【工芸の解剖学】大人のためのTシャツを目指してつくった「布ぬのTシャツ」
最近なんだかTシャツが似合わない。
「Tシャツがさらっと着こなせる大人」って素敵だなと思うのですが、
年を重ねるごとに、Tシャツを着た自分に違和感が…。
肩が厚く見えてしまったり、だらしない印象に見えてしまったり…。
きれいに着れるシルエットで、カジュアル過ぎず、さらっと1枚着れば決まるようなTシャツがほしい。
そんな大人のTシャツ願望を叶えるために、中川政七商店がつくったのが「布ぬのTシャツ」です。
シルエット、素材、デザインの3つの方向から、大人にふさわしいTシャツを模索していきました。
解剖ポイント①どんな体形の方でも着やすいシルエット
「大人のTシャツ」を目指してつくったというだけあって、シルエットには並々ならぬこだわりがあると、デザイナーの山口さん。
「自分自身そうなのですが、年を重ねるごとに体のラインにコンプレックスをもつようになって…
でもコンプレックスは人それぞれなので、体のラインによって似合わない、ということがないようなものを目指しました」
そのポイントになったのが、「肩のシルエット」と「首元のつまり具合」だったそうです。
「肩のシルエット」は、着る人の体形に添うように、パーツを工夫したと言います。
通常のTシャツは、袖と身頃のパーツを分けてつくることで、肩のラインに合わせて立体的にシルエットが変化します。
ただ人によって肩幅や腕回りの太さは違うもの。
今回のTシャツはあえて、前と後ろだけの2パーツでつくり、着る人の体に添うようにしました。
また「首元のつまり具合」も、何度も修正を重ねて絶妙なバランスを目指したと言います。
好みは人それぞれ。年を重ねるほど自分に似合う形を自覚している人も多いのではないでしょうか。
そこで、好みに左右されないよう、広がりすぎずつまり過ぎない首元の空き具合にこだわりました。
解剖ポイント②大人が着て様になる、品のある素材感
Tシャツというと、カジュアルなイメージがありますが、カジュアルすぎるとまた違和感が出てしまったりも…
そこで、素材には、光沢感を生むシルケット加工をほどこした綿素材を採用。
綿100%でありながら、シルクのような光沢感が出て、上品な印象になるので、大人が着ても様になります。
綿なので気兼ねなく着られるし、伸縮性が増して肌触りがなめらかになる為、着心地も抜群です。
解剖ポイント③一枚で主役になる、好みで選べるラインアップ
様になるかどうかは、シルエットや素材も大切ですが、
服を選ぶ愉しみは「見た目が好きかどうか、自分らしいかどうか」も大切ですよね。
好きな服を身にまとうと、少しだけ前向きな気持ちで一日を過ごせるようにしてくれるもの。
そこで、好みで選んでいただけるよう、「日本の布」をテーマに17種類のバリエーションをつくりました。
真ん中に刺繍された四角い布には、一枚の絵画を選ぶような愉しみがあります。
今回はTシャツということで、夏にふさわしい3つの産地を選びました。
徳島の阿波しじら織と、香川の保多織は、どちらも布に凹凸がある為、肌への接地面が少なく、夏を快適に過ごすために生み出されたもの。
富山のボーラレースは、穴が開いていて、見た目にも涼しげな表現です。
プリントではなく、布なので、視覚的にも触覚的にも、涼しげで手ざわりのある風合いが愉しめます。
実は、この「布」をTシャツにあわせることも、困難があったと言います。
「Tシャツは編物で、刺繍された布は織物なので伸縮率が違ったり、色落ちの問題もあります。
Tシャツは日常で使うものなので、洗濯した際に大きく縮んでしまったり色落ちしてしまうとすぐに使えなくなってしまいます。
なるべく、問題なく日常で使っていただけるよう調整していきました」
そして、アクセントとして効いているのが、布を囲む刺繍糸。
「色の組み合わせやどういうステッチにするかはすごく気を配りました。
土着性の強い布にはあえて派手な色を差したり、逆にペールトーンの布にはあまり強くない色にしたり、
布と刺繍の組み合わせで、より心が惹かれるようなデザインになるように調整を重ねました」
たしかに、私は保多織のTシャツが好きなのですが、
この刺繍が差し色として効いていることが一つの理由のようにも思います。
「布ぬのTシャツ」のおかげで、今年の夏は、屈託なくTシャツライフを愉しめそう。今から夏が来るのが待ち遠しいです。
<掲載商品>
気候や文化、つくり手の工夫などの影響を受け、日本の各地で生まれた個性豊かな「布ぬの」。ぜひそれぞれの「布」のものづくりにも触れてみてください。
産地の取材記事はこちらから
ー徳島県「阿波しじら織」
ー富山県「ボーラレース」
ー香川県「保多織」
文:上田恵理子