中川政七商店のもうひとつの顔。「工芸メーカーの再生支援」をする理由

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中川政七商店には、いくつかの「顔」があります。

一番の柱は、工芸をベースにした生活雑貨メーカーとしての顔。もうひとつ、最近知っていただく機会が増えたのが、「工芸の再生支援をしている会社」の顔です。

「いちメーカーが、なぜ他メーカーの再生支援を?」

その理由は、日本の工芸メーカーをとりまく、決して明るくない状況にあります。今回は中川政七商店の「もうひとつの顔」、再生支援のお話です。

「もう、会社を畳みます。」きっかけはそんな挨拶でした

「もう会社を畳みます」

そんな廃業の挨拶が、年に何件もあったと13代中川政七は振り返ります。工芸は分業制。例えば焼きものをつくるのにも、粘土屋、絵の具屋、型屋、生地屋、窯元…などさまざまな人々の手で支えられています。全国800のつくり手とともに商品開発をする中川政七商店にとって、彼らの廃業は死活問題です。

「このままでは、うちのものづくりもできなくなる」

そんな危機感から2009年、工芸の再生支援をはじめました。

中川政七商店もかつて経営危機に直面し、ブランディングによって再生した経験があります。そのノウハウを生かせば、同じような会社を救えるかもしれない。日本の工芸をこれ以上衰退させたくない。そうした想いが使命感となって、「日本の工芸を元気にする!」というビジョンのもと、工芸の再生支援プロジェクトが動き出しました。

旗印は、「日本の工芸を元気にする!」

この時、再生支援に一番に手をあげたのが、後にオリジナルブランド「HASAMI」が大ヒットする、長崎県波佐見町の焼きものメーカー、マルヒロでした。

長崎県波佐見町は、長く有田の下請け産地としてものづくりをしてきた町です。しかし生産地表記の厳密化の波を受けて「波佐見焼」と名乗りはじめると、売り上げが激減。マルヒロも、借金が売上の1.5倍という倒産寸前の状況でした。

再生支援に取り組む期間は約2年。その間に何度も現地に足を運び、決算書の見方から商品設計、年間の製造計画まで自社のノウハウを共有し、一緒にブランドづくりと商品開発を行っていきます。最後には中川政七商店が主催する合同展示会「大日本市」への出展など、流通もサポートします。

2009年、マルヒロとの様子

マルヒロのケースでも、商品開発だけでなく、売上データの管理から梱包の仕方、展示会での商品説明のコツまで、ひとつひとつどうあるべきか、に向き合っていきました。

産地をけん引する一番星に

こうして2010年、マルヒロからオリジナルブランド「HASAMI」がデビュー。ブランド名は「波佐見」という産地を背負う覚悟と、焼きものに釉薬(ゆうやく)をかけるための道具「釉薬バサミ」を掛け合わせたネーミングです。

メインアイテムであるマグカップは、その無骨で愛らしい見た目と、スタッキングできる機能性が受け、大手セレクトショップでの取り扱いや、雑誌への掲載と、一躍「HASAMI」の名が全国に知られるようになっていきます。その後もカルチャー色の強い陶磁器ブランドとして成長し、今では全国の小売店約700店で取り扱われるという、全国の窯元が憧れる存在に。

マルヒロのファクトリーショップ

この「HASAMI」のヒットを契機に、マルヒロは経営を少しずつ立て直し、 2015年にはファクトリーショップをリニューアル。2016年には周辺4町を巻き込んだイベント「ぐるぐる肥前」を成功させるなど、近年の波佐見焼大躍進の立役者となりました。波佐見の町にも、カフェや雑貨店が増え、泊まりがけで訪れる旅行者も多く見られるようになるなど、嬉しい変化が生まれています。

大切なノウハウを他社に共有する理由

時おり、「なぜ、自分たちの大切なノウハウを他メーカーに共有するのか?」と聞かれますが、この取り組みを通して日本各地の工芸がより輝けば、使い手にとっても、魅力的な暮らしの道具が増えることになります。工芸の使い手が増えれば、つくり手も潤います。そうして全国のつくり手が元気になれば、私たちも、ものづくりを続けていくことができるのです。

展示会「大日本市」の様子。つくり手がバイヤーに直接商品の魅力をプレゼンする

現在、工芸の再生支援は新潟三条の包丁、兵庫県豊岡のかばん、大阪和泉のカーペットなど、50を数えるまでになりました。「大日本市」ではデビューを果たしたブランドのつくり手が集い、生き生きとバイヤーさんに自分たちのものづくりの魅力を語っています。

中川政七商店の店頭やオンラインショップにも、こうして生まれた全国のアイテムが自社アイテムと共に並び、日本の工芸の魅力を発信しています。

全国には300の工芸産地があると言われます。その全ての火を絶やさず、生き生きと輝く未来を目指して、私たちは歩みを止めず、「日本の工芸を元気にする!」取り組みを続けていきます。

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