お鍋を囲む場を引き立てる、「うつわのような」土鍋【デザイナーに聞きました】

中川政七商店の社内で、デザイナーから販売部へ向けて、商品をプレゼンテーションする商品説明会。この秋発売する、とある商品のプレゼンテーションが終わった瞬間、自然と拍手が沸き起こりました。
それが、これから紹介する「信楽焼の平土鍋」。私自身、話に聴き入りながら、こんな使いかたもあるかも?と、いち使い手としてワクワクするような商品でした。10月9日の発売を今か今かと待っています。

デザイナーの青野さんの言葉を借りながら、お鍋を囲む場をより引き立てる「信楽焼の平土鍋」をご紹介します。

コンセプトは、「うつわのような」土鍋

「信楽焼の平土鍋」を企画したデザイナーの青野さん

「土鍋の開発を任されて、まずは自宅にある土鍋を使ってみたんです。そしたら改めて、食卓に土鍋がある風景ってすごくいいよなと感じて。おいしそうに見えるのもそうですけど、食卓を囲む全員が能動的に場に参加して、連帯感のようなものが生まれると思ったんです。

大皿で料理を出す風景にも近いと思うのですが、土鍋は調理道具なので台所から食卓へそのまま繋がって、みんなが料理に参加しているというか。その場で火を囲みながら食べる料理ならではの豊かさがあるなぁと感じました。

でも土鍋が食卓に出てくる頻度って、基本的には鍋をする時くらいじゃないですか。それってもったいないよなと感じて、もっといろんな料理に使いやすい土鍋があったらいいんじゃないかと思いました。大皿を兼ねる調理道具のようなあり方が面白いんじゃないかと思って、『うつわのような』というコンセプトに辿り着いたんです」

「うつわのような土鍋」をかなえる形

そうして作られた土鍋は、茹でる、煮る、蒸す、炒めるといったさまざまな料理に使えるのはもちろん、単におかず作りに使える機能性だけではない工夫があると言います。

「うつわのようなというコンセプトを叶えるにあたって、一般的な土鍋と最も違うところは形です。
よくある土鍋は底面から内側にすぼまっていくように立ち上がって、蓋を乗せる台があって、そこからさらに垂直に立ちあがっているものが多いと思います。でも今回は、もう少しうつわの形に近づけることを目指しました」

「うつわと違って土鍋には蓋が必要ですが、蓋を乗せるための台や縁の立ち上がりを無くすと、食卓に出した時にもっと料理をおいしく見せられると思ったんです。
そこで、縁を緩やかに広げてうつわのリムのような形に変えることで、蓋を安定して受け止めながら食卓の道具に近づけました。縁に向かって広がっているので、中の料理が見えやすくなって、より食卓で生きる形になったと思います。
リムがあることで、中身を額縁で縁取るような効果も生まれました」

うつわらしさの追求は、色や土味にも表現

「色は、飴と黄瀬戸の2色展開です。飴は土鍋でもよくある色ですが、黄瀬戸は土鍋としては珍しいと思います。白はよくあるんですけど、黄瀬戸は少し黄みがかっているんです。
この色は、『うつわのような』というコンセプトだからこそ作った色で、古道具でもよく見かける瀬戸の石皿から着想を得ています。昔からうつわによく使われてきた釉薬なので、日本の食卓で料理がよく映える色だと思います。内側に施したスジを入れる装飾も日本の古いうつわから引用したもので、シンプルながら土と釉薬の風合いを引き立てることができました」

骨董の「瀬戸の石皿」。使うごとに育つうつわ

「土の表情も大事にしながら産地を選びました。土鍋の代表的な産地は他にもあるのですが、うつわらしい表情を実現する上で、伊賀・信楽エリアの素朴な風合いの土を使いたかったので、今回は信楽焼の窯元さんと一緒に作っています」

手前が最終の商品で、後ろがファーストサンプル。あえて荒い削り方にすることで、土味を生かしている

「成形した後に表面を削ることによって、土の荒々しい表情を出しています。あえて荒く深く削ることで、土本来の生命力を感じる表情が出るようにしています。そういった表情が、自然素材によるゆらぎを愉しむ日本のうつわへの感覚に通じるんじゃないかと思ったんです」

試作の一部

「一方で、土鍋がある風景をいいと思ったのが根底にあったので、土鍋からかけ離れた印象にはならないように、ちょうどいい塩梅を目指して調整していきました。
今回一緒にものづくりをしていただいた、株式会社松庄さんがとても協力的で。土鍋としてはかなり変わった形状だったので、試作を何度も繰り返してくださったんです。こちらがもう大丈夫ですって言うくらいまで。笑 本当に二人三脚で、歩みを進めていきました」

ひたすらサンプルを使い込む日々

そうしてできあがったファーストサンプル。日常の道具として使いやすいのか、さまざまな料理に使ってみたそうです。

青野家で実際に使っている様子※仕様変更となったファーストサンプルでの写真もまざっています

「ファーストサンプルができてからは、めちゃめちゃ使いましたね。できあがってすぐの頃は、それこそ毎日使っていました。肉じゃがやシチュー、手羽元の煮込みなどの料理を作って、そのまま食卓に出しています。いつも作るような簡単な料理でも、土鍋で出すだけでごちそうに見えるので、今も週1くらいの頻度で食卓に登場しています」

「使う中で出てきた課題もあったので、途中で一度形状を修正しています。元々はもう少し底がすぼまっていたんですけど、それだと火を受け止める面積が小さくなってしまって、熱が逃げやすかったんです。沸騰するのに時間がかかってしまうと日常で使いづらくなってしまうので、底を広げて熱を受け止めやすい形に修正しました」

全員がその場に参加する、土鍋を囲む食卓の豊かさ

「サンプルは、社内のスタッフにも使ってもらっています。いろいろと感想をもらった中でもとくに嬉しかったのが、お子さんがいるスタッフに使ってもらった時のエピソードでした。
ふだんお鍋をする時は、お子さんの分をよそってあげてたみたいなんですけど、今回の土鍋は中身が見えやすいから、お子さんが自分でよそってくれたと言っていて。それは、企画する時に僕が感じた、土鍋を囲む豊かな風景そのものだなと思いました。

小さな子どもや料理が苦手な人も誰でも調理に参加できて、連帯感が生まれていく。そういう豊かさこそが、 お鍋を囲むことの魅力だと思うので。お鍋を囲む場をよりよく引き立てるものができたのかな、と感じて嬉しかったです」

「土鍋って、人と人のつながりを自然と生み出してくれる装置のような役割を果たすと思うんです。信楽焼の平土鍋が、温かい食卓の風景を紡ぐ一助となれば、こんなに嬉しいことはありません」

<掲載商品>
信楽焼の平土鍋(10/9発売)


文:上田恵理子

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