いまの暮らしに「鏡餅」を飾る意味。毎年飾れる木製の鏡餅に込めた想い
年の瀬が近づいてくると思い出すのは、お正月の恒例行事だった実家での餅つきのこと。
つきたてのお餅の美味しさもさることながら、熱々のお餅を素手でひょひょいっと丸めていく祖母の手さばきが強く印象に残っています。
「手のひらどうなってるの?熱くないの?」
こちらの疑問をよそに、すぐ食べる用、お雑煮用、かき餅用と、さまざまな形に手早く分けられていくお餅。その中で、いつも最初に取り分けられていたのが、鏡餅用の丸いお餅でした。
なんのために飾るのかは分からないけれど、他のお餅より大きくて丸くてかっこいい。
その見た目と祖母の手さばきに魅了され、「どうやら特別なものらしい」と、幼いながらにぼんやり理解して眺めていました。
縁遠くなった「鏡餅」の文化を現代につなぐ
日本では古来より稲やお米に神様が宿ると考えられ、その神聖なお米からできた鏡餅をお供えする行事がおこなわれてきました。
新しい年の幸福や長寿を祈る依り代として宮中の正月行事に登場し、やがて大衆文化として全国の集落にも根付いていった鏡餅。多くの人たちの想いや地方ごとの特色が積み重なり、今に伝わっています。
一方で、長い歴史と大勢の人々の想いが背景にあるが故にその意味が伝わりづらく、若い世代の人たちにとっては少し馴染みの薄いものになっているようにも感じます。
祖父母や親世代がやっていたことを無意識に見ていた人はまだしも、そういった原体験が無い場合、なおさら縁遠いものです。
これまで人々が大切にしてきた文化や想いをどうにか引き継いでいきたい。いまの暮らしに馴染む形で日本の文化に触れられるようにしたい。そう考えて、毎年繰り返し飾っていただける木製の「鏡餅飾り」を作りました。
毎年飾れる、美しい鏡餅飾りとともに新年を祝う
※鏡餅飾りなど、お正月飾りはこちらから
「昔の人が大切にしてきた要素を今の暮らしの中で感じられるように、鏡餅飾りの複雑な糸をほぐすような気持ちで取捨選択しました。要素をそぎ落とした結果、できたものが今の暮らしに合うものになれば良いなと」
商品開発の背景を、担当デザイナーの榎本さんはこう話します。
要素を取捨選択する中で、台座と折敷(おしき)のサイズ・形状は伝統に寄りすぎず、今の暮らしに沿ったものに。また、鏡餅はコブシの木、橙は組紐といった素材で表現しつつ、本物らしさを感じられる質感を追及していきました。
「橙の葉などは、ついつい”葉っぱ”というステレオタイプに類型化された形にしてしまいがちです。そうではなく、リアルな葉はどんな形状なのか。実と葉の付き方の関係はどうなっているのか。本物の橙をきちんと観察して、特徴を表現しています。
鏡餅も、いかに本当のお餅らしく見えるのかにこだわって、餅にかかる重力までイメージして形状を定めました」
鏡餅はろくろ挽き、橙は組紐と、それぞれ熟練の職人の手を借りて、何度も試作を繰り返しながら完成させたとのこと。
さらに、それぞれの素材の組み合わせが破綻しないように、バランスを整えることにも気を配っています。
「本物の鏡餅も何種類かの自然の恵みを組み合わせることで、祈りの対象として完成します。
今回つくったものも同じように、いくつかの素材がうまく調和するように心がけました。
ちなみに、今回使用したコブシの木は、昔から『コブシの花が多いと豊作になる』などと言われ、お米作りと関係の深い木だとされています」
お米との関係が深く、象徴的な木でつくられた鏡餅飾り。
年の初めにそんな鏡餅飾りを眺めて、日本の文化や季節に思いを巡らせてみるのもよいかもしれません。
祖母お手製の鏡餅が私の心に残っているように、木でできた美しい鏡餅のたたずまいが、自分や家族の幸せを願う場の象徴として、皆さんの暮らしに定着してくれると嬉しく思います。
文:白石雄太