【心地好い暮らし】第4話 味噌をつくる

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自家製の味噌づくり。おぉ、いよいよですかという感じ。旬の手しごとの一つとして味噌づくりはやるべきだし、やってこそだという気もするのだけれど、いかんせんハードルが高い。まず工程が分からないし、時間もかかりそうだし、味の濃い薄いを何でコントロールするのかもイマイチ分からない。でも育てる系の仕込み作業は毎回やってみると楽しいので、それを信じて今回もあまり肩に力を入れず始めてみることにする。

前の晩から解凍だけは忘れずに!と言われて冷蔵庫で寝ていた大豆を取りだし、大きな鍋で湯がくところからのスタート。普段、丁寧な暮らしというワードがあまり自身にフィットしなくて恥ずかしい感じがしてしまうのだけれど、自分の食べるものを自分でつくってみようと台所に立つ気持ちというのは清々しい。それは料理という作業よりも、この単一素材を鍋で煮るというようなシンプルな行為の方が研ぎ澄まされる。いつの間にか集中してじっと鍋の中を見つめることになる。

とはいえ、今回はすでにうまい具合に火が通った大豆なので、私がいかに見つめようとも仕上がりに大きな違いはなく、時間さえ守ればホコホコツヤツヤの煮豆ができあがる。ザルにあけると何とも言えない甘い素朴な香りが湯気と一緒に立ち上がって、すでに美味しいものができる気配を感じる。
味噌の最終形態から逆算して、察するにこれ潰すんですね。と手順書を確認すると、いったん大豆は粗熱を取り、その間に米麹と塩を混ぜるらしい。

そう、麹。このアイテムが素人には謎で敷居を高くしている感がある。何も考えずに混ぜるというのもありなのだが、少し説明すると、今回使用する米麹というのは米に麹菌をつけて培養したもので、これを食品に混ぜることによって微生物の働きが活性化し、発酵という摩訶不思議な作用を促す。

何度聞いても、発酵と腐敗の曖昧さ、その結果としての成果物の幅広さに人類の試行錯誤を想像する。最初の人は「あー失敗したー」と思ったに違いない。それでも何かキラッと光るものを見つけてしまい、探求するに至ったのだろう。

酒、味噌、醤油、その他諸々の発酵食品の美味しさは、この麹菌の調合と育成にかかっている。が、今回は丸秀醤油株式会社さんにベストな分量を整えていただいたので、安心して混ぜていただいて大丈夫。回を重ねたら自分で多少はこのあたりの分量を調整できるようになるのかもしれないし、そうやって発酵の沼にはまっていくのかもしれない。

そこからは、ほぼほぼ陶芸の土をこねる作業に似ている。要は粘土遊びだ。3つの材料が満遍なく混ざるように、掌で体重をかけながらこねていく。混ざったら次は団子にして樽に詰めていくのだから、ますます手遊びに近い。

ただ、今はこうして暖かい部屋でのんびり作っているが、一昔前はこの先一年の家族の食卓を支える調味料を仕込むのだから、大仕事だったのだろう。多くは台所を預かる女性たちが家ごとに味を積み重ね、その家の味というものを代々受け継いでいた。様々な事情で実家を遠く離れ、違う土地の味噌の味に慣れるしかなく寂しい思いをした人もいただろう。数か月ぶり、数年ぶりに味わう自分の家の味は、それこそ震える思いだったのではないか。

今年の年末年始は二年ぶりに帰省する方も多いと思う。手作りの味噌ではなくても、それぞれの家庭の味を囲み、幸せな食卓がありますように。

どうぞよいお年をお過ごしください。


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文:千石あや


この連載は、暮らしの中のさまざまな家仕事に向き合いながら「心地好い暮らし」について考えていくエッセイです。
次回もお楽しみに。

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