わたしの一皿 土鍋のある景色
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気づくと食器棚のうつわたちが冷えてきました。
冬がもうすぐそこか。家にはそんな、目に見えるだけじゃない「景色」がある。
生活の景色。たとえば、個人的には火を使って料理をするとか、家電をなるべく目立たせたくないとか、そんなことだったりするんだけど、景色って実はとても大事でしょう。今日はそんな話。みんげい おくむらの奥村です。
土鍋をふだん使っていますか。
うちは断然土鍋派。炊飯器やら、ホットプレートと一体になったような鍋、そんな便利な家電もたくさんあるだろうが、それでも冬にはぜったいに土鍋の景色がほしい。
もちろんそれは景色だけの話ではない。味もよいのです。
うちでご飯を食べると「普段はしないんだけど‥‥」って言いながらおかわりをする人が多いから、まず間違いないのだと思う。これホントの話。
冬に限らず毎日のように土鍋で米を炊いたり調理をしたりしているけれど、冬は特によい。
何がよいって、土鍋を火にかけるとなんとなく部屋があたたまったり、湿度が高まったりする感じがある。はかったことはないが、たぶん事実だ。
これがそもそも景色としてよい。湯気がぼぼーっと立ち上るあの姿はなんともホッとする景色でしょう。
いやいや、そんなの時間がある人しかできないよ、とは言わないで。土鍋で米を炊くことをおぼえると、炊飯器よりも楽。
僕なんかとうの昔に炊飯器を捨ててしまったので、電気の炊飯器だとどう炊いてよいかわからない。
米を炊くのに使う土鍋は主に2つで、米炊き専用の深さがあるものと、今日使っている万能のもの。
後者は伊賀の量産のもので、値段も使いやすさもバランスがとてもよいもの。伊賀の土で作られた土鍋はこういったものから、作家さんのこだわりのものまでかなり幅が広いが、ともかくも土鍋と言えば伊賀、という産地。
初めて土鍋を買うなら、見た目も大きさもクセのない、できるだけふつうのものがよいでしょう。変わったものは慣れてからにすべし。
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今日はいつもの市場で安かった小エビを使った炊き込みご飯。こういう時の定番の桜エビに限らず、淡いピンク色の小エビは炊き込みご飯に映える。
これはいわゆるアミ。塩辛なんかに使うやつ。酒と薄口醤油だけであまり強い味をつけない、ごくごくシンプルな仕上げに。
ごま油や中華だしで炊けば中華風になるし、バターを入れるとちょっと洋風に。炊き込みご飯は具も味付けも自由度が高く、大好きだ。

炊き込みご飯の時にこちらの土鍋を使うのは口が広くて、炊き上がりの景色が特によいから。小さなエビで一面薄ピンク。たまらんのですよ。
この土鍋ご飯の炊き上がりの湯気の感じなんてのは、末代まで伝えたい日本の家族の風景だと思っている。
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
薄味で仕上げて、最後に小ねぎをたっぷりとまぜこむ。これでまた色がよくなりますね。ああ、たまらない。
今日のものはえびから出る塩気もそれほど感じられないもので、実にあっさりと仕上がった。おかずと食べてもちょうどよい炊き込みご飯。
日本酒を飲みながらだったら塩をぱらりとふりかけるかもしれない。食感が欲しければごまでもどうぞ。
土鍋っていうのは本当にふしぎなもんで、生き物のような、相棒のような、特別な感情が湧く。
土鍋を洗っていると、なぜか必ず「お疲れ様、今日もありがとう」と思えてくる。炊飯器にはそんなこと思ったこともない。
鍋底にだんだんに火の色が付いたり、うっかり吹きこぼしてその跡が付いたり。ふとそんなのが目につくとまたこれが愛おしい。
奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
「みんげい おくむら」店主。月の2/3は産地へ出向き、作り手と向き合い、
選んだものを取り扱う。どこにでも行き、なんでも食べる。
お酒と音楽と本が大好物。
みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com
文・写真:奥村 忍
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