「鬼おろし」でおろした大根がみぞれ鍋に合う理由

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こんにちは。細萱久美です。

この連載では「炊事・洗濯・掃除」に使える、おすすめの工芸を紹介しています。今回は、「鬼おろし」という名の大根おろしをご紹介します。

鬼おろしとは、一般的な大根おろしに比べて刃が大きく、それが鬼の歯を連想させることからこの名がついたそうです。

大根などを粗くおろすことに向いています。植物繊維や水分が素材に残りやすいので、ふんわりシャリシャリと仕上がります。

今の季節だと、みぞれ鍋を作るのにおすすめです。たっぷりの大根おろしを作ると、結構手が疲れますが、この鬼おろしだと大根半本くらいはあっという間です。

少し歯ごたえの残る大根おろしが、鍋にはむしろ向いていると思います。水分が出にくいのでサラダ感覚でも使えたり、秋刀魚の季節には秋刀魚が水っぽくなりにくく、一味違うことに驚かれるのでは。

玉葱も、目が痛くなる前におろせてしまうので、カレーやソースを作るのに欠かせなくなりました。使い慣れると年中便利で、調理に欠かせない道具になると思います。

百貨店や専門店で見かける鬼おろしは、おそらく竹製品が一般的ですが、私が愛用しているのは、森川雅光さんが作る木製のもの。森川さんは倉敷の工房で、この鬼おろしだけを作り続けている職人さんです。

他には見ない独自の鬼おろしで、桜の木の台に、竹を削りだした鋭い刃が1本1本埋め込まれています。

家事の道具にもさまざまな工芸品がありますが、この鬼おろしは、中でもかなりの手間を掛けて作られている道具の一つです。

一般的な鬼おろしは、竹を波刃にカットして組み立てられています。竹は乾燥で割れやすかったり、作りによっては衝撃で刃が欠けることがあるかも。

森川さんの鬼おろしは、小さな刃が埋め込まれており、見るからに頑丈。使っていても刃のシャープさに、むしろ指を削らないように気を付けています。

そして、おそらくここがポイントだと思うのが、数十本の刃を埋め込む際に、あえて刃の向きをアトランダムにしていること。

この作りのおかげで、素材をより早くおろせるのでしょう。道具の丈夫さや機能性を高めるために、決して無駄な作りではなく、必然的な形にたどり着いたのだと思います。

桜の台の面取りも抜かりなく、持ち手も持ちやすく馴染みます。無駄なく丁寧に作られた道具は本当に美しいので、台所にあるだけで嬉しくなります。

中川政七商店でも、7年前くらいから扱わせていただいています。取り扱う店舗も増えたのですが、森川さんお一人で製作されているので仕上がる数にも限りがあり、いつでも在庫があるとは限りません。

商売としては、アイテム数が増えていきがちなところですが、一人で一つのものを変わらず作り続けるスタイルは粋な感じがします。

工芸や民芸の街、倉敷にはたまに訪れる機会があるので、工房にもお邪魔して、森川さんにもお会いしてみたいと思わせる温かみのある道具です。

<掲載商品>
鬼おろし (森川雅光)

細萱久美 ほそがやくみ
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、
美味しい食事、美味しいパン屋、
猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

文:細萱久美

※こちらは、2018年1月8日の記事を再編集して公開しました。

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