百聞は一見にしかず、産業観光が切り拓く工芸産地の未来

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こんにちは。さんち編集長の中川淳です。
ここ5年10年「日本のものづくり」が大きく見直されています。ローカルを切り口にした雑誌やライフスタイル誌はもちろんのこと、一般女性ファッション誌でも工芸や民藝という言葉を見かけます。もしかしたらある種のブームと言っても良いかもしれません。しかし実態はその印象とは大きく異なります。伝統工芸の産地出荷額は90年代初頭のピーク時から比べると1/4にまで減少しており、働く人も減少し高齢化の問題を抱え、絶滅の危機にあると言っても過言ではありません。

そんな中、高岡の能作や波佐見のマルヒロなど躍進を遂げるメーカーも少数ながらあります。しかし1社だけの躍進では産地が存続できるかどうかはわかりません。なぜなら産地の多くは分業制でできているからです。分業である以上、ものづくりの全工程を支えるすべてのメーカーが元気にならなければ産地は成立しませんが、苦戦が続いています。そんな中で可能性を感じるのが「産業観光」です。

スタッキングマグで有名になったマルヒロが手がける「HASAMI」
スタッキングマグで有名になったマルヒロが手がける「HASAMI」

そもそも工芸は「ややこしい」ものです。海外で大量生産された同じようなものに比べると価格は随分と高いですし、一見しただけではどこに手間暇をかけているのかも分かりません。なのでお店で売る時にはできるだけ、ものづくりの背景やその土地、メーカーの考え方などを説明し理解してもらおうと努力しています。しかしながら百聞は一見にしかず。ものづくりの現場を見てらうことに優るプレゼンテーションはありません。ものづくりの現場を見てもらうこと、それすなわち「産業観光」です。

産業観光というと2014年に世界遺産に登録された「富岡製糸場」が思い出されますが、富岡製糸場はあくまで「遺産」であり現在稼働しているものではありません。それに対して現在も稼働している工芸産地には動いているからこその面白さがあります。癖の強い職人さん、伝統的な技法と少し近代化されたプロセスの融合、工房にいる名物の猫、などなど。同じ焼きものの産地であってもすべての産地が違う顔をもっています。そこに行くことでしか感じることのできないその土地の空気。それを感じることこそが産業観光の醍醐味です。

以前さんちでも紹介した「燕三条 工場の祭典」(新潟県燕三条)などはまさに工芸産地を訪ねる、産業観光の先駆けです。燕三条にはパン切り庖丁の「庖丁工房タダフサ」や鎚起銅器の「玉川堂」など有名メーカーがありますが、2013年から始まった「燕三条 工場の祭典」の影響もあり、三条の鍛冶職人はここ数年フル稼働の状況が続いているといいます。まさに産業観光により産地全体に活気があふれている典型事例と言えます。

2016年第4回を終え毎年着実にお客さんが増えている「燕三条 工場の祭典」
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人口1万人の波佐見町に1万5千人が押し寄せた「ハッピータウン波佐見祭り」
人口1万人の波佐見町に1万5千人が押し寄せた「ハッピータウン波佐見祭り」

工芸産地における産業観光の流れは今後ますます加速していくでしょう。その他にも地方ではアートイベントも多発しています。これらの動きは「今おもしろいのは都心より地方である」ということの現れだと思います。
色んな産地に是非旅してみてください。ものづくりの現場を見て理解が深まるのはもちろんですが、そこにはあなただけの新しい発見が必ずあるはずです。

文:中川淳
写真: 菅井俊之・杉浦葉子

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