“多年を保つ”いつまでも丈夫なことから命名された「保多織」

衣服、寝具やインテリアなど、さまざまな場面で私たちの暮らしを支え、彩ってくれる「布」。改めてそれらを眺めてみると、実に多様な特徴を持っていることに気づきます。

気候や文化、つくり手の工夫などの影響を受け、日本の各地で生まれた個性豊かな「布ぬの」。

その魅力を多くの人に知ってもらいたい。好きになってもらいたい。そんな想いで「日本の布ぬのTシャツ」をつくりました。

今回選んだ3つの「布ぬの」。その歴史や特徴、つくり手の想いを取材しています。ぜひご一読ください。

香川県の伝統的工芸品「保多織」でつくるワッフル状の生地

保多織を中央に配置した「布ぬのTシャツ」

今回紹介するのは、香川県の伝統的工芸品である「保多織」。格子模様が目を引きますが、一体どんな「布」なのでしょうか。

岩部保多織本舗の四代目、岩部卓雄さん。高松市内にあるお店を訪ねました

その歴史や特徴を知りたくて、香川県の「保多織」の産地へ。つくり手である岩部保多織本舗の四代目、岩部卓雄さんを訪ねました。

夏は涼しく冬は温かい、凹凸が生み出す心地よさ

左側が保多織、右側は平織。保多織は凹凸がありワッフル状の生地になる

「保多織は、織り方によって生まれるワッフル状の凹凸によって、肌への接地面が少ないので、夏にはさらりと涼しく着られます。
冬には逆に、肌に触れたときの冷たさを感じづらいという特徴があります」

「機械ごとに癖があるから、じつは機械の扱いの方が難しかったりするんだよね」とも。

そう話しながら、その場でするすると、布を織っていく岩部さん。
製品はもちろん機械織ですが、高松市内のお店には手織機が置かれ、普段からその場で実演していると言います。

同じ布の表裏。表は緯糸が浮き、裏は縦糸が浮く。同じ布と言えど表裏で印象が異なります

「縦糸と横糸を1本ずつ交差させる平織りに対して、保多織は3回平織りで打ち込んで、4本目を浮かせる織り方です」

そうして織りあがった布には、美しいワッフル状の凹凸。一見ざっくりしているように見えて、実はしっかりと動きにくく、丈夫な布になるのだと言います。 

いつまでも丈夫なことから「多年を保つ」という意味で「保多織」

保多織のもうひとつの特徴が、丈夫であるということ。
なんと、保多織という名前そのものが、いつまでも丈夫なことから「多年を保つ」という意味で命名されたという歴史をもちます。

四季のある日本の風土の中で、気候の変化に寄り添い、丈夫。
生活の中で非常に扱いやすい保多織の布、一体どのようにして生まれてきたのでしょうか。

始まりは江戸時代。蒸し暑い香川の地に最適な布を求めて

「始まりは江戸時代。高松藩主が、京都から織物師の北川伊兵衛常吉という人物を招いたそうです。

今でこそエアコンがあるけど、当時はそんなものはないし。香川の夏は本当に蒸し暑いから、それに対処してさらっとした感触の物をつくってほしいというオーダーから、凹凸のある生地をつくっていったんでしょうね」

香川の風土にあわせて開発された、生活の為の布だったのですね。

たしかに、今でも夏になると「暑い暑い」と口癖のように言ってしまうのに、エアコンがない当時、蒸し暑い日本の夏をいかに涼しく過ごすかというのは至上命題だったに違いありません。

「糸を浮かせることで欠点も生まれるんです。ひっかかりやすくなってしまったり。でもその欠点を最小限にとどめるようにつくったのが保多織だったんだと思います。

平織のアレンジで3本ががっちり組まれているおかげで、4本目に少し遊びがあるんですが、それがかえって長くもつ事に繋がってるとも言われています」

京都で装束師として活躍されていた織物師さん。それまでに磨いてきた確かな技術で、蒸し暑い日本の夏に最適な布を生み出していったようです。
布が生まれた背景を聞くと、しみじみと、生活の中でかけがえのない大切なものだったのだと感じます。

暮らしに取り入れたい、布ぬの

年々暑さが増し、香川だけでなく日本全国蒸し暑い中、扱いやすい保多織は、生活の中で気負わず使っていきたい布です。
お店でも、保多織でつくられた商品を多数扱っていたので、おすすめを聞いてきました。

「シーツは、県内でお中元の御三家とも言われていたくらい、進物として活用されてきました。買わなくても押し入れに3~4枚ありますよという家がほとんどだったくらいです。

法事なんかあると親戚を家に泊めてた時代背景もあって。親戚の家で初めて保多織のシーツに触れていいなと思って、遠方から買いにきてくれたり」

たしかに触ってみるとさらりとしていて、これは夏の寝苦しい夜に気持ちいいだろうなと感じます。

パジャマ。シーツ同様さらりとして気持ちいい肌触り
シャツやワンピースなど、服もたくさん。現在では服に使われることが多いそうです

「皆さんに言うのですが、荒っぽく扱っていいよ、って。
布の方が寄り添ってくれるから。着るものに気を遣わず、洗濯機で回して干して。丈夫だから、気にせず着たらいいよって」

小物類や、生地の切り売りも

「保多織は生活の中で、非常に扱いやすい布。
着るものなら汗をとってくれるし、夏には涼しく、冬には冷たさを感じづらい。洗っても、あらっぽく扱える。
少しでもたくさんの方に、使ってみてほしいです。

丈夫でずっともつから、全然買い替えてもらえなくて困っちゃうんだけどね。笑」

生活の中で非常にいいんですよ、と話す姿に、ものづくりへの愛着がたしかに感じられました。

今回の「布ぬのTシャツ」の取材で、香川の保多織と、徳島の阿波しじら織の産地を回ってきました。
取材に出かける前、デザイナーの山口さんが言っていた
「今回はTシャツだから、夏にふさわしい布を選びました」という言葉の意味が、2か所の取材を通してよく分かりました。

奇しくも、どちらも四国の蒸し暑い地域の中で、育まれてきた生活の布。始まりはそれぞれですが、生活の中で求められて育まれてきたものづくりでした。

工芸は、日本の風土の中で生まれ育まれてきたもの。布の産地をめぐる中で、改めてそんなことを感じ取りました。

<関連特集>

<取材協力>
岩部保多織本舗
香川県高松市磨屋町8-3
087-821-7743
サイトはこちら

写真:直江泰治
文:上田恵理子

関連商品

関連の特集

関連の読みもの