【暮らすように、本を読む】#04『なずな』

自分を前に進めたいとき。ちょっと一息つきたいとき。冒険の世界へ出たいとき。新しいアイデアを閃きたいとき。暮らしのなかで出合うさまざまな気持ちを助ける存在として、本があります。

ふと手にした本が、自分の大きなきっかけになることもあれば、毎日のお守りになることもある。

長野県上田市に拠点を置き、オンラインでの本の買い取り・販売を中心に事業を展開する、「VALUE BOOKS(バリューブックス)」の北村有沙さんに、心地好い暮らしのお供になるような、本との出合いをお届けしてもらいます。


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先着50冊限定!ご紹介した書籍をVALUE BOOKSさんでご購入いただくと、同社がつくる「本だった栞」が同封されます。買い取れず、古紙になるはずだった本を再生してつくられた栞を、本と一緒にお楽しみください。詳細は、VALUE BOOKSさんのサイトをご覧ください。



小さな命を通して映す、やわらかな日常。
『なずな』

「なにかにつけて勝手気ままに生きてきた私が、自分のことを後回しに考えるようになって、まだそれほどの時は経っていない」。

40代独身、タウン誌の記者を務める菱山秀一のもとに、ある日突然、生後2か月の赤ん坊「なずな」がやってきます。両親である弟夫婦はともに長期入院中、唯一頼れる存在として選ばれたのが、叔父である秀一でした。

おむつを替え、ミルクをあげ、散歩へ連れ出す。はじめての育児に奮闘しながらも、かけがえのない時間を過ごします。

なずなへ向ける眼差しはいつも、愛おしさに溢れています。丁寧に髭を剃り、赤ん坊に頬擦りする場面では、やわらかい肌の心地やミルクの甘い香りまで漂ってくるようです。

親身になってくれる小児科の先生や看護師さん、理解のある同僚など、なずなを取り巻く人たちは、即席の家族となって、代わるがわるなずなの世話を焼きます。ささくれほどの棘もない、純粋な優しさに触れながら、わたしたち読者もご近所さんのように、または家族のような気分で、ふたりの成長から目が離せなくなっているのです。

育児を中心とした日常のなかで、たびたび登場するのが食事のシーン。入居するマンションの一階にあるバー「美津保」では、ママの作る鍋焼きうどんをおいしそうにすすり、育児の合間にバターと和辛子を塗ったサンドイッチをこしらえ、“震えながら”食べる。秀一の食べっぷりを目の当たりにするたび、冷蔵庫の扉に手がかかりそうになります。

ベビーカーに乗ったなずなを連れて歩きながら、主人公の世界は、狭まるどころか緩やかに広がっていく。そして、読み手の気持ちも外へ、外へと開かれていきます。

・・・・

本書を読み終えた時、足早になりがちな都会のリズムを手放して、ゆっくり街を歩きたくなった。いつもは通り過ぎていた喫茶店に入り、カレーを注文する。いつの間にか空腹になっていた体で、”震えながら”スプーンを口に運んだ。

ご紹介した本

・堀江敏幸 『なずな』

本が気になった方は、ぜひこちらで:
VALUE BOOKSサイト『なずな』

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VALUE BOOKS
長野県上田市に拠点を構え、本の買取・販売を手がける書店。古紙になるはずだった本を活かした「本だったノート」の制作や、本の買取を通じて寄付を行える「チャリボン」など、本屋を軸としながらさまざまな活動を行っている。
https://www.valuebooks.jp/


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