>
「ワイズベッカー 九谷焼 大皿」 (中川政七商店)
*絵付以外の工程も網羅したものづくり動画を特別公開しています。
<原画巡回展>
下記4店舗で原画巡回展を行います。
2018/11/7~11/20 日本市 日本橋店
2018/11/28~12/11 中川政七商店 二子玉ライズ店
2018/12/19~12/31中川政七商店 GINZA SIX店
2018/1/4~1/15 中川政七商店 ルクアイーレ店
<取材協力>
上出長右衛門窯
石川県能美市吉光町ホ65
0761-57-3344
http://www.choemon.com
文:尾島可奈子
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