裂織の技を障がいがある人とともに未来に繋ぐ。幸呼来Japanのものづくり

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同系色のトーンの中に混ざる、多様な色のゆらぎ。布というにはしっかりとした厚み。凹凸があって、見るからに表情が豊か。

とにかく、触ってみたい。
そんな布に出会ったことはありますか?

私は、先日新たにデビューした「くらしの工藝布」の初期サンプルの裂織(さきおり)を目にした時にそう感じて、自然と手を伸ばしてしまいました。

この布はどうやって生まれてくるんだろう?そんな風に、もっと知りたいと思わせてくれる佇まいです。

暮らしの美しい発明「裂織」

裂織が生まれたのは、今よりも布が貴重な時代。

寒冷ゆえに材料となる木綿の栽培が難しく、流通も不便だった東北で、ようやく手にしたあたたかく肌触りのいい木綿の布。ボロボロになっても捨てるのはもったいないと、各家庭の生活織物として、裂織の技が発展していきました。

裂いて織る、と書く名前のとおり、着古した古布を捨てずに細く裂いて紐状にして集め、緯糸(よこいと)として新たな布に織り上げます。布をそのまま別製品に仕立て直すリメイクとは違って、まったく新しい布に生まれ変わらせてしまう、暮らしの中の発明でした。

緯糸の組合せや織り方によってさまざまな表情を見せ、既成の織物にはない独特の美しさがあります。

美しいとは知りつつも、効率的なものづくりが求められる現代において、その営みを続けることは容易なことではありません。

でも、そんな裂織のものづくりに取り組む企業があります。

今回、「くらしの工藝布」をともに作っていただいた、幸呼来Japan(さっこらじゃぱん)の皆さんです。

裂織を作る幸呼来Japanの代表、石頭悦(いしがしら えつ)さん

知らないなんてもったいない、がビジネスへ

「こんな素晴らしい織物があったなんて」

盛岡で会社勤めをしていた石頭さんは、裂織との出会いを「ショックだった」と回想します。元々着物が好きだったのに、仕事でたまたま裂織の現場を見るまで、その存在を知らないままでした。裂織との出会いは2009年、訪れた特別支援学校でのこと。一段一段、集中して生地を織り上げていく生徒さんたちのエネルギーと、仕上がりの緻密さに圧倒されたそうです。

幸呼来Japanでの製作風景

知らなかったなんてもったいない、という思いは、もっと多くの人に知ってほしい、という願いへ。支援学校の卒業生を織り子さんに起用し、2010年、石頭さんは勤め先に裂織事業部を立ち上げます。翌年、震災を機に独立。2011年9月に誕生したのが「幸呼来Japan」です。「さっこら」とは岩手を代表する夏祭り「さんさ踊り」のかけ声で、「幸せは呼べばやって来る」という意味。いずれは世界へ飛び立つ会社にと「JAPAN」を背負い、障がいがある人の就労支援と裂織の魅力発信を両輪で事業化する、一大プロジェクトが始まっていきました。

工房内に飾られている、岩手を代表する夏祭り「さんさ踊り」の写真

世界中の布が集う「幸呼来Japan」

取り組みは思わぬ波及効果を生みます。製造の過程で余ってしまった残反を活用してほしいと、大手のアパレルメーカーや世界的なファッションブランドから声がかかるように。今では盛岡の工房に、日本中、世界中から多様な布が集まってきます。

幸呼来Japanの棚に置かれる、多種多様な布を再生した裂織の布

「幸呼来Japan」のものづくりを、石頭さんは「チームさっこら」と表現します。ひとりひとり、異なる障がいがあるメンバーがスムーズに作業できるよう、製造はすべて分業制。生地を裁断する人、色柄の出方を計算してデザインする人、織り方を指導する人。バトンをリレーするように連携しながら織りが進みます。

工房を訪ねると、元気よく、とても丁寧に挨拶してくださる作り手の皆さん

そうしてある程度の設計はしても、織ってみないとどんな表情になるかわからないのが裂織の面白いところ。もともと表と裏で色が違う生地であれば、横糸の通し方、織る人の力加減で色の出方が変わってきます。同じ残反を使っても、人の手で裂いて織る、というプロセスの中で、他にふたつとない布に再生していくのです。

「くらしの工藝布」で出会う裂織の楽しさ、新しさ

「幸呼来Japan」誕生から12年。企業コラボを通してさまざまな生地を扱ってきた石頭さんですが、「くらしの工藝布」のものづくりには新しいチャレンジがいくつもあった、と振り返ります。

例えば、決まったデザイン画の通りに柄を出すのが難しい、裂織のタペストリー。
一段の中で別の色の裂き糸を織りこめるのは、機械にはない手織りならではの自由さですが、その製作は綿密な設計に基づいて行われます。
織ると縮む裂織の生地。完成形のサイズがぶれないように、どのくらいの力加減で織るか。素材の特性を掴むまでに苦労したと言います。

そして、高密度に織り上げられる布の収納籠。入れものとして使うことを想定しているため、強度が必要です。高密度で織り上げられる男性スタッフさんの打ち込み具合が標準になった為、女性の織り子さんが織る際は、通常3回程度の打ち込みを、倍の回数打ち込むことで、高密度に仕上げています。

そして、レピア織機で生地を織る際に出てしまう「捨て耳」と呼ばれる廃材を活用して織りあげた、タペストリー。

「フサフサした捨て耳を織りこんで商品を作るのは初めてでした。
裂いていないので、厳密には裂織とは言えないかもしれませんが、捨てられてしまう物を再利用するという考え方は、裂織の精神性に通じるものがあります。
本来捨てられてしまうものを活用して新たな価値を生む、廃材利用の新しい可能性を感じました。裂織は、こんなふうに色々な素材を組み合わせて布にできる。他にない織物だと思います」

本来捨てられてしまう廃材「捨て耳」

裂織の魅力と、障がいがある人たちの細やかで丁寧な仕事。どちらも埋もれたままではもったいない。裂織の営みに宿る「もったいない」精神を引き継いだ石頭さん率いる「チームさっこら」の手で、一段一段、今日も捨てられるはずだった生地たちが、裂織という新たな命を宿した布に生まれ変わっています。



元の生地からはまったく予想できないような、新たな命を宿した布に再生する裂織。
「くらしの工藝布」では、幸呼来Japanの皆さんと一緒に、あり余るほどに布が溢れている今の社会で改めて再生のありかたを見つめなおし、「裂織」をテーマに布を作りました。

左上から時計回りに、
捨て耳のタペストリー
裂織のタペストリー
裂織の布籠
裂織の敷布 SサイズLサイズ

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