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越前漆器とは

ものづくりのまち・鯖江で生まれた漆工の歴史と特徴

福井県鯖江市・漆琳堂・漆器

越前漆器の基本情報

  • 工芸のジャンル

    漆/漆器

  • 主な産地

    福井県鯖江河和田地区とその周辺

  • 代表的な作り手

    漆琳堂

福井県鯖江市河和田地区とその周辺地域でつくられる「越前漆器」。

鯖江といえば「メガネの産地」として有名ですが、実は越前漆器はレストランや宿で使われる業務用漆器の国内シェア80%以上を占める日本一の産地です。

今回は、ものづくりの街・鯖江で育まれた越前漆器の歴史と特徴をご紹介します。

越前漆器とは。ハレの日の高級品から、身近な日用品まで

越前漆器とは、古墳時代の末期から福井県鯖江市河和田地区とその周辺地域でつくられてきた漆器の工芸品。鯖江では古くから多くの漆掻きの職人がおり、また良質な材木が採れたこともあって、漆器づくりの技術が育まれてきた。

その特徴は、漆を塗り重ねることで上品かつ艶やかな塗り肌がありつつも、軽さと丈夫さも兼ね備えていること。そして輪島から「沈金(ちんきん)」、京都から「蒔絵(まきえ)」など各地の加飾技法も取り入れながら発展してきた。

また、時代のニーズに合わせたものづくりがされており、お椀をはじめ、膳、盆、重箱、菓子箱、箸、さらには花瓶や茶道具などつくられる器は多種多様。ハレの日に用いられる高級な器から、使いやすい日用のものまで揃う。

ここに注目。全国のレストランや宿を支える一大産地

越前漆器は外食産業・業務用漆器において国内シェアで80%以上を誇っている。

今日ではすでに行われていないが、このように越前漆器が発展できたのは生漆の代わりに柿渋汁、地の粉(粘土や瓦を砕いたもの)の代わりに炭粉、と伝統的な素材を省きつつも品質を保つのに成功したこと、また合成樹脂や化学塗料を取り入れ、安価かつ丈夫な器の大量生産に対応できる体制を構築してきたことが理由に挙げられる。

伝統にとらわれず新しい技術を求めてきた、職人たちの工夫のたまものだろう。

レストランや宿で、おそらくは誰もが1度は越前漆器を手にしたことがあるはずだ。

原料の漆はとても貴重なもの

越前漆器の使い方、洗い方、保管方法

お味噌汁に使う汁椀から、おせちを詰める重箱まで、暮らしのハレとケ、どちらにも欠かせない漆器。身近な存在すぎて、その選び方や扱いは意外とあいまいだ。

そこで、以下の記事では、越前漆器の老舗「漆琳堂」の8代目で塗師の内田徹さんに、漆器の基本的な選び方や扱い方について伺ってきた。

漆器のお手入れ・洗い方・選び方。職人さんに聞きました

さんちで取材した越前漆器の作り手。200年続く老舗、漆琳堂

漆器づくりを脈々と受け継ぎ、これまでに様々なプロダクトを手がけてきた越前漆器の老舗が、1793年創業の「漆琳堂」だ。

ポップなカラーが印象的な「aisomo cosomo」や、毎日の暮らしのなかで使いやすいお椀を提案していく「お椀やうちだ」。漆器のみならず和紙や木工、焼き物といった北陸各地の技術を生かしたものづくりの総合ブランド「RIN&CO.(リンアンドコー)」など、複数のブランドを展開している。

さらに、食洗機では洗えないのが当たり前な漆器の世界で、「食洗機が使える漆器」の開発に成功。伝統を守りながら新たなチャレンジを続ける漆琳堂の取り組みに惹かれ、「漆琳堂」で塗師になりたくて県外から鯖江に移住してくる若者もいるほどだ。

RIN&CO.
「RIN&CO.」の硬漆シリーズ
食洗機OKの漆器・中川政七商店・漆琳堂
「食洗機で洗える漆器」のお椀

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洋食やスイーツも似合う漆器「RIN&CO.」の硬漆シリーズが気軽に使える理由

「食洗機が使える漆器」が漆の常識を変えた。開発秘話を職人が語る

床も天井も漆塗り。100年経っても色あせない「漆の家」

「この漆器がつくれるなら、どこへでも。」移住して1年。職人の世界と、産地での暮らしを聞きました

漆琳堂の職人、高橋菜摘さんの“仕事の理由”──魅力的に見せるのも技術。漆器をつくって「届ける」までを担いたい

越前漆器の豆知識

○越前漆器の産地が生んだ「漆業界のライト兄弟」

「漆業界のライト兄弟」と呼ばれる兄弟がいる。その発明品は漆器づくりの作業効率を何倍にも向上させ、今日では日本のほぼすべての漆器産地で使われるほど。

さんちでは、その革命的な発明品がどのようなものなのか、そしてウワサの兄弟がどのような人物なのか、実際に使われている現場を訪れて取材した。

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「漆業界のライト兄弟」が発明した革命的な道具を、全国の漆職人が愛用している

○漆器の町・鯖江は「物育」の町でもある

ここ数年で広く知られるようになった「食育」という考え方。実はこれ、福井県出身の医師が考案したもので、福井では全国に先駆けて食育が推進されてきた。

中でも、鯖江市では「食育」の代名詞である学校給食に地場産業の越前漆器を用いるなど、「物育(ものを通じて学びを得ること)」にも力を注いできた。

さんちでは、福井県鯖江市の小学校を訪れ、「食」と「もの」を通じて子ども達の心を豊かに育てる、漆器の町・鯖江の「物育」の可能性を取材している。

漆器が使われる給食の様子

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給食にも越前漆器。食育の町、鯖江で気づいた「物育」の可能性

越前漆器の歴史

○越前漆器の起源

越前漆器の起源は、今からおよそ1500年前にまでさかのぼる。

当時の皇子(のちの第26代の継体天皇)が王冠を壊してしまい、片山集落(現在の福井県鯖江市河和田地区の片山町)の塗師に修復を命じる。塗師は漆を用いて王冠をみごとに修復し、さらに黒塗りの「三ツ組椀」とともに献上。その出来栄えにいたく感動した皇子が、片山集落での漆器の生産を推奨したのが始まりと伝わる。

また、山々に囲まれた越前はあまり農作業には適さない土地で、古くから漆掻き(漆の木から樹液を採取する職人)が多くいたこと、良質な材木が採れたこと、温度や湿度も漆器づくりに適した環境であったこともあり、この地では漆器づくりが発展していく。最盛期には全国の漆掻きの半数が越前にいたという。

○室町時代の繁栄

室町時代に入ると、当時、布教が盛んであった浄土真宗において、「報恩講(ほうおんこう。浄土真宗の開祖・親鸞をしのび、命日の前後に執り行われる法要)」の仏事に漆椀が用いられた。これも越前漆器の普及のきっかけとされる。

○江戸時代、明治時代での技術発展

江戸時代の末期になると、越前では輪島の「沈金(ちんきん)」や京都の「蒔絵(まきえ)」など、他の地域で発達した漆の技法を取り入れる。これにより越前漆器には華やかかつ上品な装飾性が加わり、表現の幅が広がっていく。

それまでは「丸物(お椀もののこと)」を中心に生産されていたが、明治時代の半ばには「角物(板を組み合わせてできる箱や器のこと」もつくられるように。膳、盆、重箱、菓子箱、花瓶などと製品の幅も広がっていった。

○現在の越前漆器

当初、越前漆器は片山集落(現在の福井県鯖江市河和田地区の片山町)でつくられるのみだったが、徐々に河和田地区全体にまで広がっていく。河和田地区産の漆器は「河和田塗」とも呼ばれる。

そして、大正時代になると、新しい機械や技術が加わり、旅館やレストランのような外食産業に向けた業務用漆器の量産体制を整えたところ、福井県だけでなく、名古屋や大阪などの県外の大量消費地でもその需要は拡大。今日では、外食産業・業務用漆器における国内シェアで80%以上を占めるまでに成長している。

越前漆器の今を知るならこのイベントへ。体感型マーケット「RENEW」

漆器、メガネ、和紙、刃物と様々なものづくりの集積地・福井県鯖江市河和田地区で、毎年10月に開催される体感型マーケット「RENEW(リニュー)」。

会期中には越前漆器、越前和紙、越前打刃物、越前箪笥、越前焼、眼鏡、繊維とさまざまなものづくりの工房が一斉に開放され、来場者は職人のものづくりを間近で見学できるほか、ワークショップでは漆塗りや木工雑貨づくりなどを体験できる。

renew
職人のものづくりを見学している

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ここで買えます、見学できます

福井県鯖江市にはお椀や箸、重箱や小物など1,000種類以上の越前漆器を展示販売する、越前漆器協同組合運営の「うるしの里会館」がある。また、「漆琳堂」の直営店ではオリジナルの製品が手に取れるほか、塗りの現場の見学やものづくり体験ができるワークショップも開催されている。

さらに、隣の越前市にある「ataW (あたう)」は、漆器メーカーの株式会社セキサカが運営するセレクトショップ。越前漆器や福井県産のアイテムをはじめ、独自の審美眼でセレクトされた食器や洋服、日用品、家具、デザインプロダクトなど、国内外で活躍する作り手のものづくりに出会える。

うるしの里会館

福井県鯖江市西袋町40-1-2

https://www.echizen.or.jp/urushinosatokaikan

漆琳堂

福井県鯖江市西袋町701

https://shitsurindo.com/shop

ataW (あたう)

福井県 越前市 赤坂町 3-22-1

https://ata-w.jp/

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デザインとアートの間を行く福井「ataW (あたう) 」の審美眼

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・漆:漆とは。漆器とは。歴史と現在の姿

越前漆器の基本データ

○素材

越前漆器の主な素材はトチ、ミズメ、ケヤキ、ヒバ、スギ、カツラ、ホオなどの材木。また、木製のほかに、合成樹脂や化学塗料を用いた漆器もつくられている。

○主な産地

・福井県鯖江河和田地区とその周辺

○代表的な技法

越前漆器の上塗りの主な技法に「花塗」がある。油分を加えた漆を塗ったあとは磨かずに仕上げる技法で、こっくりとした艶と、なめらかな塗り肌が特徴的だ。

○代表的な工程

・木地製作:丸物はトチやケヤキなどをろくろで削って、角物はカツラやホオなどを裁断し、削り、組み立ててかたちをつくる。

・塗り工程:下塗りと上塗りの2つの工程があり、下塗りでは塗りと研ぎを何度も繰りかえし、上塗りではすばやく均一の厚さで漆を塗る。

・加飾工程:沈金では沈金刀で絵柄を刻み、その彫跡に漆で金や銀などを定着させる。また、蒔絵では蒔絵筆で模様を描き、そこに金や銀などを蒔きつける。

底面は、黒の刷毛目で
器の底面に、漆を塗っているところ

○数字で見る越前漆器

・誕生:今からおよそ1500年前、古墳時代の末期ごろ

・出荷額:漆器関連製品で66億円(2019年時点)

・シェア率:外食産業量・業務用漆器では国内シェアの80%以上

・伝統的工芸品指定:福井県で初めての伝統的工芸品に認定(1975年5月10日)

<参考>

小林真里 編『日本伝統の名品がひと目でわかる 漆芸の見かた』株式会社 誠文堂新光社(2017年)

北俊夫 監修『調べよう 日本の伝統工業 4 中部の伝統工業』株式会社 国土社(1996年)

大嶋奈穂 編『伝統工芸のきほん② ぬりもの』株式会社 理論社(2017年)

『福井県鯖江市が応援するふるさと名物』福井県鯖江市(2016年)

「地域サプライチェーンと小規模事業者の関係 〜工芸業界の場合〜」一般社団法人 日本工芸産地協会(2018年)

越前漆器協同組合「越前漆器産地内の生産工程と特徴」

福井県「ふくいの伝統工芸品」

真宗教団連合「浄土真宗本願寺派 西本願寺」

(以上サイトアクセス日:2020年6月17日)

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