こんなに軽やかで、薄い木の器があったなんて。山中温泉で触れる漆器の奥深い世界
エリア

石川県加賀市・山中温泉。ゆげ街道のこおろぎ橋から少し上がったあたりに、木のファサードがシックな印象を与える『GATO MIKIO/1』があります。

中に入ると、大きな窓から望む鶴仙渓の景色が迎えます。
テーブルに整然と並ぶのは、ナチュラルな風合いの木皿やカップ、お椀など。こちらは、1908年(明治41年)創業の『我戸幹男商店』の直営ショップです。

民家をリノベーションし、2017年11月にオープン。板張りの床に、鶴仙渓を眼下に望む大きな窓を設え、まるでお店自体が作品であるかのような洗練された空間です。

店内には400種ほどのアイテムがディスプレイされています。
そのどれもが、紙のように薄い縁だったり、錦糸のように繊細な模様の「加飾(かしょく)挽き」が施されていたり、顔が映るほど塗り重ねられた「拭漆(ふきうるし)」の仕上げがなされていたりと、山中漆器にしかできない技法を盛り込んでいます。


丈夫で美しく。それが、山中の木地。
漆器の生産工程には木地、塗り、蒔絵の工程があり、石川県内の有名な3つの産地でそれぞれ「木地の山中」「塗りの輪島」「蒔絵の金沢」と称されています。
木地師とは、木を切り、漆などを塗らずに木地のままの器などを作る職人を指します。山中漆器は400年前に木地師の一団が定住したことに始まり、歴史に裏打ちされた木地挽きの技術は全国から高く評価されています。
もともと『我戸幹男商店』は山中温泉に古くから伝わる職業の一つ、「木地屋」として創業しました。
社長の我戸正幸さんは4代目として生まれ、これまでになかった漆器を作り出そうと、デザイナーとコラボしたシリーズをプロデュース。漆器の概念を覆すような、軽やかでスタイリッシュな器を次々とヒットさせています。

山中漆器の木地は、縦木取りという特徴があります。正幸さんが図で説明してくれました。

通常、お椀などの木地を作る際には、木を縦に切ります。一方で山中は、木を横に切った、つまり輪切りにした板から材料を切り出します。
この方法だと木の成長に逆らわずに切り出せるため、変型が少なく、衝撃に強いのが利点。しなやかで弾力もあり、薄く削ることができます。
では、なぜ他の産地が縦木取りをしないかというと、輪切りにするため材料を取れる数が限られ、ロスが多いからです。にもかかわらず、山中漆器は木地の質にこだわり、縦木取りを中心としてきました。