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石工とは。日本の「石」にまつわる工芸品、その歴史と現在の姿
石工とは
石工って何?という方も、石垣、瓦、硯、暮石‥‥見渡してみると、身の回りに石でできたものは意外とたくさんあります。日本の三種の神器のひとつ、勾玉だって石で出来ています。 普段使っている焼きものの器も、原材料は岩石。今日は、知っておきたい日本の「石」にまつわるものづくり、その代表的な工芸品と歴史のお話です。
石工の工芸品
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貝ボタン
海のめぐみ「貝殻」を原料としてつくられる
そもそも、石工品とは?
石工品とは、自然石を建造物や生活用品に加工したもの。石は頑丈で長持ちすることや美しい見た目により、古くから様々な形で活用されてきた。ヨーロッパや中国などの建造物と比べると日本は木造建築が主流だが、石垣や庭石、墓石、生活道具など石を使ったものは少なくない。
また、磁器の原料は陶石という軟質の岩石であり、陶器の原料となる粘土も、元は岩石からできている。このように素材としても私たちの生活文化に寄与するところは大きい。
また石は宗教との関わりも深く、自然石そのままを崇拝したことにはじまり、石仏や石塔のような宗教的シンボルもつくられた。ここでは、自然石のまま利用する庭石や砂利は含まず、加工されたものについて説明する。
特徴と素材、産地について
日本は北海道から沖縄まで、あらゆるところで様々な種類の石が産出される。その多くは花崗岩だが、銘柄でみると200種類以上におよぶ。
「国会議事堂」は全ての建材が国産で賄われており、全国から集められた37種類の国産石材を見ることができる。なかには今では採ることのできない貴重なものも多い。
重量のある石は遠方への運搬が難しかったことから、各地で採石が行われ、その産地周辺で採れた石それぞれの特徴を活かした石工芸が発展。中でも日本三大石材産地と称される、香川県の庵治、愛知県の岡崎、茨城県の真壁では優れた石が豊富に採れ、古くから墓石や石灯籠、美術工芸品など幅広い石工品がつくられてきた。
以下、代表的な石工品の例として、暮石、石灯籠、瓦、石垣、勾玉、硯の概要を紹介する。
代表的な石工の工芸品
「墓石」古墳から現在の姿まで
日本人の先祖供養の精神、浄土観を形にしたもので、権力の象徴だった巨大な古墳が層塔、五輪塔、笠塔婆 (かさとうば) と形を変えて、現在のような和型墓石になった。
関東以北では黒みかげ、関西では白みかげが使われることが多いが、現在その多くが輸入品。その中で香川県高松市で産出される庵治石 (あじいし) は、風化に強い石質、きめ細かい地肌、「斑(ふ)」と呼ばれる青みがかった独特のまだら模様が特徴で、磨くほどに輝く美しさから最高級の墓石材として国内外で高く評価されている。
<関連の読みもの>
墓石から現代アートまで。瀬戸内にしかない石の町をめぐる。
https://sunchi.jp/sunchilist/takamatsu/15872
庵治石(あじいし)
https://sunchi.jp/sunchilist/takamatsu/15537
「石灯籠(いしどうろう)」時代ごとに形を変えるデザイン性の高い石工品
石灯籠は、石工品のなかでも高い技術力が必要とされる石工品。仏前に灯火を献上するためにつくられるようになり、次第に参詣者の足元を照らすための常夜灯としての役割も担うようになった。
奈良県の當麻寺(たいまでら)の石灯籠が日本最古のものと言われ、奈良・平安時代は八角型だったが、鎌倉時代に六角型、四角型へと簡素化が進み、江戸時代には四角型が最も多くつくられた。
中でも安土桃山時代では、茶道の流行によって庭園にも取り入れられるようになると、独創的なデザインがうまれた。主な産地に、茨城県の真壁石燈籠、愛知県の岡崎石工品、京都府の京石工芸品、鳥取県・島根県の出雲石燈ろうがある。
「瓦」全国シェア70%は愛知県の「三州瓦」
大陸から仏教とともに伝わり、奈良県の飛鳥寺に使われたのが始まりと言われている。
国分寺・国分尼寺の建立に伴い、瓦の技術は全国に普及。しかし当時の民家は、瓦の重さに耐えられなかったため、ほとんどが仏閣や城郭で用いられていた。
江戸時代に三井寺の瓦職人が平瓦と丸瓦を一体化した桟瓦(さんがわら)を発明し、軽量化に成功したことで一般家屋でも使われるようになる。その後、瓦づくりは原料の粘土が豊富で、交通の便が良い地域で発展。全国シェア70%を占める「三州瓦」の愛知県に続き、「石州瓦」の島根県、「淡路瓦」の兵庫県が粘土瓦の三大産地となっている。
「石垣」伝説の石工集団「穴太衆」が受け継ぐ技術
石垣は古くからあったが、その技術が発展したのは安土桃山時代。防御性や権力誇示などの理由から、高く石を積み上げた石垣の需要が高まった。
石積みの技法には、自然石を積み、間に栗石と呼ぶ小石を詰めて補強する「野面積(のづらづみ)」、粗く砕いて加工した石を積む「打込みハギ」などがあるが、戦国時代から安土桃山時代は野面積が主流であった。
滋賀県にはその技法を得意とする「穴太衆(あのうしゅう)」と呼ばれる伝説の石工集団が存在し、全国の城づくりに呼ばれたとされる。現在、石積みの需要は減少したが穴太衆の高い技術力は、滋賀県大津市坂本地区で受け継がれている。
<関連のよみもの>
「穴太衆」伝説の石積み技を継ぐ末裔に立ちはだかる壁とは
https://sunchi.jp/sunchilist/oumi/102328
「石垣の博物館」金沢城の楽しみ方。プロに教わる謎多き庭園の魅力
https://sunchi.jp/sunchilist/kanazawa/57171
「碁石」黒石の最高級品は三重県熊野の那智黒石、白石は宮崎県日向市のハマグリ碁石
囲碁が日本に伝わったのは飛鳥時代と言われ、正倉院には日本で最も古い碁盤や碁石が収められている。碁石の原料には木や石、プラスチックも使われているが、黒石は三重県熊野の那智黒石で採石されたものが最高級品とされる。
白石はハマグリの殻から作られ、宮崎県日向(ひゅうが)市で採れたものの人気が高いが、現在のハマグリ原料はほとんどが外国産。黒石、白石を含め国産碁石が作られているのは、日向市のみとなっている。
<関連のよみもの>
世界が認める碁石の最高峰。宮崎にだけ残る「ハマグリ碁石」とは
https://sunchi.jp/sunchilist/miyazaki/83891
「匂玉(まがだま)」今も出雲で作られる三種の神器
勾玉は、日本に伝わる三種の神器の一つ。縄文時代から古墳時代にかけて、副葬品や装身具の一種として使われた。
日本各地の遺跡で、ヒスイ輝石やめのうなど、様々な材質の勾玉が発掘されている。
島根県出雲地方では、花仙山(かせんざん)から青めのうといった良質の玉材が採れたことで弥生から古墳時代にかけて盛んに作られた。現在も日本で唯一、勾玉づくりが続けられている。
<関連のよみもの>
三種の神器、勾玉をつくり続ける出雲の工房へ
https://sunchi.jp/sunchilist/izumomatsue/39774
「硯(すずり)」被災した一大産地・雄勝では復興プロジェクトも
硯は漢字の普及とともに発展し、平安時代から石の硯が使われるようになった。硯石として使われる原石により、表面にある凹凸の細かさや堅さ、色などの特徴が生まれる。
山口県の赤間石、宮城県の雄勝石(おがついし)、山梨県の雨畑石(あまばたいし)が有名だが、現在多くの硯石材は中国や韓国からの輸入品である。
かつて国産硯の9割を生産していたと言われる雄勝の硯産業は、東日本大震災の影響で厳しい状況にあるが復興プロジェクトが行われている。
「石工品」の歴史
旧石器時代・縄文時代 生活道具から暮石まで。全てはここから始まった
日本では旧石器時代から、石は銅や鉄と同様に生活用具や武器として重要なものだった。
縄文時代は石鍬(いしぐわ)、石刃(せきじん)、石斧といった生活用具のほか、ひすいが飾り石として用いられたり、環状列石のように宗教的な意味合いで石が使われた。
弥生時代には稲作とともに穂摘み道具として石包丁が用いられる。その後銅器や鉄器が入ってきたことで石器はほとんど利用されなくなるが、古墳時代になると弥生時代の墳丘墓が進化して前方後円墳をはじめとする様々な古墳が盛んにつくられ、石の需要が再び高まった。
巨大な石造物づくりの技術は、のちの時代の寺院の基礎や城の石垣づくりに引き継がれることになる。また内部の埋葬施設では棺を入れる石槨(せっかく)や石棺、石製模造品や勾玉といった副葬品が見つかっている。
飛鳥・奈良・平安時代 仏教の伝来とともに磨崖仏や庭園づくりが発展
飛鳥時代は、仏教の伝来とともに仏舎利をおさめる石塔を建てることが伝わる。唐や百済、高句麗からの渡来人により、寺院や瓦、石灯籠や庭園づくりも始まった。
また、岩山の崖や自然石に仏像を彫刻する磨崖仏(まがいぶつ)が、奈良時代の頃から近畿地方に数カ所見られ、平安時代中期には日本各地に広まった。現存する最古のものに滋賀県・近江の狛坂磨崖仏(こまさかまがいぶつ)がある。
近江地方は、百済の多くの石工が帰化したことで石工の里となり、日本の石材文化の原点となったと言われている。平安時代は社会的不安の広がりから貴族たちの間で極楽浄土を再現した庭園づくりが流行し、本格的な庭園文化が始まった。
鎌倉・室町時代 庭園石としての役割や、個人の供養にも
鎌倉時代は、庭園にある池の際に様々な石を組み合わせた「石組」が多くつくられるようになり、石立僧(いしだてそう)と呼ばれる高い作庭技術を持つ僧侶が現れた。
室町時代には禅の思想や世界観を表現した枯山水の庭園づくりが盛んになり、庭において石の重要性が高まった。
また鎌倉時代は、石塔が現在の墓と同じように、故人の供養を目的につくられるようになったことで石塔の数が急増する。宝篋印塔(ほうきょういんとう)や五輪塔、板碑などは最も多くつくられ、京都・醍醐寺の三宝院宝篋印塔(さんぽういんほうきょういんとう)や神奈川県の浄光明寺五輪塔(じょうこうみょうじごりんとう)など、重要文化財に指定されているものも多い。
安土桃山時代 空前の築城ブーム到来
安土桃山時代に鉄砲が普及すると、防御力を高めるために頑丈な石垣のある城が必要となった。最初に石垣を導入したのが織田信長の安土城で、比叡山東麓の石工集団「穴太衆(あのうしゅう)」によって築かれたと言われている。
その後、防御や権力の誇示のために築城ブームとなり、姫路城をはじめ、名古屋城や熊本城など、数十年の間に大小3,000の城がつくられる。
石垣のために膨大な石材が必要とされ、瀬戸内海や伊豆半島、神奈川県の真鶴町が石材産地として発展した。
江戸時代 大名から市民まで庭園ブーム。石のアーチ橋も登場
徳川幕府が新しく城をつくることを禁止したことで庭園づくりが流行。大名らは謀反の意思がないことを示すために庭園づくりに励み、裕福な一般市民に至るまで、身分に応じた庭園が作られた。石組をはじめ石橋や石灯籠、手水鉢(ちょうずばち)など石工品の需要が高まった。
また、檀家制度によって供養や葬儀が広がり、墓を建てることが庶民にも浸透。九州に多い石のアーチ橋は、全てこの時代につくられたもの。石工芸の技術が高まり、全国で石材産地の開発が行われた。
明治・大正・昭和時代 今に残る石造建築が登場
明治になり、欧米文化が導入されると石造建築物がつくられるようになる。これまで石が建築材として積極的に利用されなかった理由に、西洋と比べて扱いやすい大理石が採れなかったこと、原石を板状に切る石工技術がなかったことが挙げられる。
石工技術が進歩するとともに、石は建築材や土木用材としての利用が増加。明治から大正初期にかけて、日本銀行本店や東京国立博物館表慶館、赤坂離宮、旧日本郵船株式会社小樽支店など、多くの西洋式の石造建築物が建てられた。しかし関東大震災以降、地震への懸念もあり石造建築は衰退する。
現在の石工品
現在、日本では自然保護や公害、騒音防止、輸入石材との競合などの理由から国産石材を確保することが難しくなっている。
また、家族観の変化や価値観の多様化、後継者がいない問題などの理由から墓を処分する人が増えたり、住宅事情の変化から灯籠や彫刻物の需要が減ったりと、国内の石工品出荷額は減少傾向にある。
しかし、今の暮らしに合う石工品を追求するプロジェクトを立ち上げたり、アーティストなど他分野と協力したりと、それぞれの産地で石の文化や石工技術を次の世代につなぐ活動が行われている。
<参考資料>
・蟹澤聰史 著『石と人間の歴史』中央公論新社(2010年)
・島津光男 著『日本の石の文化』新人物往来社(2007年)
・鈴木淑夫 著『石材の事典』株式会社朝倉書店(2009年)
・中江勁 編『石材・石工芸大事典』鎌倉新書(1978年)
・西本昌司 著『街の中で見つかる「すごい石」』日本実業出版社(2017年)
・宮元健次 著『日本庭園 鑑賞のポイント55』メイツ出版株式会社(2010年)
・愛知県陶器瓦工業組合
http://www.kawara.gr.jp/index.cgi
・淡路瓦工業組合
http://www.a-kawara.jp/
・石州瓦工業組合
http://www.sekisyu-kawara.jp/
・茨城県石材業協同組合連合会
http://www.ibaraki-granite.com/index.html
・茨城県石材業協同組合連合
https://www.stone-planet.com/japan/ibaraki/ibaren/index.htm
・雄勝硯復興プロジェクト
http://suzuri-ogatsu.jp/
・岐阜県花崗岩販売協同組合
http://www.hirukawa-ishi.com/
・協同組合庵治石振興会
https://www.aji-ishi.org/
・日本石材センター株式会社
https://japan-stone-center.jp/index.html
・真壁石材協同組合
http://www.ibarakiken.or.jp/makabe/
<協力>
有限会社中村節朗石材
株式会社日本石材工業新聞社 山口康二氏
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