「珪藻土バスマット」誕生秘話 「素人には作れん」と言われた左官技術を継承する女性たち
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soil「珪藻土バスマット」はどのように生まれたのか?
水をすっと吸収し、いつまでもサラッとした感触で使える心地よさで人気の「珪藻土バスマット」。
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元々はこんな素材から作られています。
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珪藻土 (けいそうど) とは「珪藻」という植物プランクトンの殻の化石からなる堆積物(堆積岩)で、調湿性が高いのが特徴。
湿気を吸収、放出するため、部屋の壁材などに使われています。
この珪藻土を活かした調湿剤やバスマットを製造販売しているのは、金沢で左官業を営む株式会社イスルギの子会社、soil株式会社。
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「DRYING BLOCK」のほか、珪藻土を使った様々な日用品を作っているsoil。
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左官といえば、建物の壁や床の塗りを担う仕事。彼らが日用品を作っているのも驚きですが、さらに商品の作り手は全員が女性だといいます。
いったいどのような経緯から、珪藻土バスマットは生まれてきたのでしょうか。
製作現場を訪ねました。
江戸時代から続く、全国屈指の左官屋さん
金沢城の西側を流れる犀川の近くに本社を置くイスルギは、1917年(大正6年)創業。
主に大きなビルを手がける、全国屈指の左官屋さんです。
東京オリンピックや大阪万博などの国家的プロジェクトに参加し、国から「優秀技能賞」の表彰を受ける職人を数多く輩出しています。
珪藻土商品専門の「soil」を創立したのは2009年。大手の左官屋さんが、なぜ珪藻土商品を開発することになったのでしょうか。
イスルギの3代目で、soil代表の石動博一さんにお話を聞きました。
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「もとは江戸時代から続く富山の左官屋です。祖父の石動半七が次男だったので家を出て、金沢で創業したのが始まりです」
半七さんは先見の明がある方でした。明治以降、鉄筋コンクリート建造物が多くなると、住宅の左官からビルの左官に転換。
「でも、ビルの仕事をするには職人の数が足りない。これまでの徒弟制では人の養成に限りがあると、日本で初めて左官の職業訓練校(現在のイスルギ付属技能専門校)を設立しました」
他の左官屋さんは職人さんを外注するところ、イスルギは訓練校の卒業生をそのまま職人として雇うため、高度経済成長期は人を集める苦労がなかったそうです。
ところが、バブル崩壊後は職人を抱えていることがネックに。
また、経済成長を優先させるため、安値で手軽な新建材が現れ、昔からの左官技術が衰退していくことにも危機感を持ったと言います。
「景気の波によって左右されない、左官の技術と職人を生かす方法はないかと模索して、左官の仕上げ方法を作品として見せる“左官アート額”をまず作りました」
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珪藻土バスマットが大ヒット
左官技術の素晴らしさと、「土壁」や「漆喰」の風合いや良さを改めて認識してもらおうという取り組みが石川県デザインセンターの目に止まり、同センターが企画する新規プロジェクトに参加することに。
「県内のデザイナーとものづくり企業をマッチングして新商品を開発するというもの。僕はものづくりをやりたかったので、喜んで参加しました」
数人のデザイナーが商品を提案する中、ひとりのデザイナーが珪藻土に注目。
「他社製品の珪藻土コースターが『水を吸う』というので、どんなふうに吸うのかと。試作したところ好評価となって、そこから1年間かけてブラッシュアップしていきました」
珪藻土のコースターとソープディッシュの開発をきっかけに、珪藻土商品専門の「soil」事業部を設立。
業界に先駆けて珪藻土バスマットを開発し、大ヒット。「soil」の名が知られるようになりました。
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職人は「素人には作れん」と言った。高度な左官技術を女性たちに伝えるには?
soilでは、珪藻土の特性や左官の技術を生かすため、商品のほとんどを手作りしていますが、作っているのは左官職人ではありません。
現場で見かけるのはほとんどが女性スタッフ。
従来の左官のイメージを覆すものづくり現場は、どのように生まれたのでしょうか?
「当初は職人の空いた時間に作るつもりでしたが、その頃から本業が忙しくなって、退職した職人3、4人でやっていました」
次第に職人さんだけでは数をこなせなくなり、人手を増やすためにパートスタッフの募集をすることに。家事や育児の間に短時間で働きたい人など、女性の応募者が多く集まりました。
ところが、職人さんに相談したところ「素人には作れん」と言われたそう。
「泥状の珪藻土を型に流し、左官のコテでならしていくんですが、素人にはそのコテ使いが難しいと」
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「たしかに壁に塗るのは難しいんです。でも、型に入れて作るのは訓練すればできるはずだと思って、思い切って募集しました。やってみたら、だんだんできるようになって。それ以降は彼女たちに任せるようになりました。今では現場で働くほとんどのスタッフが女性です」
彼女たちが働く現場を見に行きました。
チョコレートみたいで美味しそう
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伺うと、ちょうど女性たちが左官のコテを使って作業していました。
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左官屋さんというよりも、お菓子を作っているようにも見えて、なんだか楽しそうです。
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仕事は、最初から最後まで一人で全部作る完結型。
出来高制なので、タイムカードもなく、家族や自分の時間に合わせて仕事ができるのもメリットです。
この日もお昼時でしたが、作業途中の人、お昼休憩をしている人、出勤してくる人など様々でした。
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材料となるのは、珪藻土を焼成した粉。色は4種類(ピンクと白は珪藻土の自然の色)あります。
珪藻土を採取する場所によって色が違うそうで、どれも自然な色合いそのまま。ピンク色のこちらは石川県産のものです。
この珪藻土の粉に、水を加えて練っていきます。
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季節によって粘り気が変わるため、慣れるまでは水分量の調節が難しいそうです。
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こちらは、グラスなどの水切りをする「DRYING BOARD」の型。
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練った珪藻土を型に流し込んでいます。
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あぁ、なんだかチョコレートみたいで美味しそう。
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固まったところで型から外し、乾燥させます。
乾燥には2週間ほどかかるそうです。
最後に使った型を洗って乾かすところまでが一連の作業になっています。
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完成すると検品。気泡があるものや欠けているものは弾かれます。
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熟練するほど仕事も早く検品も少なくなるので、数をこなすことができお給料にも反映されます。
「最盛期は稼ぐ人で月30万くらい。内職的な仕事としては、ちょっと考えられないですよね」
なぜ珪藻土は水や湿気を吸うのか?左官だからこそ気づけた強み
珪藻土は目に見えない微細な穴がたくさんあり、その穴で水や湿気を吸い取ります。
その特性を損なわないよう焼き固め加工をしないので、機械ではどうしても作れないと言います。
「季節によって水分量も変わってくるし、乾き方も違う。水で練るときも、機械だと気泡ができて空気抜きができません」
そもそも、珪藻土が建築材として使われるようになったのは、シックハウス症候群が注目されたことがきっかけだそうです。
「それまで日本家屋に使われていた土壁(漆喰など)では起こらなかった。つまり、壁が呼吸をしないのがいけないのだということで、調湿ができる珪藻土が使われるようになりました。
左官屋で珪藻土が使われていなければ、soilはできていなかったかもしれませんね」
製作には左官の技術も生かされています。
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DRYING BLOCKの型。現在はシリコン製ですが、江戸時代の寒天やコンニャクを使った「型起こし」技法が応用されています。
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左官の「洗い出し仕上げ」技法を使った、ソープディッシュ。小石を入れることで石鹸がくっつくのを防ぎます。
soilの立ち上げから10年。
左官の技術と女性の手仕事により、使い心地のよい珪藻土商品は生み出されていました。
次はどんなアイデア商品が生み出されるのか、楽しみです。
<取材協力>
soil株式会社
文・写真: 坂田未希子
こちらは、2018年5月31日の記事を再編集して掲載しました。ジメッとした季節にも重宝する珪藻土、オススメです。