しめ縄の簡単な作り方・飾り方。プロに教わるしめ縄づくり体験

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お正月の「しめ縄」を手づくりする

とある日の東京・表参道「中川政七商店」。店の一角には2畳分ほどの絨毯が敷かれていた。続々と集まる参加者は靴を脱いで絨毯の上に座り込み、足元には五本指、あるいは二本指の靴下を履いている──。

もうすぐお正月。その日は、年神様をお迎えするために必要なお飾り“しめ縄”を作るワークショップが催された。

今回は「麻」を用いた作り方を教えてもらうことに。

しめ縄といえば藁というイメージが強い人にとっては「麻」は意外かもしれない。実は、伊勢神宮のしめ縄は麻で作られているそうだ。

一方で出雲神社ではイネ科の植物「真菰(マコモ)」が使われており、全国の神社でも伊勢系と出雲系では稲藁と真菰でそれぞれ使い分けされている。

職人さんがつくった注連縄
職人さんの逸品。麻ならではのツヤと仕立ての美しいこと!

教えてくれたのは創業100年を誇る麻問屋「麻光」三代目代表の江藤富士江さんである。

代々続く麻問屋「麻光」三代目の江藤富士江さん
代々続く麻問屋「麻光」三代目の江藤富士江さん。全国各地の神社へしめ縄を納める。また、国産麻の可能性を広めるワークショップも多彩に展開

「麻」で作るしめ縄とは?「麻は、神様の“よりしろ”です」

「一口に麻といってもいろんな種類やタイプがありますが、今回は長くて硬く、しっかりとした精麻(せいま)を使っていただきます」

ワークショップの様子
精麻は2メートルほどの長さ。江藤さんの身長よりも大きい

精麻とは、簡単にいうなら大麻草の茎の表皮を手間暇かけて精製した繊維のこと。

古来の麻の栽培方法や精麻に仕立てるための伝統技術があってこそ、独特のツヤと輝きのある質の高い精麻になるのだとか。

大麻草の茎の表皮を手間暇かけて精製した繊維、精麻(せいま)
これが精麻。黄金色でツヤと輝きがある

「そもそも麻には“穢れを祓う(けがれをはらう)”という意味があります。邪から身を守り、ご縁を紡いでくれるんです。

神社で神主さんがお祓いに使う祓串(はらえぐし)という道具に巻きつけられているのも精麻ですし、伊勢神宮の御札『神宮大麻』に用いられているのもまた精麻です」

さらに精麻は鈴緒の材料でもあるという。鈴緒とは、神社でお賽銭をするときに鳴らす鈴に繋がる綱のこと。鈴を鳴らすために、私たちが揺らすあの部分である。

「つまり麻は、私たちと神様をつなぐアンテナなようなものであり“神様のよりしろ”という意味も込められています」

そんなありがたい精麻を使って、早速、しめ縄作りスタートだ。

撚り(より)をかけて、捩る(もじる)。初心者にもできる、つくり方

しめ縄は、地域や作り手によって多様な形やサイズがあるけれど、今回は初心者向けの作り方を教えてもらった。

しめ縄作りの様子
今回のしめ縄作りには、細く長い精麻7本を使う

それぞれの手元に7枚の精麻を用意。

「まずは精麻2枚を1セットにしてなめします。両手で揉むようにして寄り合わせ、2枚が1本の紐になるようにしながら、繊維を少し柔らかくしていきます」

この紐を3本作ったら、ここからが本番。
足の親指に2本の紐をかけて、縄状に綯(な)っていきます。

ワークショップの様子
足の親指にかけるようにして固定する

このときポイントは「しっかり撚り(より)をかけながら、捩る(もじる)こと」。

撚り(より)とは紐を回転させることであり、捩る(もじる)とは、撚った紐を互い違いに交差させて編んでいくことである。しかも、撚りをかけるのは右回転で、捩る方向は左回転‥‥。

撚って、捩る‥‥。頭では分かっているものの、これがなかなか難しい。紐を撚ってから捩る。撚ってから捩る‥‥。

途中、江藤さんから「しっかり撚らない(よらない)とほぐれやすくなり、しっかり綯え(なえ)ませんので、ぎゅっと撚って(よって)からしっかりと捩って(もじって)くださいね」との檄が飛ぶ。

ワークショップの様子

ん、んん?? よって、なって、もじる‥‥?

耳慣れない用語の連発に戸惑いつつ、また「撚り(より)をかけてね」「ときには撚りを戻しつつ」‥‥言葉遊びのようだと思いながら、江藤さんに手取足取り教えられ、次第に形になっていく。

頭で考えて作るというより、手の感覚で綯っていけるようになるのが面白い。

「しめ縄の職人さんたちはこの作業をみんなで集まって、おしゃべりしながら行います。このくらいの長さだったら2分もあればできるかしら」

私たちはといえば、すでに40分ほど経過しているだろうか。

ワークショップの様子
次第に慣れていき、1本の本縄になっていく

四苦八苦しながらもようやく本縄が完成したら、3本目の紐を用意して、同じく親指にかけ、

「これもしっかりと撚りをかけます。撚りをかけながら、本縄のらせんに寄り添わせるようにして、はめ込んでいきます」

ワークショップの様子
本縄の編み目の間にさし込むようにして綯って(なって)いく
ワークショップの様子
3本を綯うとこんな感じに。右の輪は親指にはめていた部分
ワークショップの様子
江藤さんの身長ほどあった精麻が、半分ほどの長さに

3本目の紐を無事に綯え(なえ)終わったら、最後に1枚だけ残っていた精麻で細い飾り紐を編む。これも同じく〝撚って、捩る(よって、もじる)〟の繰り返しだ。

ネックレスやブレスレットの紐としても使える
ネックレスやブレスレットの紐としても使えるとか
飾り紐でつくったネックレスをしている江藤さん
江藤さんのしているネックレスがまさに飾り紐を使ったものだとか
ワークショップの様子"
飾り紐で、本縄をしっかり留め‥‥

形は自由につくっていい

「飾り紐で本縄を留めたら、あとは好きな形に仕立てていきましょう」

しめ縄の一般的な形には、大根型、牛蒡型、輪型(わかざり)などあるが、どんな形にするのかは意外と自由だそうで、長いまま神棚用にしてもよし、丸めてリース型にもしてもいい。あとは形やバランス、毛先を整えれば完成だ。

参加者のお一人が作った世界でたった一つのしめ縄!
参加者のお一人が作った世界でたった一つのしめ縄!

麻のしめ縄は、いつでも触れる場所に飾る

「このしめ縄はお正月に限らず、1年中、愛でて、触れてほしいもの」と語る江藤さん。

藁で作ったしめ縄は、お正月に飾ったら1月15日に神社などで行われる“どんど焼き”で燃やし、天にお返しするという慣わしがあるけれど、麻のしめ縄は少し違うとか。

「先ほど申し上げた通り、麻は穢れを祓ってくれるものですから、普段から、日常的に身近に置いてほしいんです。

いつでも目について、いつでも触れられる場所に飾ってください。玄関や神棚でもいいですし、キッチンやリビング、寝室でもいい。ことあるごとにシュシュッとはらうように触れることを毎日のお作法にしてみては」

取り替えるのは、新しいことを始めようとするときや、何かに区切りをつけるときなど、その人それぞれの人生の節目でいいとか。

 

さて、まずは。

手作りの麻のしめ縄で、はじめてのお正月を迎えてみたい。

できあがった、世界でたった一つのしめ縄

<取材協力>
麻問屋「麻光」
神奈川県藤沢市大鋸924-3
090-7702-7276
asamitsu.fujie.81@gmail.com

 

文:葛山あかね
写真:mitsugu uehara

*この記事は、2018年12月19日の記事を再編集して公開しました。

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