桐生に泊まるなら、宿坊 観音院へ。美しき中庭と桐生にしかない「職人技」ダイニングは必見

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広間

世界中にファンを持つファッションブランド「リップル洋品店」に、常識破りの刺繍アクセサリー「000 (トリプル ・オゥ)」の株式会社 笠盛。

今月さんちで紹介した両者は同じ町にある。「織物の町」として栄え、現在も多くのものづくりの拠点となっている群馬県桐生市だ。

そんな桐生らしさがぎゅっと詰まった宿が2019年10月にオープンした。JR桐生駅から徒歩15分。入り口に大きな提灯がある「観音院」だ。

そう、おすすめしたい宿はお寺。お寺や神社が宿泊施設として開く「宿坊」だ。元来は僧侶や参拝者のみに特化したものだったが、最近では一般の観光客にも開かれているところが多い。

観音院
その昔、大きな機屋の主人の夢まくらにお地蔵様が現れたことから建てられたという観音院

1644年 (正保元年) からの長い歴史をもつ観音院が開いた、桐生で初となる宿坊の魅力を伺いに、オープンしたばかりの宿を訪れた。

中庭の両側にある美しい個室

静かなお寺の境内を進んでいくと、本堂のすぐ横に新しい建物が見えてきた。少し緊張しながら扉を開ける。明るく広い玄関で、広報を担当する月門 海 (つきかど うみ) さんが出迎えてくれた。

宿坊内を案内してくれた、広報の月門 海さん
宿坊内を案内してくれた、広報の月門 海さん

「この宿坊のテーマのひとつに『水』があります。お寺に入ったら水で手を清めるように、ここに来れば体も心も浄化できるような場所にしたいと思っています」

宿坊と廊下で繋がる本堂から案内してもらった。希望すればここで「朝のお勤め」や写経、真言宗に伝わる「阿字観」という瞑想などを体験することができるという。

廊下を進むと、大きな中庭が現れた。宿坊はこの庭を囲んでコの字型に部屋が配されている。

中庭

美しい日本庭園は見ているだけで心が落ち着いてくる。夜はライトアップされ、また違う雰囲気が味わえるそうだ。

建物のどこにいても見える大きな中庭
建物のどこにいても見える大きな中庭

個室は『織の間』『染の間』の2部屋。

まず『織の間』を見せてもらうと、部屋に入った途端に木の良い香りがして、思わず深呼吸。

織の間
織の間
和紙製の畳を導入。変色せず、撥水などの効果もあるそうだ
露天風呂
部屋のすぐ横にある石庭には、『織の間』専用の露天風呂がついている
シャワールーム
シャワールームも完備。使い勝手に合わせて和洋がほどよく入り交じる

続いて『染の間』へ。

染の間

中庭に面した廊下部分から個室として使用できる、贅沢な造りになっている。

染の間、廊下
廊下の先の扉から鍵をかけ、中庭の景色を独り占めすることができる。『織の間』とは中庭を挟んで対角線上にあり、お互いを気にせずゆったりとくつろげる
染の間
織の間とは雰囲気の違うベッドタイプ。テーブルなどはお寺にもともとあったものを活用しているそう
シャワールーム
こちらの部屋は露天風呂の代わりに、広いシャワールームが完備されている

部屋はこの2室のみ。大人数であれば、中庭が望める広間も活用して宿坊全体を貸し切ることもできる。16名まで泊まれるそうだ。

桐生らしさを詰め込んだ空間

『織の間』『染の間』という名前だけでも織物の町である桐生が感じられるが、観音院では宿の空間に「桐生らしさ」を取り入れることを意識した。

宿坊を開くための増築は、宮大工の技術がある有限会社 宮島工務店が担当。

中でも桐生ならではの空間となっているのが、宿泊者が自炊や歓談に集うダイニングキッチンだ。

ダイニングキッチン

内装やインテリアのコーディネートを、地元・桐生で繊維や建築に関わる3人のユニット「small」が担当した。

株式会社 笠盛で刺繍糸のアクセサリーブランド「000 (トリプル・オゥ) 」を開発する片倉 洋一さんと、建築家の飯山 千里さん、藤本 常雄さんが、デザインやアートを通して「小さいからこその魅力」をテーマに活動をしている。

建築家の飯山 千里さん
建築家の飯山 千里さん

今回、smallとして初めて宿坊の内装をコーディネートするにあたり、3名は桐生市の作り手にアイテム作りを依頼した。

ダイニングテーブルと椅子は、桐生で家具職人kirikaとして活動する四辻 勇介さんに依頼。

座布団やクッションカバー、スタッフが着用する作務衣は、さんちでも取材した桐生発のファッションブランド、リップル洋品店が手がけた。

クッション

「ものづくりの中心地であるこの地域に来てくださる方には、桐生のものを見ていただきたい。ここに泊まって『これ、いいね』と思った人が、地元のお店に行くような流れになってくれたらいいなと思っています」

ダイニングキッチンのテーブルと椅子は、smallとkirikaが協働し製作したもの。実は一般的なテーブルよりも、10cmほど低く設計したという。

「中庭がすごく素敵で、本当は正座して雰囲気を楽しんでいただきたいけれど、それはなかなか難しい。だから、普通の椅子よりも低い姿勢で見ていただけるよう、低い椅子を提案しました」

ダイニングテーブル
椅子は、あえて座布団が収まる大きさで設計し、和洋が入り交じる空間を体験できるようにした

さらに、テーブルのデザインにもこだわりがある。

「明るく過ごしやすい、生活の延長のような感じにしつつ、お寺の緊張感は残したいと思っていたんです。そのバランスを見ながら、少し直線的なデザインを意識しました」

ダイニングキッチン
明るいダイニングキッチンは洋風過ぎず、和風すぎない空間

kirikaの四辻さんが手掛けた天板は、国産のヒノキの合板。手に入りやすい素材を活かしながら、職人さんの手仕事で美しさを表現できるのではないか、というチャレンジだったそう。

また、リップル洋品店が製作した座布団・クッションカバーに、同じ柄はひとつもない。

クッション
染めの間のソファにもリップル洋品店のクッションがあった

それぞれ全部違う表情で作ってもらうことで、多様性を尊重する観音院を表現した。

smallの3名とkirikaの四辻さん
smallの3名とkirikaの四辻さん

宿坊を通して見えてきたもの

「桐生には歴史も文化もあるのに、せっかく来てくれた人にそれを感じてもらえる宿がなかったんですね。宿坊だったら、それができるんじゃないか、と」

宿坊を始めた思いを話してくれたのは、住職の月門 快憲 (つきかど かいけん) さんと、広報の月門 海さん。

「人が集まるお寺にしたい」という思いから、毎月の縁日なども開催している観音院。株式会社シェアウィングが運営する「お寺ステイ」というサービスを利用し、準備の末、10月に宿坊をオープンした。

観音院看板

宿坊の準備を進めるなかでも、smallやkirikaなど桐生の人々との出会いがあった。また清掃などをお願いした、地元の人々と新たな交流が生まれていったという。

「私自身、若いときからまちのことに積極的に取り組んで来たので、桐生の人間は結構知っていると思っていました。でも、宿坊を始めたら『へえ、桐生にこんな人がいるんだ』って驚くことばかり。今まで交わることのなかった人たちが来てくれるんです」

そのような町の人たちとの交流は、宿泊客も体験できる。月に2回の練習会でお茶の体験をしたり、月に一度の縁日で子どもたちと「曼荼羅ぬりえ」を楽しんだり。観音院では食事の提供がないので、地元のお店へ行って交流することもあるだろう。

住職の月門 快憲さん
「縁日や御朱印に続いて宿坊で、お寺という場を多くの人に楽しんでもらえたら」と住職の月門 快憲さん

これから宿坊でやってみたいこと聞くと、桐生の町らしい体験のアイデアが次々と挙がった。

「桐生市はものづくりの町ですから、染め物体験など専門的なプログラムを提供できる。刀鍛冶屋さんではナイフ作り、うどん屋さんではうどん打ち体験。それぞれ『やってみよう』とすでに話が出ているものもあるので、これから具体的に企画していくつもりです」

ゆくゆくはお寺のまわりに飲食店やお土産屋さん、ゲストハウスなどが立ち並ぶ、門前町のような賑わいを作りたい、とも。

「地域の人たちと一緒に桐生全体を盛り上げていきたいですね」

作り手やお店を目当てに桐生を訪ねて、実際に宿で使ってみる。他にも気になったアイテムがあれば、翌日にまた足を運んでみる。

せっかくものづくりの町を訪れるならそんな滞在の仕方はいかがだろうか。

<取材協力>

「宿坊 観音院」

群馬県桐生市東2丁目13-18

0277-45-0066
https://oterastay.com/kannon-in/

文:ウィルソン麻菜

写真:田村靜絵

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