日本全国

日本の木工とは。木からうつわや家が生まれる、歴史と技術

木工とは

木材を用いてつくられる、木工品。国土の7割が森林という日本で、木は古くから住宅をはじめ日用品や家具など、身の回りの様々なものの材料となってきました。

木工の工芸品

木材を用いてつくられる、木工品。国土の7割が森林という日本で、木は古くから住宅をはじめ日用品や家具など、身の回りの様々なものの材料となってきました。

1本の木を切り、くりぬき、彫り出し、組み合わせ、曲げる、締める。日本の暮らしを支えてきた木工の来た道と今の姿を追いました。

この記事では、はじめに生活道具・建築・文化芸術の3つの視点から日本の木工の姿を捉え、それらを支えてきた技法と産地を覗き、最後に木工の歴史を総覧します。

生活の中の木工。食器・文具・家具など、人々の暮らしに寄り添い、変化を続ける

木は暮らしとともにあり、椀や箸、盆や杓子といった食器や調理道具から、箪笥や机、棚などの家具、櫛や下駄、文具や玩具など、身の回りの様々なものがつくられた。食器は指物、挽物や刳物、曲物、家具は指物が多い。 (指物とは?など技法の詳細については後ほど紹介する)

明治時代になって人々の生活に西洋文化が取り入れられると、テーブルや椅子などの洋家具づくりが本格化。昭和の高度経済成長やライフスタイルの洋風化に伴い、各地で木製家具産業が発展した。

珈琲まるも

福岡県の大川家具や岐阜県の飛騨家具、静岡家具、北海道の旭川家具、広島県の府中家具、徳島家具が現在の代表的な家具産地とされる。

長野県の松本民芸家具や岩手県の岩谷堂箪笥、大阪唐木指物など伝統的工芸品に指定されている家具産地も多い。

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建築と木工。洗練された美しさと機能性を併せ持つ

日本の建築物は、住宅も寺社仏閣もほとんどが木造建築。木は柱や梁や垂木などの建築構造材として使われるのはもちろん、天井や壁、床などの内装材、障子や襖などの建具材としても幅広く用いられている。

法隆寺金堂の扉が、最も古い木製の建具とされる。建具は室町時代に始まった書院造とともに発展し、貴族社会のなかで装飾性が求められると彫刻や組子細工が施されるようになった。

富山県井波の欄間彫刻や大阪欄間、栃木県の鹿沼組子が伝統的工芸品として、現在に引き継がれている。

鹿沼組子

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文化芸術と木工。時代時代の木工技術を結集、後世に残る作品も

日本に仏教が伝わった飛鳥時代の仏像彫刻に始まり、宗教的、芸術的なものにも木材は利用された。木工職人の中で、仏像彫刻を専門とした場合は「仏師」として最高の尊称が与えられた。

現存する日本最古の工芸品の一つ「玉虫厨子」は、仏像・舎利・経巻などを安置する仏具の一種である。これらの神事や仏事に関わる木工品には、白色の木材が好まれた。

江戸時代末期、庶民の間に床の間が普及すると達磨や布袋といった人物や動物の置物を鑑賞する習慣ができ、置物彫刻がうまれた。岐阜県の一位一刀彫り、富山県井波彫刻の天神像と獅子像が有名。

明治初期には、油絵とともに洋風彫刻が導入されて彫刻が芸術として捉えられるようになった。代表的な彫刻家に高村光雲・光太郎親子がいる。

他にも能楽や狂言で用いる般若や翁などの能面、太鼓などの楽器類、こけしや独楽(こま)などの玩具類。奈良県の一刀彫りの彩色人形や香川県の讃岐一刀彫の人形は土産品として愛され続けている。

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木工の技法と産地

日本は国土の7割が森林であり、杉やヒノキに代表される針葉樹や、ケヤキや栗や栃などの広葉樹を併せて、建築や木工などの加工の対象となる樹木は200種類に及ぶと言われる。木を加工する技術は道具とともに発展し、指物 (さしもの) 類・彫物類・刳物 (くりもの) 類・挽物 (ひきもの) 類・曲物類・箍物 (たがもの) 類といった木工技法が生まれた。

斧(おの)、鉈(なた)、鉋(かんな)、鋸(のこぎり)、鑿(のみ)、鑢(やすり)などの道具を巧みに使う日本の木工技術は、人々の生活だけでなく、寺や神社などの文化的な遺産も支えている。長い歴史とともに培われてきた精巧な技術は、世界的にも高い評価を受けている。

木工産地は全国にあり、伝統的工芸品だけでも80品目を超える。その土地の木材を生かし、食器や調理器具、家具などの生活道具から建造物、芸術的・文化的なものまで様々な木工品がつくられてきた。

ここからは、主な技法である指物・彫物・刳物・挽物・曲物・箍物がそれぞれどんな技法か、その代表的な工芸品と合わせて紹介し、最後に日本の木工の歴史を総覧する。

指物とは。板を組み合わせてつくる、1000の組手

指物とは、木の板に臍 (ほぞ) と呼ばれる凹凸をつくり、組み合わせてつくること。約1000種類以上の組手があると言われる。釘を使わず、無駄のない美しさが特徴で、箪笥や棚、箱や本棚、火鉢などがつくられる。

伝統的な貴族の調度品や茶道具づくりから発展した京指物と、江戸の武家や町民文化の下で培われた江戸指物が知られる。

彫物とは。縄文から続く、形の美

木彫り熊

彫物は、木に文字や模様を刻んだり、彫ることで物の姿を現すこと。欄間などの建具や看板、家具の装飾、仏像や仏具に用いられることが多い。丸彫り、浮彫り、沈め彫り、透かし彫りなどの技法がある。

石川県真脇遺跡のクリの立柱、青森県是川遺跡のケヤキ材高杯の透し彫りなどから、縄文時代には精緻な木彫りが可能だったことがわかっている。飛鳥時代の仏像彫刻から本格化するが、庶民の間に広まるのは江戸時代からである。

仏師

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刳物 (くりもの) とは。木のかたまりから形をくりぬく、木工の原始

模様のように、すくい部分が彫られていきます

刳物は、木を鑿(のみ)や小刀などでえぐって鉢などをつくること。最も古い木工技術の一つで、自由な形態につくることが可能で、彫刻の原型とも言える。木の塊を削って食料などを入れる容器をつくったことが始まりとされる。

山形県切畑の臼、奈良県の大塔坪杓子(おおとうしゃくし)や広島県のしゃもじなど、現在も食器や調理器具がつくられている。

挽物とは。お椀や家具の脚など「丸物」に欠かせない加工方法

山中漆器「加飾挽き」

挽物は、轆轤(ろくろ)や旋盤(せんばん)に木材を取り付けて回転させ、刃物で削って椀や鉢、盆など円形の器や、家具の脚などの丸棒や筒をつくること。

弥生時代には成立していた技法と言われ、奈良時代につくられた「百万塔」と呼ばれる木製三重小塔が有名。現在、挽物の食器は漆を施して漆器として使われることが多い。

多くの漆器産地は17世紀頃に形成されたとされるが、京都の京漆器、福井県の越前漆器、石川県の輪島塗は平安時代以前に起源を持つ。

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曲物とは。代表選手は「曲げわっぱ」

曲物は、薄い板を曲げて筒状にしてつくること。主にヒノキを用いるため、檜物(ひもの)と呼ぶこともある。小刀などによる切り曲げ、薄い鋸(のこぎり)による挽き曲げ、湯に浸す湯曲げ、蒸気を吹きかける蒸し曲げる技法があり、現在は湯曲げ・蒸し曲げが一般的。桶や樽、御櫃や弁当箱といった様々な生活道具がある。秋田県の「大館曲げわっぱ」は曲物で唯一伝統的工芸品の指定を受けている。

箍物 (たがもの) とは。日本の醸造に欠かせない「締める」技術

箍物 (たがもの) は、板を円形に並べて箍で締めたもの。曲物にも桶はあるが、箍締めされた桶は結桶として区別された。

曲物よりも側板に厚みを持たせることが可能となったことで強度が増し、酒や味噌の仕込み、醤油や油などの輸送や貯蔵に役立ったことで、製造・流通が飛躍的に増加。桶や樽に適した秋田杉に恵まれている秋田県大館市で盛んにつくられているが、酒や醤油の醸造地に桶樽用材を送り、その地元の職人が組み立てることも少なくない。

上記以外にも、秋田県仙北市に伝わる山桜の樹皮を木地に貼り付ける樺細工や、神奈川県小田原、箱根地方の色や質感の異なる木片を組み合わせる箱根寄木細工など、各地で土地の木材をもとに独自の木工品がつくられた。

こんな可愛らしい小物入れも。それぞれに模様の出方が異なります

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木工の歴史を追う

縄文・弥生時代 約9000年前から木工品に漆は使われていた

木材は縄文時代より前から使われていたと考えられるが、現在縄文遺跡の福井県三方郡の鳥浜貝塚が最も古く、木製のしゃもじや鉢、櫛や木槌などの木工品が多数出土している。整った造形や装飾性の高さ、漆が塗られていたことが特徴。弥生時代になり稲作が始まると、生活用具や鍬(くわ)や鋤(すき)、田下駄などの農耕用具の他、住居や倉庫の建築材としても利用された。

古墳・飛鳥時代 仏教の伝来とともに、木工や建築技術が発展

古墳時代、石棺とともに指物技法による木棺はみられるが古墳からの出土品は鉄器が多く、木工品はほとんど見られない。この時代、猪名部一族という木工技術集団が誕生。造船から宮殿建築まで大型木造建築を幅広く手掛け、後に飛騨の匠らを率いて、奈良の東大寺大仏殿を建立したと言われている。飛鳥時代、仏教伝来とともに仏工や仏寺工が渡来したことで、木工・建築技術が飛躍的に向上。仏教に関わる仏器や仏具などの工芸品が製作される。

奈良・平安時代 国家や貴族の下、精鋭の技術者集団が活躍

奈良時代につくられた宮廷内の建築土木や木器製作を担う木工寮や、平安時代の建築や土木工事、器物制作を行う作物所(つくもどころ)に全国から木工技術者が集まり、伝統的な木工技術が確立。正倉院などに残る木工品の多くは、これらの場所でつくられたものとされている。遣唐使が派遣されると貴族間に唐文化の影響が広がり、床には煉瓦を敷き、立礼に応じた椅子や寝台などの家具が使用された。

鎌倉・安土桃山時代 木工職人が誕生

庶民の生活用具は自給自足が主だったが、時代が進むにつれ物資の流通・販売が活発化。轆轤(ろくろ)を用いて椀や盆などをつくる木地師(きじし)や漆工といった職人が活躍するようになる。また、室町時代から安土桃山時代にかけて立体仏像の需要が減少。仏師たちは建築や欄間製作に活躍の場を移した。

江戸時代 平和な時代。今も息づく伝統工芸が登場

江戸時代になり、社会が安定すると大工や左官、建具師などの専門集団が城下町に集められ、賑わいを見せた。生活が豊かになり持ち物が増えたことで、箪笥が普及。地方では藩の殖産奨励・保護育成により、各地に特色ある木工業が興った。宮城県の仙台箪笥や山形県の桐箪笥、神奈川県の鎌倉彫、広島県の宮島細工など現在の伝統的工芸品は、この時期に生まれたものが多い。

<関連の読みもの>
鎌倉彫、800年の伝統を100年後にも残すため、若き職人は世界に挑む
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明治・大正時代 生活の洋風化は、建築・木工品にも影響

開国とともに洋風の生活様式が流入。洋風建築、洋家具をはじめ、楽器や運動具、時計枠など木工品の種類が増え、椅子やテーブルが官公庁、学校などで採用されるようになった。同時に明治政府によって伝統工芸による産業復興が進められ、内国勧業博覧会や共進会では漆器や家具などの木工品も出品された。

現在の木工品

現在、木工産地は、輸入品との競合や消費者ニーズの多様化、後継者不足など多くの課題を抱えている。しかし、非常識とされた節のある家具を成功させた飛騨産業や箱根寄木細工によるトロフィー、指物技法を使ったオルゴールなど、各地で伝統の技術や経験を生かした新しい取り組みが進められている。

また、杜のスタジアム「国立競技場」に木材が使用されたり、「木とふれあい、木に学び、木と生きる」木育の取り組みが全国各地に広がったりと、木の持つぬくもりや優しさが改めて見直されている。

憧れの家具メーカーとしても人気の高い飛騨産業の家具 「曲木」の技術を駆使した飛騨産業の椅子
 
 
ヒダノオト 全体 岐阜県高山市の木材クラフトブランドnoctare(ノクターレ)が手掛けた、木製ヘッドフォン「ヒダノオト」
 
 
江戸指物の技術を使った楽器オルゴール 指物技術を生かした楽器オルゴール
 
 
2020年に社団法人日本インダストリアルデザイナー協会の「JIDAデザインミュージアムセレクション」として選定・受賞された山のくじら舎「OYAKOSAJI」
 

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12月6日、音の日。指物職人が生んだ「楽器オルゴール」
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47都道府県から1名ずつ職人募集。木桶・木樽の存続をかけた挑戦
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高知「山のくじら舎」誕生秘話。皇室愛用品のきっかけは「ママ友の相談」だった
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<掲載商品>
OYAKOSAJI (山のくじら舎)

もっと木工について知りたい人へ

<参考文献>
・木内 武男 編『木工の鑑賞基礎知識』至文堂(1996年)
・木内 武男・黒田 乾吉・村松 貞次郎 著『木工 日本の工芸4』淡交社(1978年)
・小林 真理 編著『漆芸の見かた: 日本伝統の名品がひと目でわかる』誠文堂新光社 (2017年)
・伝統工芸のきほん編集室 著『伝統工芸のきほん3 木工と金工』理論社(2018年)
・成田 寿一郎 著『日本木工技術史の研究』法政大学出版局(1990年)
・成田 寿一郎 著『木の匠─木工の技術史』鹿島出版会(1984年)
・メヒティル・メルツ 著『日本の木と伝統木工芸』海青社(2016年)
・柳 宗理・渋 谷貞・内堀 繁生 編『木竹工芸の事典(新装版)』朝倉書店(2005年)

<協力>
京都市立芸術大学 工芸科准教授 大矢一成氏
山のくじら舎
https://yamanokujira.jp/

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