土と暮らす、土鍋の飴色

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こんにちは。さんち編集部の尾島可奈子です。
きっぱりとした晒の白や漆塗りの深い赤のように、日用の道具の中にはその素材、製法だからこそ表せる美しい色があります。その色はどうやって生み出されるのか?なぜその色なのか?色から見えてくる物語を読み解きます。

立春を迎えました。暦の上では今日から春、新しい1年の始まりです。と言っても、1年で1番寒いと言われるのも2月。時折見かける梅のほころびを嬉しく眺めながら、今はただじっと、人も生き物も土の下で春が育つのを待っています。というわけで今日は、冬の名残を惜しみつつ、土から生まれた暮らしの道具にまつわる色のお話を。

土は何色、と聞かれたらきっと多くの人が茶色と答えます。お茶の色。シロアカという色が空が白んで明けていく様に由来するのに比べると、ずいぶんと具体的で、生活のにおいがします。英語ではBrown。調べると辞書によっても説明が異なります。「the color of earth or of wood(大地や木の色)」(コウビルド米語版英英和辞典)は一般的な感じですが、「the color of chocolate or earth(チョコレートや大地の色)」(CAMBRIDGE英英辞典)などはかわいらしいですね。しかし意外にも語源はクマ(bear)から来ています。やはりここにも暮らしの気配。

人は土を足元だけには放っておかず古くから様々な暮らしの道具の元にしてきました。日本で言えば縄文時代の歴史と縄文土器はセットで覚えますね。土の実際の色は、含む成分によって地域や地層ごとに白、赤、青、緑と全く色を変えます。近年では日本中の土を採集して色とりどりに展示するアーティストもいるほど。産地によって異なる焼きものの表情は器好きにはたまらないところですが、その「土っぽさ」を見た目にも機能にも活かしている暮らしの道具が土鍋です。

昔から「土鍋といえば伊賀焼」と言われるほどの土鍋の名産地、三重県伊賀の土は、はるか400万年前の琵琶湖の湖底に堆積してできた土です。太古の樹木が石炭化して生まれる亜炭(アタン)などを含み、火に強く細かな穴(気孔)がたくさんあるのが特徴です。火にかけると気孔が熱を蓄えて中の食材をじっくりと温め、火から降ろしても保温性が高いのだそう。まさに土鍋にうってつけなのですね。

土らしさを機能だけでなく見た目に楽しむのも伊賀焼の特徴。ザラザラとした質感や素朴な土っぽさをそのまま楽しめる、黒やべっこうのような飴釉(あめゆう)色が、伊賀焼の土鍋の定番です。

土鍋というと冬の道具のイメージですが、ゆっくり火を通す特徴は、もちろんご飯を炊くのにも向いています。思えば火と水と土を使って料理をする土鍋って、なんて原始的な道具なのでしょう。火の力を程よく伝えてゆっくり水分を吸いながらふっくら炊きあげたご飯を、鍋の底でちょうど飴色に焦げたお焦げと一緒にいただく。きっとこれは土鍋でご飯を炊く文化が生まれてからずっと変わらない口福です。土鍋のつやつやとした飴色を眺めていたら、ああ、お腹が空いてきました。

<掲載商品>
中川政七商店
土鍋


文:尾島可奈子