【心地好い暮らし】第3話 しめ飾りをつくる

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箱を空けた瞬間に稲わらの香りが辺り一面に広がる。中身が何かを知っていても、まだ商品として完成していない素材の束を手にすると大人の私もワクワクする。久しぶりに向き合った見知った顔も嬉しくて、つくろうつくろう!と前のめりに愉しい時間が始まった。

今日の先生である羽田さんと初めて仕事をしたのは10年前になる。転職したてで右も左も分からない生産管理担当(私)とインハウスデザイナーとしての出会いだった。すでにたくさんの商品を担当していた彼女は、毎回本当に楽しそうにプレゼンテーションをおこなうので、聞いている方も自然と笑顔になっていつの間にか彼女のファンになってしまう。当時からそんなデザイナーだった。
あれから10年、その間に彼女は結婚し、数年後に母となった。たくさんの役割が増えていった日々だったと思うが、ものづくりに対する熱量は少しも衰えず、愛嬌がある豊かな商品をたくさん生み出してくれている。

その中の一つに「季節のしつらい便」という商品がある。これはもう宣伝になってしまって恐縮なのだけれど、日本に伝わる年中行事を親子で手軽に楽しめるようにと、数年前から羽田さんが担当しているシリーズだ。今の時代を生きる一人のお母さんとして、自分の子供に伝えるならという視点で毎回試行錯誤してくれている。

年中行事というと、正直とても面倒な準備が必要だったり、正式に行うには手順が多すぎて流石に無理ですわ…というものもある。そこは否定できない。ゆえに世の中が便利になり暮らしのスピードが速くなる中で、そういった「面倒なもの」は、どんどん失われていっている。

でも一方で、微かにでも受け継がれ、残っているものには何らかの意味があるのではないかなぁとも思ってしまう。実際、季節の節目に行われることが多い歳時記と呼ばれるものは、今よりももっと難しかったであろう子供の無事な成長を祈ったり、次に来る季節に備えて暮らしを整え、元気に乗り切るための知恵が詰まったものも多い。
古のご先祖さまが面倒なことを四季折々に設定したと考えるよりも、年中走り続けて息切れしてしまわないように、節目ふしめで無事を感謝し一呼吸置くための工夫だと考える方が自然だなと思う。

だから、羽田さんに「しめ飾りを、稲わらからつくる」という構想を聞いた時、一瞬躊躇はしたものの、いつもの楽しそうなプレゼンを聞くうちに、来年の正月は自分でつくったしめ縄飾りで迎えると決めた。年末年始こそ一呼吸にもってこいだ。

ということで冒頭のシーンとなる。つくった感想としては、お子さんも絶対に楽しんでいただけると思うが、大人がつくってもとても楽しい。少し難しい部分もあるが、どうやったら上手くできる?と考えることも面白い。それに二人でつくれば「そこ持っててね」と助け合えるので、あっという間に立派なしめかざりが形を成してきた。

中心に掲げる願いには、来年資格試験を控える家族の為に「合格」と書いてもらった。しめかざりの木札には「笑門」などが書かれることが多いけれど、本来注連縄飾りは各家庭で願いをこめてつくられていたもの。そう考えると木札にも、自分たちの家族、今の暮らしに合わせた願いごとを考えて書くというのもひとつの楽しみ方だと教えてもらって、なるほどと思った。羽田さんは縁起のよい人なのでとてもご利益がありそうだ。

今年ももう二ヵ月をきった。年末に向けどんどん慌ただしくなる日々の中でも、こうして少しづつ準備をしながら穏やかに新年を迎えることができるといいなと思う。来年は健やかなよい年になりますようにと願いながら。


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書き手 :千石あや
しめ飾りづくりの先生:羽田えりな


この連載は、暮らしの中のさまざまな家仕事に向き合いながら「心地好い暮らし」について考えていくエッセイです。
次回もお楽しみに。

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