奈良に新しい集いの場を。鹿猿狐ビルヂングの楽しみ方

エリア

猿沢の池越しに興福寺の五重塔を望み、少し坂を登れば春日大社。そのほど近く、細い路地が入り組んだ迷路のようなならまち元林院町に、そのお店はあります。

「鹿猿狐 (しかさるきつね) ビルヂング」。

中川政七商店が300余年商いを続けてきた創業の地に、2021年4月にオープンさせる新しい「集いの地」です。

なぜ、鹿猿狐?

それは集うお店にヒントがあります。

3階建ての建物の1、2階には、創業の地に満を持して構える「中川政七商店」の旗艦店。隣接する1階部分には「たった一杯で、幸せになるコーヒー」を掲げるスペシャリティ珈琲専門店「猿田彦珈琲」、東京・代々木上原のミシュラン一つ星掲載店「sio」によるすき焼き店「㐂つね」が軒を連ねます。

つまり、集うのは中川政七商店の「鹿」、猿田彦珈琲の「猿」、㐂(き)つねの「狐」の3匹。だから鹿猿狐ビルヂング。

新しい集いの場への迷い込み方は二通りです。今日は、創業当時の面影を感じさせるこの入口から、鹿猿狐ビルヂングの世界をご案内します。

ならまちをそぞろ歩いて、はじまりの地へ

近鉄奈良駅から南に伸びるもちいどのセンター街の路地を東へ折れると、昔使われていた鹿避けの柵ごしに、ちらちらと覗くディスプレイ。入口の焼板の壁に真鍮であつらえられた看板には、二匹の向かい合う鹿。

ここはおよそ35年前、中川政七商店が初めて直営店をオープンさせた場所です。

もとは創業家である中川家の住まいだった築100余年の建物の中には、季節ごとの洋服やバッグが並び、奥には御座敷で抹茶やお茶菓子が楽しめる、「茶論 (さろん)」の喫茶スペースが設けられています。

二十四節季に合わせてしつらえが変わる盆栽。手掛けるのは奈良の塩津植物研究所

「茶論」茶道体験をテイクアウト

ならまち歩きを楽しむ人たちの喉を潤すのは、中川政七商店から茶道の新しい楽しみ方・学び方を提案する「茶論」のオリジナルメニュー。

テイクアウト用のカウンターでは、目の前でお茶を立ててくれます。

ここから一歩踏み込んで、さらに建物の奥へ進みましょう。小道を抜けると、そのまま鹿猿狐ビルヂングへつながっています。

小さな階段を降りてゆくと右手にはすきやき店「㐂つね」。正面に真っ直ぐ進めば、猿田彦珈琲と中川政七商店 奈良本店が見えてきます。

鹿猿狐ビルヂング まずはこの3匹にご挨拶

遊 中川本店側からビルヂングに渡ってまず目に飛び込んでくるのが、この大きなディスプレイ。

鹿の背中に猿が乗り、2匹を見上げる様に狐がそばにたたずんでいます。「鹿猿狐ビルヂング」を象徴する3匹の動物たちがお出迎えです。

1階で奈良初出店の猿田彦珈琲と奈良の工芸に出会う

愛らしい3匹の表情を眺めていると、右手から珈琲のいい香りが。鹿猿狐ビルヂングの1階には猿田彦珈琲が奈良初出店。その周りを囲む様に、奈良土産と奈良の作家ものがずらりと並びます。

中川政七商店 奈良本店が大切にしているコンセプトのひとつが、創業の地「奈良」を感じてもらうこと。1階にはこの地を訪れた記念となるようなアイテムを展開しています。

こちらが鹿猿狐ビルヂングの正面入り口。道を一本向こうに越えれば、猿沢池が目の前です。


続いて階段を登って2階へ上がってみると‥

2階 3000点のアイテムが並ぶ、中川政七商店 奈良本店の真髄

ずらりと並ぶ暮らしの道具。

その数3000点ほど全てが、中川政七商店オリジナルのアイテムです。

こちらは、中川政七商店を象徴する文様として新たに考案された「政七紋」のシリーズ

鹿猿狐ビルヂング限定アイテムや、大充実の品揃えの「ふきんコーナー」も見逃せません。

中央の企画展ブースでは、オープンに合わせて「奈良であること」を体感してもらうインスタレーションを展示しています。

土・水・火・風の4つをテーマに、ディスプレイするものは社員総出で集めました。

もうひとつの見どころが窓辺のライブラリーコーナー。

「中川政七商店の100」と題して、ブックディレクターの幅允孝さんが選書した奈良や工芸にまつわる100冊が並んでいます。

下段の電光掲示板には、本の一節が時折流れます。どの本のことばか、ゆっくり探してみるのも楽しい時間です。

ライブラリーコーナーのある窓辺は、手績 (う) み手織りの麻生地が光をやわらげます。

(手織り麻ずらり)四季に合わせて色が変わります。春は桃花と紫香
(軒下)窓辺から見える軒下部分。吉野檜でつくられています

この手績み手織りの麻こそ、中川政七商店の商いの原点。お買い物を楽しんだら、この織物に触れ、体感できる「布蔵 (ぬのぐら)」へ行ってみましょう。

来た道を戻って、遊 中川 本店からの小道を左へ折れると‥

布蔵で中川政七商店のルーツ「手績み手織りの麻」のものづくりを体験

江戸時代、武士の裃に重用され江戸幕府の御用達品にも指定された手績 (う) み手織りの高級麻織物「奈良晒」。中川政七商店は1716年、その商いで創業し、以来300余年にわたり、この「手績み手織り麻」のものづくりを守り続けてきました。

布蔵は、本社機能がここにあった頃に、実際に麻生地を保管するために使われてきた蔵です。入口には従業員が出入りするための下足箱が今も残されています。

そんな中川政七商店の「麻」を守ってきた蔵が、鹿猿狐ビルヂングのオープンに伴い、麻のものづくりを体感できる工房にリニューアル。

事前に予約しておけば、麻に関する道具や布、機織り機が展示される蔵の中で、手績み手織り麻の織物がどの様に糸になり、布として織られていくかを学ぶことができます。実際の織り手さんからレクチャーを受けて、織りの体験を行うこともできます。

1疋(約24m)の生地を織るには熟練の織り子さんで10日かかります

体験をされた方には手績み手織り麻のポーチをプレゼント。体験をする前と後では、生地の見え方がガラリと変わっているはずです。

時蔵 これまでの300年とこれからの100年を見据えて

鹿猿狐ビルヂングにはもうひとつの蔵が併設されています。それが時蔵 (ときぐら)。

ここには、中川政七商店の300年分の歴史がアーカイブされています。一見がらんとした蔵の中にどうアーカイブされているかというと、壁一面が創業の1716年から始まる年号別の桐箱になっているのです。

普段は閉ざされている桐箱。中に各年に関わる資料などが大切に保管されている

年号は、創業の1716年から、未来の2137年まで。未来の分も含め400年分以上の桐箱が用意されています。

300年の歴史はどのように繋がり、現在に至ったのか。桐箱の手前では中川政七商店の物語を展示で紐解きながら紹介。

2階に上がると、そこは工芸の未来への展望を感じるような展示スペースに。300周年の際に製作した、新旧の技術を対比させた「二体の鹿」オブジェや、過去から未来へ工芸の変遷を描いたクロニクル屏風が並びます。

創業の地 奈良で工芸を未来へつなぐ。

鹿猿狐ビルヂングの3階には、奈良に魅力的なスモールビジネスを生み出すN.PARK PROJECTの拠点として誕生した、コワーキングスペース「JIRIN」があります。

古きを学び進化し続けてきたこの街で、今の奈良に出会い、今の工芸に触れてもらう。これからの未来を創る。新しい集いの場から、100年先の日本に工芸があることを願って、鹿猿狐ビルヂングも進化を続けていきます。

<店舗情報>
鹿猿狐ビルヂング
奈良県奈良市元林院町22番(近鉄奈良駅より徒歩7分)

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