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大館曲げわっぱとは
江戸から受け継ぐ技法と魅力
秋田県大館市で作られる「大館曲げわっぱ」。整った美しい木目とほんのり感じる木の香りが魅力です。大館曲げわっぱに使われる秋田杉は、吸湿性に優れ、お弁当やおひつの他、蒸し器・酒器・食器などに適しています。
江戸時代、秋田藩主の佐竹義宣 (さたけ・よしのぶ) が領内の豊かな秋田杉に目をつけて、 藩の財政を良くするため、武士に内職として曲げわっぱ作りを勧めたといわれています。
今もなお、その当時から変わらぬ技法で全て職人の手仕事により手間暇をかけて丁寧に作られています。そんな大館曲げわっぱの魅力と歴史に迫りましょう。
<目次>
・大館曲げわっぱとは
・ここに注目。機能性と美しさは秋田杉無くして語れない
・大館曲げわっぱといえば、このアイテム「お弁当箱」「おひつ」
・大館曲げわっぱの使い方、洗い方、保管方法
・大館曲げわっぱの歴史
・大館曲げわっぱづくりを体験
・関連する工芸品
大館曲げわっぱとは
曲げわっぱの「わっぱ」とは、輪の形をした容れ物のこと。産地によっては「めっぱ」「めんぱ」とも呼ぶ。
伝統的な木工技法である「曲物 (まげもの) 」(「綰物 (わげもの)」とも) の技術を駆使して杉や檜の薄い板を曲げ、山桜の木の皮で継ぎ目を縫い留めて底や蓋をつけたものが「曲げわっぱ」だ。
その代表とも言えるのが、秋田県大館市の「大館曲げわっぱ」。素材には年輪の幅がほぼ同じ間隔でできている秋田杉の柾目 (まさめ) (※)を使う。
※柾目 (まさめ)
年輪に対して直角に切ったときにまっすぐ並ぶ木目のこと。
まず秋田杉の樹皮を剥ぎ、柾目の板を切り出す「大割り」という工程を行う。柾目部分を薄く剥いだ後、熱湯につけて柔らかくする。これを「ゴロ」と呼ばれる型に合わせて曲げて乾燥させたら、山桜の木の皮で継ぎ目を縫い留める 「樺綴じ(かばとじ)」を行い、それから底面を隙間がないようにはめ込み、ヤスリをかけると大館曲げわっぱが完成する。
ここに注目。機能性と美しさは秋田杉無くして語れない
大館曲げわっぱは、秋田杉があってこそ生まれた工芸品だ。もともと弾力性に富む秋田杉。曲物には最適の素材だった。
さらに製品にした時に活きてくるのが、軽さ、木目の美しい白い木地、良い香り。
中でも木地の美しさは、塗料を何も塗らずに仕上げる「白木 (しらき)」と呼ばれる伝統的な技法によるもの。
これにより、秋田杉本来の木地の白さや木目の美しさが際立つのだ。
大館曲げわっぱといえば、このアイテム「お弁当箱」「おひつ」
秋田杉には軽さや白さ、香りに加えて、優れた吸湿性が備わっている。それを生かして作られるのが、大館曲げわっぱを代表する製品の「お弁当箱」や「おひつ」だ。
秋田杉が余分な水分を吸収してくれるので、蓋の裏に水滴がついてベタつくこともない。
<関連の記事>
木曽漆器とは。庶民に愛された漆器の歴史と現在
https://story.nakagawa-masashichi.jp/craft_post/118154
曲げわっぱのことを他の地域では「めんぱ」とも言い、「木曽漆器」でも、名前をそのまま「めんぱ」と呼ばれるお弁当箱が定番だ。
大館曲げわっぱの使い方、洗い方、保管方法
◯使い方
使い始める前にぬるま湯に数回通し、風通しのよい場所で乾かすと匂いや汚れの浸透を防ぐことができる。食事の際は、製品を傷つけてしまうので金属のスプーンやフォークなどの使用を避けること。 直火や電子レンジ、オーブンの使用は不可。
◯洗い方
お湯でよく手洗いをしてから乾燥させる。カビや色移りを防ぐため、しっかり乾燥させること。食器用洗剤や漂白剤、たわしは痛める原因になるため使用しないこと。また、食器洗い洗浄機・乾燥機の使用は不可。
◯保管方法
十分に乾かした後、直射日光を避けて保管すること。直射日光に当たると、変形や変色の恐れがある。
大館曲げわっぱの歴史
◯秋田杉の曲げものづくりは約1300年ほど前から
秋田県は冬の寒さの厳しい地域だが、きれいな水や大地など豊かな自然 (県の面積の約7割が森林で占められている)に恵まれている。そんな秋田県で大館曲げわっぱが誕生したのは、1300年ほど前、きこりが杉の木の柾目を使って曲げ物を作ったことが始まりといわれている。
秋田県大館市にある「大館郷土博物館」には10世紀初頭 (平安時代の頃) に制作されたと推定される曲げわっぱが所蔵されている。その形は、現在とほぼ同じである。
◯17世紀後半頃、大館城主が奨励し産業として確立
17世紀後半頃になると、曲げわっぱは産業として確立。秋田藩・佐竹家の西家が領内の豊富な秋田杉に着目し、下級武士に副業として奨励したことにより発展していく。農民には年貢米や供出代替として山から城下まで原木を運ばせ、作られた製品は山形県や新潟県、関東等へ運ばれた。
◯秋田を代表する特産品へと成長
江戸時代末期から近代にかけて、大館曲げわっぱの技法は職人たちによって受け継がれてきた。近代のプラスチック製品の普及により、大館曲げわっぱの生産が一時衰退した時期もあったが、1980年には国の伝統的工芸品に指定され、秋田を代表する特産品へと成長した。曲げわっぱの伝統的工芸品指定は、2020年時点で大館曲げわっぱのみである。
木目の美しさやシンプルな自然素材などが現代人の感覚にも合い、現代の暮らしに寄り添った製品が作られている。
大館曲げわっぱづくりを体験
大館市が行なっていた、大館曲げわっぱ作りを体験できる「曲げわっぱ体験工房」が、2019年3月31日に閉館。現時点で製作体験ができる以下の3社を紹介する。
・株式会社 大館工芸社 ハンディクラフトスタジオ
丸太の買付から製作まで一貫して行なっている、26名の職人 (内、伝統工芸士5名) が在籍している会社。大館曲げわっぱの製作体験ができる他、製造工場やショールームで曲げわっぱ作りの見学と購入が可能。
大館市釈迦内字家後29-15
0186-48-7700
http://www.magewappa.co.jp
・有限会社 柴田慶信商店わっぱビルヂング
常設しているワークショップスペースで、大館曲げわっぱの製作体験ができる。木槌 (きづち) 、鋸 (のこぎり) 、鉋 (かんな) といった職人の道具を使い、「曲げ」や「樺綴じ (かばとじ)」などの技法を体験できるメニューがある。ワークショップの参加には、事前予約が必要である。
大館市御成町1丁目12-27 わっぱビルヂング1F
0186-59-7123
https://magewappa.com/pages/workshop
・株式会社りょうび庵 製作体験教室
「こばん型弁当箱」の製作体験が可能。伝統工芸士により丁寧に指導してもらえるため、初心者も安心して利用できる。
大館市東字岩ノ下8-1
0186-59-7771
https://www.ryobian.jp/trialclass/
関連する工芸品
木工品:「日本の木工とは。木からうつわや家が生まれる、歴史と技術」
https://story.nakagawa-masashichi.jp/craft_post_category/woodwork
大館曲げわっぱのおさらい
◯素材
素材は秋田杉 (自然の中で育った「天然秋田杉」と人工的に植林された「秋田杉」がある) を使用する。木目にやわらかさがあり、年輪の幅がほぼ同じ間隔でできている。軽さや白さ、優れた吸湿性が特徴。
◯主な産地
秋田県大館市
◯代表的な技法
・大割り
秋田杉から柾目の板を切り出す技法。・樺綴じ (かばとじ)
山桜の木の皮で継ぎ目を縫いつなぐ技法。器を丈夫にする他、華やかなアクセントになる。・白木
塗料を塗らずに木のまま仕上げる技法。秋田杉本来の白さが生かされる。・シバキ塗り
下地に柿漆 (未熟な渋柿の果汁を発酵・熟成させた塗料) を塗り、その上に漆を塗って仕上げたもの。最初は黒っぽい色だが、使い込むほどに飴色に変化し木目が透けて味が出る。◯数字で見る大館曲げわっぱ
・誕生:1300年ほど前
・伝統的工芸品指定 1件 (大館曲げわっぱ)
<参考>
・財団法人 伝統的工芸品産業振興協会 (監修) 『ポプラディア情報館 伝統工芸』ポプラ社 (2006年)
・瀬戸山玄 (著) 『伝統工芸の名人に会いに行く③ 曲げわっぱ』岩崎書店 (2020年)
・ 萩原健太朗 (監修)『民藝の教科書③ 木と漆』グラフィック社 (2012年)
・大館郷土博物館
https://www.city.odate.lg.jp/museum
・大館市役所
https://www.city.odate.lg.jp/city/kankou/bussan/magewappa
・大館曲げわっぱ協同組合
http://odate-magewappa.com/
・株式会社 大館工芸社
http://www.magewappa.co.jp
・有限会社 柴田慶信商店わっぱビルヂング
https://wappa-building.com/
・一般社団法人 伝統工芸品振興協会
https://kyokai.kougeihin.jp
・東北経済産業局
https://www.tohoku.meti.go.jp/s_cyusyo/densan-ver3/html/item/akita_03.htm
・株式会社 りょうび庵
https://www.ryobian.jp/trialclass/
(以上サイトアクセス日:2020年7月14日)
<協力・画像提供>
大館曲げわっぱ協同組合
http://odate-magewappa.com/
・株式会社 りょうび庵
https://www.ryobian.jp/trialclass/
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