日本全国
竹工芸とは。エジソンも愛した日本の竹、ものづくりの歴史と現在。
竹工芸とは
かごやざるなど、生活のあらゆる場面で使われてきた竹工品。今回は、身近でありながら意外と知らない「竹」の歴史と現在をひもときます。
変幻自在の天然素材。食材としても
竹は、温暖湿潤な東南アジアを中心に生育する植物で、日本でもごく一部の寒暖地をのぞいた幅広い地域で育っている。さらに最近では、モウソウチクの北限地が北海道の函館周辺から稚内に達すると言われ、温暖化によって竹の生育地は広がりつつある。
種類は多く、世界に約1,200種、日本国内でも600種を超えると言われ、マダケ、モウソウチク、ハチクは日本三大有用竹である。
その特性は、種類によって多少の違いはあるものの、竹稈
(ちくかん) が空洞で軽いわりに強く、表面は滑らかで、弾力性があり、湾曲しやすく、裂いたりして加工がしやすいことが挙げられる。
また、他の植物 に比べて生長が速く、3年ほどで利用できることから生活道具の素材として重宝されてきた。さらに食材にもなった竹は、生活に欠かせない存在だった。
ここに注目 竹に備わった6つの特性
『木工工芸の事典』の分類によると、竹は6つの材質的な特性があるとされ、それぞれの特性を生かし、生活用具や農具、漁具、楽器など様々な竹工品がつくられた。
・割裂性:竹は縦方向に割りやすい性質がある。細く割ったり裂いたり、薄く削ったりして竹ひごをつくり、かごやざる、すだれ、扇子や茶筅に用いる。
・弾力性:弾力性に富み、しなりが強いことから弓や釣竿に適している。
・負担力:竹稈を直角に軸を挫折させる力に強い。屋根を支える垂木や梯子、物干し竿、串類や竹箸などに使われる。
・抗挫力、抗圧強および抗折強:強度に優れ、竹稈の抗挫力を応用したものに床柱、机の足、杖や傘がある。また、圧や折れに強いことから竹くぎや矢がつくられる。
・空洞の利用:竹稈の中が空洞であることを生かし、尺八や笙などの笛類に多用される。
日本の竹の種類
竹工品には、日本三大有用竹のなかでもマダケとハチクが主に使われている。マダケは、直径13cm、高さ20mにもなる大型種で、青森県より以北ではあまり見られない。各種の竹材の中で最も弾力性に富んだ性質を持つため、建築資材や楽器、花器、農具や漁具などの材料として使われる。
ハチクは、直径10cm、高さは15mにもなる。マダケよりも寒さに強く、北海道南部まで分布している。節の低さが特長。肉が薄く繊維が緻密で竹材中最も細く割りやすい性質から、茶筅 (ちゃせん) などの茶道具に利用されることが多い。
歴史に残る竹の名品
日本では長い歴史の中で、様々な竹工品がつくられてきた。そのほとんどが生活用具であったが、実用性と美しさを兼ね備えた名品が残されている。
「東大寺の華籠 (けこ) 」は、竹の薄板を編んでつくった籠で、仏教の儀式で撒く花びらを盛るために利用された。深めの形と浅めの形があり、底裏の墨書から聖武天皇の一周忌斎会に用いられたと考えられている。
「法隆寺の竹厨子 (たけずし) 」は、奈良時代の経巻を納めた竹製の厨子で国宝に指定されている。主に中国南部に自生する篠竹 (すずたけ) の一種と考えられる竹が使われ、屋根や柱の修理箇所には日本産の竹も見られる。法隆寺献納宝物の一つで、法隆寺東院伽藍を建立した行信 (ぎょうしん) 僧都が、聖徳太子の様々な遺品とともに奉納したと言われている。
千利休の竹花入「園城寺」は、千利休が小田原攻めに同行した際に、伊豆韮山 (にらやま) で採った竹に一重の切り込みを入れたもの。表面の千割れを園城寺の釣鐘の割れにちなみ、園城寺と名付けられた。利休の侘び茶の美意識を投影した名品として名高い。
日本文化に欠かせない存在
竹は、木材や石材と同じように身近な素材として古くから様々な用途に用いられてきた。その歴史は縄文時代にまでさかのぼり、底面に網代 (あじろ) の痕がついた縄文式土器が発掘されたり、青森県の是川遺跡の竹で編んだ器に漆を塗り重ねた籃胎漆器 (らんたいしっき) が出土したりしている。
竹は腐朽しやすい性質から、生活道具としての竹工品はほとんど残っていないが正倉院に収められた多くの竹工品から様々なものがつくられていたこと、それに伴って技術も発達したことが伺える。その後も、日本各地でそれぞれ特色のある竹工品が発展。奈良県の高山茶筅、静岡県の駿河竹千筋細工 (するがたけせんすじざいく) 、岡山県の勝山竹細工、大分県の別府竹細工が伝統的工芸品に指定されている。
竹の使い道あれこれ
かご?ざる?違いと、いま人気の竹かご
竹工品の身近で代表的なものに「かご」と「ざる」がある。違いは深さにあるとされ、深いものをかご、浅いものをざると呼ぶことが多いが、実は編み目に違いがある。
かごは、ざるよりも編み目が大きく、四角 (四つ目編み) や六角 (六つ目編み) 形の目の多い編み方のもの。ざるは、畳表のように隙間なく編まれる。
かごは、農作物などの収穫物や落ち葉を入れて運ぶための道具として、編み目が細かく中に入れたものが漏れないざるは、米研ぎや水切りなど調理器具として使われることが多い。どちらも、生活や農業や漁業で必要とされる実用的なものだったが、現在はおしゃれ目的やインテリアなど利用の幅は広がっている。
青森県のりんごかごは、もともとはりんごの収穫に使われていたが、サイズや形を増やしたことで農家でなく一般の方が愛用されるようになる。今では注文しても3、4ヶ月待ちという人気ぶり。静岡県で江戸時代から続く駿河竹千筋細工の虫籠は、料理の器やインテリアなど使い方は様々。ドバイのホテルから注文を受けるなど、その美しさは海外にも認められている。
青森のりんごかご
駿河竹千筋細工の虫籠
愛媛県で地元の人がお風呂に通うために使われていた湯かごは、道後温泉で過ごした思い出を持ち帰る土産品として人気が高い。沖縄県で唯一の竹細工職人がつくる竹かごは、実用品から装飾品へ変化。雑貨入れや花器といった見せるインテリアとしても使える美しい形が評判になり、全国から製作依頼が舞い込んでいる。
<関連の読みもの>
青森生まれの「りんごかご」は業務用なのに愛らしい。唯一の作り手、三上幸男さんを訪ねて
https://sunchi.jp/sunchilist/hirosaki/102488
虫の音を愛でる日本人が生んだ、芸術品のように美しい虫籠
https://sunchi.jp/sunchilist/shizuoka/25460
道後温泉名物、浴衣に似合う「湯かご」とは?
https://sunchi.jp/sunchilist/ehime/10821
ただ一人の職人が受け継ぐ竹細工。「1年待ちの竹かご」が生まれる沖縄の工房
https://sunchi.jp/sunchilist/okinawa/63605
竹はそのまま加工するだけでなく、割ったり剥いだりした竹ひごを使えば、自由自在の形をつくり出すことができる。そのため竹は、様々な工芸品において重要な役割を果たしている。
例えば、扇子や団扇、和傘には竹の骨組み、筆の軸、そろばんの珠を通す軸には竹ひごが欠かせない。また、縁起物を取り付ける熊手も竹でつくられている。
<関連の読みもの>
・熊手:酉の市の熊手
新年の開運招福、商売繁盛を願う「酉の市」に欠かせない熊手を、120年以上つくり続ける東京都足立区「熊手工房 はしもと」
https://sunchi.jp/sunchilist/tokyo/42896
・和傘:岐阜和傘
「開けば花、閉じれば竹」美しき和傘の産地・岐阜和傘の職人、河合幹子さんの仕事
https://sunchi.jp/sunchilist/gifu/114075
・扇子:京扇子
京都らしく雅な絵柄が特徴。平安貴族にとって一種のステータスシンボルであった京扇子。
https://sunchi.jp/sunchilist/tokyo/27423
・筆:奈良筆
材料の選択から仕上げまでが全て職人の手作業。空海ゆかりの歴史を持つ伝統工芸品。
https://sunchi.jp/sunchilist/narayamatokooriyamaikoma/114069
・そろばん:播州そろばん
珠や竹ひご、それぞれの職人が仕上げたものを組み合わせて完成する、兵庫県小野市の播州そろばん。
https://sunchi.jp/sunchilist/hyogo/89249
・うちわ:丸亀うちわ(香川)
愛媛の「伊予竹」と高知の「土佐紙」でつくられる。国内シェア9割を誇る香川県丸亀の丸亀うちわ。
https://sunchi.jp/sunchilist/marugamekotohira/14896
竹といえばこの人。発明王・エジソンと京都の竹の意外な関係
トーマス・アルバ・エジソンは、蓄音機、白熱電球、キネトスコープ(映写機)をはじめ数多くの発明品で知られるアメリカの発明家。三大発明のうちの一つ、白熱電球に日本の竹が深く関係している。
白熱電球はフィラメントとガラス球、口金で構成され、フィラメントに電流を流すことで光を発する。エジソンは、木綿糸を処理したフィラメントでカーボン電球の点灯に成功したが、さらに寿命の長いフィラメント材料が必要だった。
そこで世界各地から6,000種以上の植物性物質を収集するなか、たまたま目に留まった扇子に使われていた竹の繊維が優れていることを発見。すぐに日本と中国にスタッフを派遣し、各地の竹を試した結果、京都八幡のマダケが最も適していることがわかる。
そこで日本の竹が、アメリカでつくられるカーボン電球のフィラメントとして約10年間使われるようになった。その後、さらに良い材料を求めてブラジルやベネズエラも調査されたが、日本の竹より優れたものは発見できなかったと言われている。
<関連の読みもの>
エジソンが電気の発明に使った京都の竹は、食べ物にも武器にもなる
https://sunchi.jp/sunchilist/kyoto/71242
竹なくして語れないお茶道具の世界
日本の伝統文化の一つ、茶道も竹と深い関わりを持っている。抹茶を点てるための茶筅にはじまり、抹茶を取り出す茶杓 (ちゃしゃく) や茶入れ、花入れ、花籠、柄杓 (ひしゃく) 、蓋置きとあらゆる茶道具に用いられている。
茶道を大成した千利休は、素朴で侘びた風情を持つ竹工品に自身の美意識を投影したとされ、竹を使った花入はあまりにも有名。
しかし利休は茶室を演出するものより、茶道には基本の道具こそ重要だと考えていた。利休の教えをまとめた『利休道歌』に「水と湯と茶巾茶筅に箸楊枝 柄杓と心あたらしきよし」という歌がある。
あるお茶人が利休にお茶事に使う道具と整えて欲しいと頼んだ際に、利休がただ新しい茶巾を送り、『これでお茶ができる』と答えたと言う。ピンとした茶巾と、真新しい削りのきれいな茶杓、美しい作りの確かな茶筅のないお茶会は、茶碗の名品があったとしても恰好悪いものであり、お客様のためには基本の道具こそを気を配ることが大切である心構えを示している。
茶筅は、使うと閉じられた穂先が開いてしまうため一度しか使えない消耗品とされる。しかし茶道は一度きりの機会に情熱を傾け、入念な美しさを求めるものであり、茶人らは、竹の種類や穂先の本数、色や形など、各自こだわりを持って選んだ茶筅を使う。そんな茶道文化が花開いた京都や奈良は、茶道具の産地として発展を遂げた。
<関連の読みもの>
かつては夜中に作られていた?一子相伝で受け継がれてきた茶筅づくりの現場へ
https://sunchi.jp/sunchilist/narayamatokooriyamaikoma/35670
竹工の歴史
◯ハレの日も日常も活用。縄文時代以前からの説も
竹は遺跡の出土品から縄文時代から使われていたとされているが、竹工品は土中では腐朽しやすいため明確な起源はわかっていない。縄文時代より前にも、病気回復を祈る呪術道具や祭りに使う楽器、踊りの装身具、容器などに使われていたと考えられている。
◯楽器や仏具などの美術品。建築材としても活躍
奈良時代の美術工芸品を収納する正倉院には、竹工品も数多く保存されている。尺八や笙などの楽器や武器、筆や巻物を包む簾といった文房具、華籠 (けこ) のような仏具など、その種類は豊富。また、竹は建築材としても利用された。長岡京の遺構からは、排水溝に使われていたマダケが発掘されている。
◯侘び茶が流行。茶人に愛され、竹の茶道具が発展
平安時代から室町時代にかけて、茶道が盛んになるにつれ、竹筒の節を利用した茶入や水指、花入などの茶道具は焼き物と並んで重宝された。千利休も庶民が日常的に使っていた器に美を見出し、竹の茶道具や花器を愛用。竹は生活道具としてだけでなく美術品としてめざましい発展を遂げる。一方、竹槍など戦いのための武器にも使われていた。
◯各地で竹工芸産地が形成。多様な個性を育む
江戸時代は、竹工品の種類や技法が増加。各藩で産業振興が奨励されたことも手伝って、他の工芸と同じように日本各地で現在まで生産が続く竹工品が生まれた。デザイン性も高まり、紫黒色が美しいクロチクは茶室の窓枠などの室内装飾品に、雲状の斑紋があるウンモンチクは模様美を活かして工芸品にと、それぞれ用途にあった種類の竹が使われた。
◯終戦後、生活道具はプラスチックへ
明治時代には、カゴやザル類、食器や掃除道具などの生活用具から、スキー板やスケートの刃といったスポーツ用具まで、数え切れないほどの道具の素材に竹が使われていた。しかし、第二次世界大戦後の1960年代、マダケが数十年に一度の開花時期を迎えたことで枯れてしまい、竹工品が生産できない状態に。それをきっかけとして、多くの竹工品は当時急速に発達してきたプラスチック製品に置き換わっていった。
◯手仕事として再注目。新たな展開も
経済発展とともに産業の機械化が進む一方、柳宗悦や濱田庄司らによって名も無き職人の手から生み出された日常の生活道具を評価する民藝運動が起こる。一つひとつ手作りされた身近な竹工品は民藝として評価され、再び関心が寄せられるように。現在も日用品としての竹工品は海外からの廉価品でまかなわれていることがほとんどだが、これまで培ってきた知恵や技術を活かした竹工品も誕生している。
現在の竹工
竹工は、竹林の荒廃や技術の後継者問題やなど課題は多い。伝統にとらわれず現代の暮らし、価値観に合わせた商品づくりで注目を集めたり、用途を変えて活躍したりする竹工品もある。
沖縄では日用品から装飾品へシフト。料亭などの盛り付け用の器や雑貨入れ、花器など時代に合わせた竹工品が評判を呼んでいる。鹿児島県では、豊富な資源をもとに用途に合わせた様々なかごを生産されてきた。そのうちの豆腐用の容器として使われていたかごが、サンドイッチかごとして再注目されている。さらに抗菌・消臭作用があることから、消臭剤や建築材など竹は見直されつつある。
<関連の読みもの>
すぐに売り切れる「サンドイッチかご」。創作竹芸とみながの竹かごが長持ちする理由
https://sunchi.jp/sunchilist/satsuma/51173
ただ一人の職人が受け継ぐ竹細工。「1年待ちの竹かご」が生まれる沖縄の工房へ
https://sunchi.jp/sunchilist/okinawa/63605
ここで出会えます、日本の竹工品
・りんごかご(青森)
「三上幸男竹製品販売センター」
青森県弘前市愛宕山下71-1
TEL:0172-82-2847
https://sunchi.jp/sunchilist/hirosaki/102488
・湯かご(愛媛)
「竹屋物産株式会社」
愛媛県松山市道後湯之町6−15-1F
089-921-5055
http://www.takeya.com
https://sunchi.jp/sunchilist/ehime/10821
・サンドイッチかご(鹿児島)
「創作竹芸とみなが」
鹿児島県鹿児島市鷹師1-6-16
099-257-6652
https://sunchi.jp/sunchilist/satsuma/51173
<参考文献>
・農文協 編『生活工芸大百科』農山漁村文化協会(2016年)
・柳 宗理・渋 谷貞・内堀 繁生 編『木竹工芸の事典(新装版)』朝倉書店(2005年)
・深津正 著「エジソンの電球発明と日本の竹」『照明学会雑誌』(1979年)63巻10号 pp.592-597
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jieij1917/63/10/63_10_592/_pdf/-char/ja
・農林水産省「竹のおはなし(2)」
https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1301/spe1_02.html
・林野庁「竹のはなし」
https://www.rinya.maff.go.jp/j/tokuyou/take/index.html
・別府市竹細工伝統産業会館「竹について」
https://www.city.beppu.oita.jp/06sisetu/takezaiku/03learning/01about_bamboo/index.html
(以上サイト最終アクセス日:2020年6月9日)
<協力>
京都市洛西竹林公園 竹の資料館
http://www.rakusai-nt.com/tikurin/B.html
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