初笑いしに寄席に行こう

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こんにちは。さんち編集部の尾島可奈子です。

えェ〜皆さん、寄席でも行っていっぺん笑っときゃあ一年笑って暮らせるだろうと、縁起を担いで新年早々、こういう場にお見えになるんだろうと思うんですが、そう甘くはないんですね。だいたいこの‥‥

早速ふふふ、と客席から笑いが起こる。

正月三ヶ日もすぎた午後の寄席は、2階席までほぼ満員。おじいちゃんも和服のご婦人も買い物帰りのカップルも、めいめいお茶やお弁当を頬張りながらにこにこ噺を聞いている。こじんまりした演芸場では、お客さんの笑い声は合唱のように響いて一体になる。

あぁ、都内にこんなところがあったんだなぁ。噺のまくらであっさり噺家さんに見破られた通り、私も縁起を担いでどれ落語で初笑い、とふらふら来てみた口。

そんなわけで今日は初笑いのお福分けに、最近巷でも何かと話題の落語のお話。

と言っても笑いは取れませんからそれはぜひ演芸場に足を運んでいただくとして、さて、七草粥も済ませてそろそろ地に足をつけなくっちゃという今日この頃、落語にまつわる暮らしの道具のお話でも。

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熊さん八っつあんの登場する落語は江戸時代のイメージが強いですが、はじまりは室町時代末期までさかのぼります。戦国大名のそばに仕えて話を聞いたり世の中の様々な出来事を話して聞かせた「御伽衆(おとぎしゅう)」がその起源。

時の権力者お抱えの話のプロだったのですね。それがお金をとって人に面白い話を聞かせるスタイルになったのが江戸時代。馴染みのある寄席のはじまりです。

町人文化の栄えた江戸時代ですから、話の主役は大家さんにご隠居、若旦那。八百屋、魚屋、夜鷹そば。おなじみ熊さん八っつぁんも大工さんです。

「工芸と探訪」を掲げる「さんち」編集部としては、職人や暮らしの道具にまつわる噺などないかと見てみると、出てくる、出てくる。

ちょうどお正月が舞台の「かつぎや」は御幣かつぎ(縁起かつぎ好き)の呉服屋・五兵衛さんが主人公。

「よそう、また夢になるといけねぇ」のオチで有名な「芝浜」は大金の入った革財布をめぐるお話ですし、「紺屋高尾(こうやたかお)」は染物屋(紺屋)の職人・久蔵が花魁・高尾に一目惚れして叶わぬ恋に病に臥すところから始まります。

「普段の袴」はキセルが話のカギを握る、上野の道具屋を舞台にしたお話。「茶金」は主人公のひとり、茶屋金兵衛の通り名(茶金)がそのまま演目名ですが、その茶金の職業はたいそうな目利きという京都のお茶道具屋さんです。

数えればキリがないですが、落語にもよく登場し、江戸の頃から今も変わらず馴染み深い暮らしの道具といえばやはり風呂敷がその代表格。

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風呂場で自分の衣服を他の人と区別するために包んだことが名前の由来とされていて、銭湯の発達と共に庶民に広まりました。

火事の多かった江戸の町では布団の下に大風呂敷を敷いて眠り、火事を知らせる半鐘が鳴ると布団をくるんで家を飛び出した、という話まであります。行商はみな売り物を大風呂敷に包んで売り歩き、家庭では小さな風呂敷を買い物袋として活用したそうです。

落語の世界での風呂敷は、泥棒の商売道具として登場することもしばしば。そう聞いて思い浮かぶのは、やはり唐草模様の風呂敷でしょうか。

少々不名誉な知られ方をしている唐草模様ですが、実は四方八方に切れ目なく伸びる唐草は長寿や子孫繁栄の象徴。元々はお祝い事にも用いられる、縁起の良い柄です。

これぞ風呂敷、な唐草模様。
これぞ風呂敷、な唐草模様。

日本でも古くから文様は存在していましたが、ちょうど江戸に入って綿の布に人や花、生き物の模様を細かく染めた更紗(さらさ)が舶来し流行ったことから、庶民の使う風呂敷にも好んで唐草模様が描かれるようになりました。

ちなみにその名も「風呂敷」という噺がひとつあるのですが、こちらでは風呂敷の便利さが見直されている昨今でもちょっと思いつかないような風呂敷の使い方をしているので、寄席で運良く出会った方は、ぜひその愉快な使い方をお楽しみください。

ーと、あんまりここで噺の勉強ばかりしても、普段の寄席で事前にわかるのは出演者の名前だけ。何が聞けるかは当日のお楽しみです。

噺家さんはだいたい2・3の候補を腹に入れておいて、他の出演者と演目がかぶらないようにしながら、その場の客席の様子なんかを見て「今日はこれだ」と決めるそうです。

風呂敷包んで持って行ったら、もしかしたら話してくれるかも、しれませんね。

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色あわせ風呂敷 日の出

<参考>
瀧口雅仁 (2016)『古典・新作 落語事典』丸善出版
公益社団法人落語芸術協会ホームページ
(東京・横浜の演芸場一覧も載っているので寄席に行く時に便利です)

文:尾島可奈子

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