使ってみました。飛騨が生んだ調理道具、有道杓子 (奥井木工舎)
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こんにちは。さんち編集部の尾島可奈子です。
各地の取材で出会う暮らしの道具。作っている人や生まれる現場を知ると、自分も使ってみたくなります。
この連載では、産地で見つけた暮らしの道具のものづくりの様子と、後日、暮らしに持ち帰って使ってみた体験の両方を、まとめていきたいと思います。
今回は、使ってみた編。
道具は先日飛騨高山特集でものづくりの様子をご紹介した奥井木工舎の有道杓子 (うとうしゃくし) です。主に煮物や鍋料理に使います。
実は私自身はもともと、料理する頻度は少ない方です。調理道具に特にこだわりも持っていませんでした。
けれども見た目の美しさや奥井さんのものづくりに触れて、思わず「ひとつください!」と買い求めてから1か月と少し。鍋に七草がゆ、おしるこ‥‥と日々、少しずつ暮らしの中で使ってみた様子をお届けします。
使いたくなった理由
ものづくり取材で印象的だったのが、すくい部分の波のような模様でした。
この凹凸が具材との当たりを和らげ、身を崩さずにしっかりキャッチする役目を果たすとのこと。まずはお鍋で使ってみることにしました。
使う前はこんな感じです
私が買い求めたのは大のサイズ。持ち手は長くしっかり太めです。一般的な金属の「おたま」を使いなれているとやや大きく感じます。2、3人前をつくる鍋に合いそうです。
水でさっと洗うと、不思議と生木の元の姿に戻ったように、生き生きと黄色みが増します。
まずは、鍋料理。しらたきで違いに気づく
いちばん「具材を逃さない」感覚がわかったのが、しらたき。普段なら菜箸でとり分けるところを、他の具材と一緒に杓子ですくい上げられました。
なんでだろう、と後ですくい部分に触れてみると、内側のくぼみをぐるりと囲むように鉋 (かんな) で縁取りされているのに気付きました。
このわずかな縁取りとすくいの凹凸が程よいストッパーになって、余分な汁は逃しながら具材だけキャッチするのに一役買っているようです。
また気に入ったのが、杓子が鍋に当たった時の「コンッ」という音。木ならではの、低くて控えめな音です。
七草がゆ。土鍋と合わせて、絵になるたたずまいでした
実は人生で一度も作ったことがなかった七草がゆ。せっかく鍋に似合う道具があるんだから、と土鍋も新調してやってみました。
ごはん用の「飯杓子」も
実は有道杓子にはごはん用の「飯杓子」もあります。
こちらも、ご飯をしっかりキャッチするのにすくい部分の凹凸が活躍します。
一般的なしゃもじよりすくいがやや深いので、ご飯がまとまって取り分けられる感覚がありました。おにぎりを作るときにも便利そう。
おしるこ
鍋、おかゆ、ご飯ときて、最後は冬らしい甘味も。
すくいが一般的なおたまより浅い分、お味噌汁には向かないという有道杓子ですが、こうしたとろみのある汁ものなら不便なく使えました。「もちろんカレーにも使えますよ」とのこと。
お手入れ方法
取材の際に奥井さんから教わったお手入れのポイントは以下の3つ。
・洗い:洗剤なしでOK。汚れが気になる時は、たわしで落とすのがおすすめ
・乾燥:直射日光のあたらない、風通しのいいところで乾かす
・保管:密閉したところにはしまわないこと。通気性のないところにしまうと、カビの原因に!
本当に洗剤なしで大丈夫なのかなぁ。
そう思いながら、まず手でこすってみると、ベッタリくっついているように見えたおかゆやおしるこが、水洗いでするする落ちていきました。
そういえば、と思い出したのは、取材時の奥井さんの言葉。
「一般的な木製品が最後に紙やすりで仕上げるのと違って、有道杓子は全体に鉋をかけて表面をなめらかに仕上げるんです。
鉋が繊維のささくれを平らげるので、水や汚れが繊維の中に入りにくくなるんですよ」
まだ使い始めということもあるかもしれませんが、教わったことが確かに手の中で実感できたようで嬉しかったです。
飯杓子についたご飯つぶは手強かったので金たわしの力を借りて、洗い完了。あとはよく乾かします。
何度か使った後も、今のところにおいや色移りはありません。使い終わったらすぐ洗う、を気をつけていれば、長く良い状態で使えそうです。
使ってみた編、いかがでしたでしょうか。
もちろん金属製のおたまにも、お味噌汁に鍋にと幅広く使える、すぐ乾くといった良さがあります。
そんな中で煮炊きのために作られた「有道杓子」を使ってみたら、鍋だけでなく、「七草がゆも作ろうかな」「せっかくなら土鍋で」「おしるこはどうかな」と、料理不精の私が新しい料理にチャレンジしてみようと思う変化がありました。
道具が変わると、その周りから暮らしが変わっていく。今回の大きな発見です。
春にはきっと、奥井さんのご家庭では定番のジャム作りに、この有道杓子が活躍するのだろうと思います。
<取材協力>
奥井木工舎
https://mainichi-kotsukotsu.jimdo.com/
文・写真:尾島可奈子