ガラス作家 安土草多さんの「魔法のランプ」で、暮らしの景色が変わる
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オフィスも駅もデパートも無機質な光に溢れている東京で、満員電車から見えた夕日の差しこむ川と土手。普段はなんてことない風景に、一瞬の美しさを感じることがあります。
あぁきれいだなぁと思う、心に留めておきたい景色にはいつも、自分好みの“光”がある気がします。
今日の主役は、真っ白な雪が輝く飛騨高山で出会った、ぽっと心あたたまるような明かり。ガラス作家の安土草多(あづち そうた)さんが作るランプシェードのある風景です。
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草多さんの明かりにはなぜか、あたたかさで心を溶かしてくれるような優しさがあります。優しさの正体は、ぽてっとした厚みのあるガラスか。それにより柔らかくなる電球の光か。それとも、ガラスのゆがみや気泡か。光の屈折が明かりに加える様々な表情かな。
どれだけ勘ぐってみても正直わからないのです。明かりって本当に不思議と、我に返ってしまうほど、ガラスの明かりに魅了されてしまいます。
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草多さんのお父さまはガラス作家として有名な安土忠久(あづち ただひさ)さん。忠久さんの作るグラスは、白洲正子が「へちかんだ(ゆがんだ)グラス」と言って、愛用していたことで知られています。
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涼やかさ、鋭さ、気丈さを語られることが多いガラス。そのなかで草多さんの作るガラスには、どこか有機的で、人間らしさのようなものを感じます。その不思議な柔らかさは、草多さんが「自分の手を通すからできるものを」と、常に独自の表現を模索していることにあるのかもしれません。
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「昔は均一なものを作ることが難しかったから、そこに価値があったけど。今はもう同じ品質のものを大量生産できるようになりました。ガラスなんか特に、じっくり時間をかけてサイズを測りながら進めれば、ある意味、誰でも作れてしまうんですよね。だから僕は、それとは違うところを目指したい。日々やり方を模索しながら、どんどん更新していってます」
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「僕、中学時代に使っていたアフガニスタンのグラスが、すごい好きだったんです。ガラスの中に向こうの土が入った、なんの変哲もないグラスだったんですけど」
「自分でグラスを作っている時に、“俺、あれが好きだった”って、急に思い出したんですよね。でも、たくさん作るために人の手を借りていたら、あのグラスの世界には絶対行けないと、仕事をしていて分かってたんですよ。だから、自分は1人で仕事をして、自分の感性だけに依存したものを作ろうと決めました。自分がこれでいいと決めたものは、それでいいんです」
あたたかい明かりの奥には、自分の感性や口元・手元の感覚だけを頼りに作る職人の静かに熱いこだわりがありました。
窯も自分で作り、改良を重ねていってる草多さん。環境自体がオリジナルだから、自分のオリジナルのものができると言います。
製造技術について伺うと、「小難しい知識なんて必要なくて、自分が好きだと感じたものを買ったら良いのに」と言いつつも、工場を見せてくださいました。
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ガラスを巻きつけたときの手の感覚。そして吹いた時に口元で感じるガラスの堅さ。それらの感覚を頼りに、作りたいものに合わせて毎回工程を変えていくそうです。ちょっと今日は冷えてるなぁと思ったら、どこかの工程を早くしたり。硬い状態でも作れるものに変えたり。ガラスの温度やとり方、伸ばし方、吹込み方が毎回違うので、ひとつも同じ形にはなりません。
わずか数分で成形が終わる作品づくり。草多さんの一瞬の判断が、一つひとつの明かりの表情を変えます。
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一瞬の積み重ねで奇跡のように生まれたガラス。そんなことはぼんやりと明かりを見ている間は思いもしないのだけれど。
手作りのガラスの照明にして、生活にぬくもりが増えた気がしたのは、見えないところにも人の息がかかっているものだからかもしれません。
< 撮影協力 >
やわい屋
住所:岐阜県高山市国府町宇津江1372-2
電話:0577-77-9574
営業時間:11:00~17:00
※ やわい屋さんでは、安土草多さんのすべての作品を取り扱っています
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文:田中佑実
写真:今井駿介
*こちらは、2018年1月18日公開の記事を再編集して掲載しました。1つ置くだけで、お部屋の雰囲気をガラリと変えてくれる明かり。やわい屋でお気に入りを探してみてはいかがでしょうか。