日本最古のお守り「勾玉」の神様を祀る神社へ
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三種の神器 勾玉を作り続ける産地
日本史の授業できっと誰もが触れている三種の神器、八咫鏡(やたのかがみ)、草薙剣(くさなぎのつるぎ)、八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)。
そのひとつ勾玉が、今も神話のふるさと・出雲のそばで「作り続けられている」のをご存知でしょうか。
島根県の出雲・松江の中間に位置する玉造(たまつくり)一帯は、その名の通り勾玉の産地。
神話の舞台にもなっている玉造の地で創業し、今も皇室や出雲大社に勾玉を献上している日本で唯一の作り手「めのや」さんのご案内で、三種の神器・勾玉の秘密に迫ります。
今日は前編として、最近パワースポットとして人気の玉作湯 (たまつくりゆ) 神社を「ものづくり」視点で訪ねます。実はこちら、もともと勾玉づくりの祖と言われる神様をお祀りしている神社なのです。
出雲大社が認めた、勾玉づくりのプロフェッショナル
玉作湯神社を訪ねたのは平日の昼下がりでしたが、境内には2〜3人で連れ立ってお参りする若い女性の姿が次々に。
ここで待ち合わせたのは新宮寛人 (しんぐう・ひろひと) さん。日本で唯一、「出雲型勾玉」を継承している株式会社めのやの5代目です。
「出雲型勾玉」とは、出雲大社の祭祀を司る『出雲国造』職が新任する際に、皇室に代々献上されてきた勾玉の形のこと。
古くから勾玉づくりが盛んだった玉造の地で明治に創業しためのや(当時はしんぐうめのう店)は、その初代から勾玉づくりの腕を認められ、「出雲勾玉」づくりを任されるように。現在では「出雲型勾玉」の技術を産地で唯一継承されています。
「玉作湯神社がお祀りしているのは、櫛明玉命(くしあかるだまのみこと)という神様です。天照大神 (あまてらすおおみかみ) の岩戸隠れの際に、のちの三種の神器のひとつ、八尺瓊曲玉(やさかにのまがたま)を作ったとされる神様なんですね」
そんな神話との関わりも深い玉作湯神社。玉造に育った新宮さんにとっては、この一帯が子どもの頃の遊び場だったといいます。
「まさかこんな風に若い人たちがこぞってやってくるようになるなんて、その頃は思いもしませんでしたね」
ここ数年、玉作湯神社は「願いを叶えてくれる石がある」と注目を集め、パワースポットとしてその名を知られるようになりました。旧暦10月の「神在月」には近くの駐車場がいっぱいになってしまうのだとか。
「願い石・叶い石」はこうして生まれた
こちらですよ、と案内いただいたその名も「願い石」は、まるまるとほぼ完全な球体をしています。
当然人の手で作ったものだと思っていたら、「天然のままでこの形なんです」と新宮さん。ざぁっと鳥肌が立ちました。
この神秘的な「願い石」に、社務所で授けてもらう「叶い石」を触れさせて願をかけると、石のパワーがおすそ分けされて願いが叶う、と言われています。
「実は、『願い石』のご利益の起源には、勾玉が関係しているんです。
玉造は昔から勾玉づくりが盛んな土地で、神社の周りにも工房跡があります。職人たちはいい勾玉が作れるとこの神社に感謝を捧げにきた。
この石は、その時に『またいい勾玉が作れますように』と感謝と決意を込めてお参りするものだったんです」
職人たちにとっては、玉作湯神社がお祀りする櫛明玉命はまさに勾玉づくりの祖にあたる大切な神様。
ものづくりから生まれた信仰がいつしか一般にも伝わり広まったというわけですが、願い石の隣には今も、神社と古来の勾玉づくりとの深い関係を示すものがひっそりと置かれています。
「僕は仕事柄、願い石よりもこっちの方にまず目がいってしまうんですけどね」
そう新宮さんが示したのはつやつやと深い緑色の石。
これこそ、出雲型勾玉を象徴する「青めのう」の原石です。
世界に誇る青めのうの発見
めのうは、世界各地で産出される比較的ポピュラーな鉱石。色も乳白色や赤褐色など様々ありますが、出雲には深い緑色の「青めのう」が採れる山、花仙山 (かせんざん) があります。
「『青』が採れること自体貴重なのですが、花仙山で採れる青めのうは世界的にも例がないほど緑色が濃くてキメが細かい。これほど良質でかつ量が安定して採れる山は世界中でもここだけと言われています」
花仙山で青めのうが見つかったとされるのは弥生から古墳時代にかけて。それまでヒスイや水晶で作られていた勾玉は、花仙山での発掘以降、青めのう製に切り替わっていきます。
「昭和50年代の調査によると、北は函館から南は宮崎まで、各地の古墳からこの花仙山産の青めのうの勾玉が見つかっているそうです。いかに青めのうが珍重され、重要視されていたかがわかります」
こうして各地からのニーズに答えるように、玉造は勾玉づくりの一大産地として発展。後世になって土地で発見された温泉には、「玉造温泉」の名が付けられました。
日本最古のお守り。勾玉はなぜ「青」い?
実は花仙山では「白めのう」や「赤めのう」もとれるそうです。勾玉といえば青緑色のイメージがあるほど、「青」が重要視されているのはなぜなのでしょうか。
「よく、青々とした草といった言い方をしますが、青は命の源の色と考えられてきたんですね。白や赤色の勾玉も作りますが、これまでも今も、献上品としてお作りする勾玉は基本的に青めのうを使います。
中でも出雲国造職ご新任の際に献上する勾玉は『美保岐玉 (みほぎたま) 』と言って、青めのうの勾玉に形の違う白と赤のめのうの玉をつなぎ合わせた首飾りのような形をしています。
命の源を表す青に対して、白めのうは白髪になるまでの長寿を、赤めのうは血色の良い若々しさを表します。最上の敬意と祈りを込めているんですね」
勾玉の形には、動物の牙が原型と考える説や、月を表しているとする陰陽説など諸説ありますが、色にも身につける人の繁栄や無事を願う重要な役割がありました。
「勾玉は日本最古のお守りですからね。この神社の神紋 (しんもん) にも、美保岐玉に使われる3種の玉を見ることができますよ」
神紋とは、いわば神社の家紋のこと。ほらここに、と新宮さんが示したお賽銭箱の正面に、確かに勾玉をかたどった印が見られます!
自分だけではきっと気づけなかった神社の見どころ発見に大感激していましたが、
「すぐ近くに昔の勾玉づくりの工房跡や、地元の人もあまり知らない勾玉の原石採掘跡が見学できる公園がありますから、見に行ってみましょう」
新宮さんによる勾玉づくりの産地・玉造の案内は次へ次へと続きます。
*後編はこちら。
<取材協力>
玉作湯神社
島根県松江市玉湯町玉造522
株式会社めのや
https://www.magatama-sato.com/(いずもまがたまの里伝承館)
文・写真:尾島可奈子
※こちらは2017年10月24日の記事を再編集して公開しました。