京都の工場見学でわかった、意外と知らない日本の“壁紙”事情
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織物壁紙の工場へ潜入!
いよいよ工場の中へ。外側には、見学にきた人向けに様々な壁紙見本が並びます。
「これが私たちの織っている生地です」
向こうが透けて見えています。こんなに薄くて、大丈夫なのでしょうか‥‥?
「そうですね、同じ幅の服用生地と比べて、だいたい経 (たて) 糸が1/3ほどしか入っていません」
「木津川の織物は、『日本一目が粗い』ことで有名なんですよ」
服用の生地にするには、横幅90センチの間に大体3000本の経糸が必要なところ、ここで作られる生地は、わずかに930本しかないそう。確かに、粗い!
「目が粗く、糸も植物由来のものを使うので、吸放湿性に優れて内装材にうってつけなんです」
この「目の粗さ」が、木津川が織物壁紙の産地となった由来。
もともと一帯では寒冷紗 (かんれいしゃ) という、畑に使う覆い生地を作っていたそうです。
作物を風雨や虫から守りつつ風と光を通すために、あえて「目の粗い」生地を織る技術が発展してきました。
この粗さを生かして明治頃から木津川で作られるようになったのが、住宅の内装材。その頃の内装といえばまず、「襖」でした。
日本が生んだユニバーサルデザイン「襖」
「日本人の住まいって、もともとは板間に板戸だったわけです。
それが庶民の暮らしにも畳や襖が普及してきたのは江戸から明治にかけて。木津川のものづくりはその潮流に乗って発展してきたんですね」
「和室が当たり前だった時代、冠婚葬祭は全部家でやったものですが、それには襖が欠かせません」
襖をパッと外せば、広い空間が生まれますから。襖はいわばユニバーサルデザインだったんですよ」
次第に日本人の暮らしが変化し、洋室が増えてきた1970年代から木津川のものづくりは織物壁紙にシフトチェンジ。
小嶋織物さんも、今では襖と織物壁紙をちょうど半々で生産しています。
織りの後の「検反」の工程から、だんだん襖らしい、壁紙らしい姿が見えてきました。
織物が少しずつ、壁紙に
ここからは織物が壁紙になる一番のハイライト。生地と紙を貼り合わせる「裏打ち」という工程です。
シワや歪みがないかすぐわかるよう生地にライトを当てながら、慎重に貼り合わせていきます。扱うものが大きいので、機械も立派。とてもダイナミックです!
今まで全く知らなかった壁紙の世界。日本の壁紙全体のわずか1%という、今では珍しくなったものづくりの現場は、活気がありました。
「もっと自分たちの作るものの可能性を広げたくて、糸から自社で企画しているんです。だから現場から『今度こういう生地を作ったら面白そうだね』ってよく企画のアイデアが出てくるんですよ」
織物壁紙というものづくりを知ってもらおうと、一般の方にも希望があれば工場見学を受け付けているそう。ぜひ現場の熱気を、ご自身の肌で感じてみてくださいね。
<掲載商品>
「京都の壁紙屋さんと作ったバッグ」シリーズ (中川政七商店)
小嶋さんが生地を手がけた「京都の壁紙屋さんと作ったバッグ」の取材記事はこちら:中川政七商店の「第三のバッグ」が、春夏におすすめな理由
<取材協力>
小嶋織物株式会社
京都府木津川市山城町上狛北野田芝1-3
http://www.kojima-orimono.com
文:尾島可奈子
写真:木村正史
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