「籐かご」がお風呂場にいい理由をプロに聞く
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かつては、日本各地の温泉旅館や近所の銭湯で必ず目にした籐(とう)のかご。
無垢でやわらかな質感はどこか懐かしく、和やかな気持ちにさせてくれる暮らしの道具です。
輸入品やプラスチック製品が主流となり、お風呂場で国産の籐製品を目にする機会は少なくなってしまいましたが、いまでも籐製品を作り続けているのが「ツルヤ商店」です。
ツルヤ商店は、1907年(明治40年)山形県で創業。地元に古くから伝わる「つる細工」の技法を取り入れながら、現代の生活に寄り添った商品を展開する籐工芸の老舗メーカーです。
籐ってどんな植物?
素材の「籐(とう)」は、ヤシ科のつる性植物。漢字の「藤」に似ていますが親戚という訳でもなく、「竹」でも「木」でもありません。
また日本では育たず、東南アジアを中心とした熱帯雨林地域のジャングルに自生しています。
軽くて柔軟で折れにくい特性から曲線の加工もしやすいため、細かく裂いたものを編み込んだかご作りや、太いものでは家具のフレーム材としてさまざまに活用されています。
籐がお風呂場に適している理由
素材としての最大の特徴はその吸水性にあります。
籐の内部には無数の導管があり、空気中の水分を出し入れします。高温多湿の場所では水分を吸収して湿度を下げ、乾燥した冬場は内部の水分を放出して湿度を上げ、呼吸を続ける生きた素材。
そのため木材よりも湿気に強く、お風呂場や水まわりでの使用に適しています。もし、完全に濡れてしまった場合には、カビや汚れを防ぐためにも日陰干しなどでよく乾かして使うのが長持ちさせる秘訣です。
使うほどに飴色の風合いが増す「籐」の魅力
使えば使うほど愛着が湧く、籐の家具。
表皮を剥いたままの滑らかな白い肌には塗装を施しません。無垢な質感を生かして仕上げたかごは、使うほどに飴色の風合いが増していくのだそう。
過ごした時間の分だけ美しく変化する籐かごには、まだ見ぬ楽しみがつまっています。
身の回りのあらゆるものがとても便利になりましたが、その一方、機械でたくさん作っては使い捨てられるものも多くなってしまったのも事実です。
そんな現代だからこそ、手仕事によるたしかな品を暮らしに取り入れたいなと思いました。
自宅の水まわりにまずは、ひとつ。使うほどに愛着が湧く道具との暮らしはいいものです。時間とともに育つ、手仕事による籐のかごを迎え入れてみてはいかがでしょうか。
明日は、籐かごの制作過程を紹介します。
〈取材協力〉
有限会社ツルヤ商店
山形県山形市宮町5丁目2-27
tsuruya-net.com
文:中條 美咲
写真:船橋 陽馬、商品写真:ツルヤ商店
*こちらは、2019年6月11日の記事を再編集して公開しました