ランドセルの作り方には、かばん作りの全てがある。人気メーカー大峽製鞄に聞いた、使いやすさの秘密
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小学校でおなじみのランドセル。
近年はカラーバリエーションも増え、楽しみの幅も広がりました。
ランドセルの基本的な形は明治時代から100年以上変わっていないのだそう。それは、機能面でも完成されたデザインだったから。
※詳しくは、「ランドセルの歴史は学習院から。老舗メーカーに聞く「箱型・革製」の秘密」をどうぞ。
進化するランドセル
長年、子ども達の学校生活を支えてきたランドセルですが、時代に合わせて変化してきた部分もあります。
前回、ランドセルの歴史や型について教えてくださった大峽製鞄さん。同社は、ランドセルメーカーの草分けとして、学習院初等科をはじめ、多くの国公私立校の指定ランドセルを手がけてきました。
その大峽製鞄製のランドセルは、年々進化を遂げています。より使いやすく安全なランドセルを研究した結果、ひと目ではわからないところにも多くの工夫が施されました。
オオバランドセルならではの改良と技術のこと、専務の大峽宏造 (おおば こうぞう) さんに伺いました。
より安全に、より軽やかに
「薄暗がりでも車から見えるように、反射材を付けたり、肩ベルトに防犯用具などを取り付けられる金具を付けたりと安全性を高める工夫を加えています。側面には、鋼の細いプレートを1本入れて、軽いまま強度を高めました。上に人が乗ってもつぶれないんですよ。
また販売を続ける中で、小柄だと背中でかばんがグラつくことがあったり、脇腹部分にベルトが食い込んで痛い思いをしたりする子がいると知りました。そこで、ベルトを少しカーブさせて、優しいホールド感でグラつきにくく子どもの体に合う形を研究しました」
PCの普及でランドセルのサイズも大きくなった
改良を加える上で、第一に考えることがあるといいます。それは、安全であること。
「近年、PCの普及に伴いA4書類が多くなりました。これに対応して、ランドセルのサイズを大きくする必要が出てきました。以前の大きさだとA4フラットファイルが入らなかったんです。
従来のランドセルは小学一年生の背中に収まるサイズで作られていました。単純に大きくしてしまうと、周りとぶつかったり何かに引っかかりやすくなったり、怪我につながりかねません。
弊社では、背中に当たる部分だけ大きく、フタに向かって幅が従来のサイズに狭まる『台形』にすることを考えつきました。A4のフラットファイルは一番手前に入れて、教科書を順番に並べればこれまで以上にランドセルの中が整頓されます。良いアイデアでした」
ランドセルにはかばん作りの全てがある
より使いやすいランドセルへと進化する過程で、部品点数が増えたといいます。その数200余り。従来のランドセルの倍以上です。
組み立ての手間はかかるものの、小さな部品を数多く組み合わせることで耐久性は高まり、総重量を減らすことにもつながりました。
そんな大峽製鞄では、新しく職人が入ると、まずはランドセルづくりの修行をさせるそう。ランドセルづくりには、材料の選定から加工までかばんづくりの技術すべてが織り込まれているからです。
高い耐久性は、子どもに学びを与える
「ランドセルは子どもたちが初めて手にする本格的な革製品です。小学校の6年間、毎日使い続けるわけですから、『良いモノを大事に使えば長持ちする』ことを子どもたちはきっと学びます。
素材選びの時も、製作の時も、『これは本当に6年間耐えられる品質か?』と常に問いながらやっています」
同社のランドセルの大きな特徴は、商品により、重要な部分を手縫いしていること。
「ミシン縫いは上糸が下糸を引っ掛ける構造のため、1カ所でも切れるとほつれる場合があります。手縫いは上糸と下糸がそれぞれ別々に交差して穴を通っているため、仮に1カ所切れてしまったとしてもほつれません。また強度が必要な部分は職人が糸を強く締めるなど、細かい配慮で耐久性を高めています」
革の傷も見逃さない
素材選びでは、ベテランの目利きが仕入れた革を入念に確認する作業が行われます。表面の傷や汚れをチェックしたら、裏面も検分。
表から見て美しくても、裏に傷があると加工する工程で思い通りの形にならなかったり、傷みやすかったり粗が出てきてしまうのだそう。傷やへこみ、血管の痕、目が粗いところなどに印をつけておき、重要な部分には使いません。
世界で注目される「大人のランドセル」
今、海外からもランドセルに注目が集まっています。
独特のフォルムに魅せられてファッションアイテムとして取り入れたり、機能性の高さに注目して日常使いのかばんとして買い求めたり。空港や免税店でお土産として購入する人が増えているそう。
大峽製鞄は、世界にランドセルを広めることにも一役買っていました。
2011年にイタリアのフィレンツェで行われたメンズファッションのトレードフェア「ピッティウォモ」に出展。ピッティは、世界中のファッション関係者が集まり、審査を通過したメーカーだけが出展できるイベントです。
そこで反響が大きかったのがランドセル。多くのメディアで取り上げられました。
この出展を機にイタリアの高級百貨店やセレクトショップにも置かれ、バーニーズ ニューヨークなどの一流バイヤーが商談をもちかけてくるようになったのだそう。
さらに2012年には、毎年ミラノで開催される国際かばん見本市「ミぺル・ザ・バッグショー」の「スタイル・アンド・イノベーション」部門で入賞を果たします。
受賞商品は、大人のランドセルをコンセプトに作られたかばん「リューク」。
「嬉しかったですね。革製品でヨーロッパに出て、評価されるのだろうかと不安がありましたから。自動車や家電で日本は有名ですが、革製品は輸出の対象にはならないと思っていました。ヨーロッパには高い技術と歴史があります。その場所でランドセルを通じて磨いた技術が認められたことは、大きな自信につながりました」
「エルメスのデザイナーや、セリーヌのマネージャーなどは自分用に買ってくれました。彼らの多くは自転車通勤。背負うこともできて、肩にかけてもカジュアルになりすぎないおしゃれなランドセルが相当気に入ったようです」
子供たちのために生まれたランドセル。改めて眺めてみると、やはりかっこいい。
考え抜かれた形と製作技術が、子どもの小学生活を支え、さらには大人をも魅了しています。
<取材協力>
大峽製鞄株式会社
東京都足立区千住4-2-2
03-3881-1192
https://www.ohbacorp.com/
文・写真:小俣荘子
画像提供:大峽製鞄株式会社
*こちらは、2019年4月25日の記事を再編集して公開いたしました。
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